【解説】台風/大規模断水 自衛隊への災害派遣要請は遅れた?静岡市・県の初動対応は

記者 三浦佑一
2022年10月6日 午後7:42 公開

(2022年10月6日放送)

12日がたった10月6日の時点でも復旧に至っていない静岡市清水区の大規模な断水。自衛隊を呼ぶのが遅かったのではないかと指摘する意見をよく聞きますが、実際、どうだったのでしょうか。静岡市と県の対応を取材している記者が解説します。

(取材・解説/三浦佑一)

(記者)

まず台風接近からの動きを振り返ります。

台風15号が県内に接近したのは9月23日の夜からです。静岡市清水の観測地点では、23日夜6時から翌朝にかけての12時間の降水量が306ミリと、9月・1か月の平年の降水量を超える雨が一晩で降りました。

(キャスター)

線状降水帯が発生したんですよね。

(記者)

はい。清水区の断水は、この雨で川の水位が大幅に上昇したことが原因です。主な水源である興津川で上流から大量の流木や土砂が流れて下流にある取水口を塞ぎ、これで取水口からつながる浄水場に水が送られなくなり、清水区の5万8500戸が断水となりました。さらに、興津川の上流の山あいでは水道管が通る橋が流され、4500戸で断水しました。

(キャスター)

いずれも川の増水という、やや特殊な原因で断水したわけですね。

(記者)

こうした事態の中、断水解消の見通しが立たず、市民の間では自衛隊に期待する声が高まっていました。24日から、2日後の26日午前中に県が自衛隊を要請するまでの間に、静岡市や県に寄せられた「早く自衛隊を呼ぶべきだ」とか「市の初動対応が遅いのではないか」といった意見は100件を超えたということです。

(キャスター)

ところが、土日の間は自衛隊は来なかったわけですね。

(記者)

自衛隊の災害派遣は都道府県知事が要請すると自衛隊法で定められています。ただ県は、この要請は基本的には市長や町長の要求を受けて行うとしています。

(キャスター)

つまり清水区の断水で自衛隊の派遣を求めるかどうかはまず静岡市長の判断が鍵だったわけですね。初動が遅いという意見も寄せられていたということですが、田辺市長はどう対応していたのでしょうか。

(記者)

その田辺市長の初動をまとめました。

24日(土)。午前中は街なかも停電する中で、自宅から電話で市の担当者からの報告を受けていたといいます。そして正午ごろに市役所に登庁し、13時に対策本部を設置して情報収集と報告を指示。午後5時前まで公務にあたっていたということです。

翌日25日(日)は、午前中は当初の予定通りの公務に当たっていたといいます。具体的には、午前10時から葵区の敬老会に、午前11時からは清水区で花火を打ち上げる伝統行事の開会式に出席しました。これについて田辺市長は「現場に行く状況がそろうのがお昼からだったので、午前中有効に時間を使わせてもらった」(10月5日の発言)と述べています。そして正午ごろから清水区の断水や葵区の被害状況を視察して、午後5時ごろに市役所に戻り、被害状況の報告を受けて、午後9時半ごろに帰宅したということです。

(キャスター)

災害の対応と通常の公務、同時並行で取り組んでいたと。では意見が相次いだ自衛隊への派遣要請はどう考えていたのでしょうか。

(記者)

静岡市は、取水口に詰まった流木などの撤去や給水活動のために自衛隊派遣を要請するか、検討や議論はしていたと説明しています。しかし結局、この土日の2日間は「自衛隊を要請する必要はない」と判断したということです。

この理由については、県が今月3日に公表した見解の文書が参考になります。

文書は、防衛省が「自衛隊の災害派遣の3原則」とするルールに照らし合わせた県の見解を示したものです。

(キャスター)

3原則、ですか。

(記者)

けがをしたときに毎回救急車を呼ぶかどうかと同じで、自衛隊も何でもかんでも呼ばれては困るので、必要性を考えてもらうために示している要件です。

まず「緊急性」。県は、断水については「給水車が対応し、直ちに生命の危険が生じている状況ではない」として、緊急性を満たしているという判断には至らなかったとしています。

2つめの「公共性」については「あり」と判断。

そして自衛隊でしか対応できない場合を指す「非代替性」について、断水は「対応力を超える場合は自衛隊の支援を要請」などとしています。結局、県は静岡市からの要請がなかったこともあり、要件を満たすとは判断しなかったとしています。

これについて川勝知事は「要請がこなかったのでどうなっているのかとじりじり待っていた」と述べています。

(キャスター)

静岡市はどうして要請しなかったのでしょう?

(記者)

県の見解にもある3原則の1つ「非代替性」、自衛隊派遣以外に方法がないと言えるかどうかという点で、「言えない」と判断し要請をしなかったということです。というのも、静岡市は取水口に詰まった流木などの撤去を25日日曜日から職員や委託業者の手で、つまり自力で撤去を始めていたそうです。

市は「まず自分たちでどうするかを考えなくてはならない。あまり広くない場所なので人数も入れなかった」として、判断は妥当だったとしています。

しかし結局、26日(月)午前8時半に開かれた静岡市の会議で「各地で水が足りないので自衛隊にも給水をお願いしよう」という意見とともに「取水口の対応も依頼しよう」という話にもなり、県を通じて自衛隊派遣を求めることが決まり、すぐに県に要求したということです。

自衛隊は午前10時25分に県の要請を受けてその日のうちに市内で病院の給水支援に当たり、翌日27日(火)午後6時半には30人体制で川の取水口の流木や土砂の撤去を始めました。それまでも市側である程度流木を取り除いていたということですが、自衛隊はおよそ6時間で撤去を終え、手際のよさが印象付いた形になりました。

(キャスター)

こう聞くと静岡市が何もしていなかったわけではないことはわかりますが、とにかく早い断水解消を願っていた市民が、もっと早く自衛隊に来てほしかったと思うのは当然でしょうね。

(記者)

市は今回は「まずは自分たちでどうするかを考えた」ということですが、自衛隊は災害ごみの撤去など、市や民間ができることでも柔軟に支援活動をしています。次の災害に備えるためにも検証が必要です。

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