「大河ドラマ」ゆかりの地をめぐる演奏に秘められた思い(2022年8月12日放送)

牧本真由美
2022年8月26日 午前9:25 公開

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見ているあなた、ぜひ、そのあとに放送中の、ゆかりの地を紹介する番組「大河紀行」の音楽に耳を傾けてみてください。

7月中旬から放送中の音楽を担当しているのは、浜松市に暮らす演奏家です。表しているのは、謀略の中で姿を消していく重要な人物たちの無念さ。実は、その演奏には、ある強い思いが込められているのです。(記者 牧本真由美)

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のゆかりの場所をめぐる大河紀行。先月中旬の放送から流れている幽玄な音楽は、テルミンという楽器で演奏されています。演奏をしているのは、浜松市に暮らす竹内正実さんです。

「テルミン」は電子楽器です。垂直と水平方向に伸びる2本のアンテナで目には見えない電磁場が作られていて、直接手を触れることなく近づけたり遠ざけたりすることで音階と音量を調節します。

竹内さんは、テルミンの世界的奏者で、日本をはじめ海外でもコンサートを開いてきました。しかし6年前の冬、クリスマスに開いたコンサートで脳出血を発症。右半身にまひがのこり、これまでのような演奏はできなくなりました。

「私は右利きで演奏してきたんですけれども、右が麻痺しているというのは、演奏家にとって本当致命的です。演奏者としての道が 絶たれてしまったかなと悲観しました」

“それでもテルミンを演奏したい”そこで考えたのが、左右の手の役割を入れ替えることです。病を患う前は、右手が音の高さ、左手が音量をつかさどっていました。そのテルミンをくるりと回転。繊細さが必要な音の高さは左手に託し、右手で音量調節をすることにしたのです。それでも、まひした右手は思うようには動いてくれませんでした。

“諦めたらテルミン奏者に戻れない。だからやるしかない”。そう心に決めた竹内さんは、全身の筋力を鍛え始めます。懸垂にスクワットもこなしました。一方で演奏には「柔軟さ」も重要なので、自作のグッズで肩甲骨まわりを緩めるトレーニングも繰り返しています。そうするうちに少しずつ動けるようになってきましたが、演奏となると簡単ではありませんでした。

「それぞれの腕に染みついた記憶が邪魔をします。右手は音量を制御しているんだけど、演奏していると音の高さを変えるようなことに なっちゃうんです。頭の中の混乱が一番難しくて。私にとってはテルミンが奏でられるということが全てで、それがあるから生きて、、、」

奮闘する日々の今年2月。飛び込んできたのが大河紀行の演奏の依頼でした。まだ思うような演奏はできていませんでしたが、制作サイドから謀略や裏切りで亡くなる多くの御家人や源義経の「無念さ」を音楽で表して欲しいと言われ、その演奏ができるのは自分しかいないと思い決断しました。練習を重ねて臨んだ収録。その演奏は60回以上になったといいます。

「一番うれしかったのは、作曲家とディレクターの人、番組ディレクターの人にオーケーをもらったこと。そして、オーケーをもらった録音テイクを、私は昔からそうなんですけど、繰り返し繰り返し飽きることなく聞くんです。あのときの愉楽は他ではかえがたいです。あの愉楽に再びひたれたということは、もう最大の喜びです」

竹内さんが本当の演奏家に戻るためにはもう一つ、乗り越えるべき壁がありました。それは人前での生演奏です。復帰後初のコンサート。舞台はショッピングセンターです。テルミンという珍しい楽器の紹介に買い物途中の人も足をとめて注目しました。

そして。やり直しがきかない一発勝負に挑みました。脳出血を煩ったことを知らない人にも、テルミンは美しい音色なんだなと感じて欲しい。その一心だったといいます。

観客は「すごいなって思います」「大河を思わせる流れを 感じました」「心がすごく癒やされる 音色でした。ほっとしました」などと感動した様子でした。

演奏を終えた竹内さんの言葉です。

「とりあえずは復帰に向けた第一歩は踏み出せました。しかし内容には 全然満足していないです。聞いている人が本当に美しいなと思えるような演奏をそれだけを求めてやっていきたいです。ある意味極めるって孤独なんですけど、それはテルミンの演奏でしかもたらされない大きな喜びで、それをこれからも本当に追い求めていきたいと思います」

大河紀行の演奏には、竹内さんのこんな熱い思いが込められていたのです。命を落とした重要人物たちの「無念さ」を伝えるというのは竹内さんだからできた部分なのかもしれないと思いました。竹内さんは、今後、日本国内をめぐるテルミンのコンサートを計画しているそうです。一層の活躍を期待しています!

【動画】