自宅療養の末の死 自問続ける遺族(2022年4月21日放送)

記者・三浦佑一
2022年4月21日 午後8:14 公開

ことし2月、静岡市の住宅で、新型コロナウイルスに感染した知的障害のある24歳の男性が亡くなりました。男性は死亡する4日前、40度4分の高熱を出して救急搬送されながらも、希望していた入院はできず、自宅療養をしていました。

いつも笑顔で周りの人を和ませたという男性。命を守るためにもっとできることはなかったのか、弟と父親は、自問を続けています。

(記者・三浦佑一)

【親子3人の生活が】

笑顔を見せながら、福祉施設のスタッフの手を引く、藤澤大眺さん。ことし2月に新型コロナウイルスへの感染が確認されたあと、自宅で亡くなりました。24歳でした。

大眺さんの弟の雄偉さん。1年半前に母親を病気で亡くし、兄と、父親の大輔さんの親子3人で過ごしてきた生活が、コロナをきっかけに失われました。

(亡くなった藤澤大眺さんの弟・雄偉さん)

「とにかくみんなに愛されていて。みんなも兄のことをすごく愛してくれていて。僕に対してはすごく甘えてくるんですよね。本当に、自分にとっては本当に一番の存在です」

(大眺さんの父親・大輔さん)

「私自身も、私の周りの友人も、私生活で嫌なことがあっても大眺の笑顔を見ると癒やされる。すごくみんなの力になってくれていた」

【大眺さんのため 施設設立】

生活の中心には、いつも大眺さんがいたといいます。

重い知的障害がある大眺さんが安心して過ごせる場所を作ろうと、5年前に親子で障害者支援施設を設立。弟の雄偉さんが運営を担い、ほかの利用者やスタッフとともに、笑顔があふれる日々を送っていました。

大眺さんを失ったショックで、今は施設を閉鎖しています。

(弟・雄偉さん)

「兄が安心できるところを作りたいと思っていたので。『お兄ちゃんってどんな人だったの』って聞かれると、そのたびに涙を流してしまうので、前みたいにやるというのは今はちょっとまだ難しいのかなと思っています」

【入院希望かなわず つきっきりの看病】

大眺さんは2月12日に高熱を出し、搬送先の市立静岡病院で新型コロナ陽性の判定を受けました。この時の体温は、病院側の記録で40度4分でした。大眺さんはことばで症状を説明することはできませんが、激しく水を飲みたがるなど苦しさを訴えていたといいます。

付き添った雄偉さんは、入院の希望を伝えました。しかし病院側からは解熱剤を処方され、自宅療養を求められました。

自宅に戻った大眺さんのために、雄偉さんと大輔さんは仕事も休んで、食べやすい食事の用意や冷却シートを体に貼るなど、つきっきりの看病を続けました。

【安心もつかの間 容態急変】

4日たった2月16日。熱が37度台に下がり、家族が安心したのもつかの間。大眺さんが突然意識を失いました。脈や呼吸も止まっていました。そばにいた雄偉さんは救急車が来るまで、心臓マッサージを続けました。

しかし、その後も大眺さんの意識が戻ることはなく、病院で死亡が確認されました。

(父親・大輔さん)

「最後16日に、お昼前に体温測ったときに、37度4分だったんですね。(雄偉さんと)2人で話をして『あれ、熱が下がってきた。もしかしたら明日あたりお散歩行けるかも知れない』って。あのとき体温が下がったのは、よくなるんじゃなくて、死に向かっていたんだなって。死ぬから体温が下がっていたんだなって、あとで気付きました」

【病院側「コメント差し控える」】

なぜ病院側は大眺さんに入院してもらう判断をしなかったのか。障害があることは考慮しなかったのか。市立静岡病院はNHKの取材に対し「個別の患者への対応についてはコメントを差し控えたい」と回答しています。

【遺族 説明を求め続ける】

雄偉さんと大輔さんは、病院側に説明を求め続けていくつもりです。

(弟・雄偉さん)

「入院していればほんの少し、1でも2でも3でも数値が低くなったら、すぐに看護師さんが来て『いま大眺さん危ないよ』『これやったほうがいいよ』という指示ができたんじゃないかと思います。それをやってもらっていれば、兄は今でも事業所のほうに通ったりとか、いっしょに『桜散ってきたね、でも風が気持ちいいね』と、いつもと変わらない日常が過ごせていたんじゃないかなって」

【解説】

(キャスター)

亡くなった大眺さん、笑顔がすてきな方で、動画や写真からも、周りの人から大切に思われていたことがよくわかりますね。

(記者)

元気だったときの大眺さんの写真をたくさん見せていただいたのですが、周りにも笑顔を広げるような明るい表情ばかりでした。

コロナで苦しんでいたときも、家族を心配させないようにするためか「無理に笑顔を作ってようだった」と、弟の雄偉さんは話していました。

(キャスター)

年明け以降感染が拡大したオミクロン株は、若い人は重症化しづらいと言われていますが、24歳という若い方でも亡くなるという現実があるんですね。

(記者)

自宅療養の4日間、雄偉さんと大輔さんは、食べ物を飲み込むのもつらそうな大眺さんのそばで、自分たちで熱の下げ方を調べながら看病を続けたそうです。それでも大眺さんが亡くなったことに「あれ以上何をすればよかったのか。病院にもっと強く入院を求めるべきだったのか」と後悔し続けているといいます。

大眺さんが最初に救急搬送された2月12日は、感染拡大の第6波のさなかで、静岡県中部の病床使用率は66点2%と高い状況でした。とはいえ、40度台の高熱の一方で、症状や欲しいものをことばで伝えるのが難しく、苦しいと自分の腕をかんでしまうこともあったという大眺さんの自宅療養は、本人にとっても家族にとってもつらい状況だったと思います。

(キャスター)

知的障害があったということですが、コロナに感染した時のリスクは高いのでしょうか?

(記者)

海外の研究では、身体的な障害がなくても知的障害はコロナで重症化する要因になるという報告があり、厚生労働省はリスクの高い「基礎疾患」として捉えるという考え方を示しています。

遺族は病院側に説明を求める協議を続けるということです。

また、県内ではすでに第7波に移行し、いつまた病床がひっ迫するかわからない中で、障害などさまざまな患者に寄り添った対応が十分に出来るのか、検証が必要だと思います。

【動画はこちらから】