(2022年9月29日放送)
古い建物を改修し、活用する「リノベーション」。沼津市では、この5年あまりで40件を超える建物が交流の場や飲食店などに生まれ変わりました。
その一部を手がけているのが地元の商店街などで作る団体。ある仕組みで、空間までリノベーションし、全国から注目を集めています。町に活気を生み出そうという新たな取り組みを取材しました。
(沼津支局記者 吉田渉)
沼津市の中心部を流れる狩野川のほとり。昼下がりには多くの人が集まります。キッチンカーが並び、食事や会話を楽しむ人々。川沿いの空間は憩いの場にリノベーションされました。
(訪れた人)
「こういった感じでにぎわうのもいい」
「風が気持ちいい。わざわざ来たくなる」
この風景を演出したひとり、小松浩二さんです。商店街の役員で、街のリノベーションを進める団体の代表を務めています。
小松さんは13年前、地元にUターンして青果店を開業しました。
イベントで商店街を盛り上げようとしましたが、うまくいかず、5年前、新たな発想が必要だと感じました。
(小松さん)
「イベントにはすごく人が来て僕らもパワーを使ったけど、日常になると人がいなくなってしまう。日常の不動産の活用だったりとかリノベーションという形で日常を豊かにする方法はありかなと思いました」
商店街がある沼津駅南側には多くのビルが建ち並びます。建築されてから60年、所有者の高齢化などで空き部屋が増えてきましたが、これがリノベーションには格好の素材だといいます。
小松さんは、空き部屋の大家と話しをしながら街を生かすリノベーションを考えてきました。
(小松さん)
「価値観を変えたりとか、こういう形だったら使えるねとかということで、空き家になるかもしれないところに可能性はあるかなと思って逆にすごいチャンスと思っています」
リノベーションの仕組みです。通常のリノベーションは、大家から直接入居者が空き部屋を借り、店舗を改修し、営業します。
これに対し、新たな手法は「家守」と呼ばれ、大家から家守が建物を借り上げ、店舗を改修したうえで入居者を募ります。
入居する業種をどうするか考え、街に適した空間を創り出します。
「家守」はいわば「町の風景のプロデュース」を担っています。
小松さんの団体が「家守」として手がけた商店街です。通りを挟んで2つのリノベーションされたスポットが向き合っています。
電気店の倉庫を改装して作られたダンススクール。床は張り替えずに磨き、空調や照明は必要最低限の改修で済ませました。
(ダンススクールの生徒)
「最高です。コンクリート打ちっぱなしとか天井が開けている感じが、逆におしゃれだと思います」
(ダンススクールの講師)
「日の光が入って気持ちいい。窓の形も今の建築にない。昭和レトロっぽくていいなと思います」
向かいにあるのはデザイナーのシェアオフィス。こちらはもともと理容室でした。
東京から沼津に活動の拠点を移した大木真実さん。家守が商店街との関わりも含めて入居者をサポートすることに魅力を感じたといいます。
(大木真実さん)
「商店街の空間にも知っているお店の人とのつながりがあったり、ひとりではできないような仕事や大きな地域の案件とかも、みんなでチームを作って取り組めるところがすごくいい」
取り組みは全国から注目を集め、リノベーションを手がける多くの人が沼津を訪れています。小松さんは具体的なケースを見てもらうため、ガイドも務めます。
空きビルの一角にオープンしたカフェでは店主が出店の理由を説明しました。
(カフェの店主)
「建物と町の相性も合って、ここに決めました。新築とか最近のものだとこの雰囲気は出せない」
(ツアーに参加した人)
「活気ある人たちが中心となって空き家を活用しているという活動は、すごく勉強になりました」
(小松さん)。
「面白い人が面白いことを実現する場所って必然的に魅力的なエリアになっていく。あそこの地域が面白いよってどんどん人が来て、今までの沼津とは違う風景や動きが出てくる」。
このリノベーションですが、建物にとどまらず、空間と人をつなぐ場でもあるようです。
いずれの店舗も経営は好調で、現在2件のリノベーションも進められているということです。