【解説】川勝知事とJR東海・金子社長が会談。背景は?(2022年9月13日放送)

NHK
2022年9月13日 午後8:19 公開

静岡県が着工を認めていないリニア中央新幹線の整備を巡り、JR東海の金子社長が川勝知事と2年ぶりに直接会談し、知事が提案する部分開業などを否定した上で、工事着工への理解を求めました。急きょ決まったトップ会談。背景には、最近の川勝知事の言動への困惑がありました。(県政キャップ・仲田萌重子)

(記者)

発端は、今年7月の「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」への加盟です。今回、静岡県は加盟にあたり、2つの意向を伝えました。

1つは、静岡工区も含む、現行ルートでの整備を前提にスピード感をもって取り組むこと、もう1つは、品川ー名古屋間を2027年に開業する、さらに2037年に大阪までの全線開業を目指す立場を共有することです。期成同盟会は、この意向を確認した上で、静岡県の加盟を認めました。

(キャスター)

県内での工事着工は認めないものの、リニア全体の早期開業については他県と足並みをそろえた訳ですね。

(記者)

そうなんですが、その後の知事の言動が関係者を再び困惑させることとなりました。加盟からおよそ1か月後の定例記者会見をご覧ください。

(川勝知事)

「目下の計画では2027年に名古屋と品川間を暫定開業するということでございます。甲府からその次につながる駅というのは、神奈川新駅ということになります。まずは2つの駅が結ばれれば、暫定開業も可能であるというふうに考えます」

(記者の質問)

「期成同盟会に入る条件として(2027年に)名古屋と品川間の開通を目指す文言があったと思うんですけど、知事の考えは矛盾しないか?」

(川勝知事)

「現実が合理的ですからね。そういうルートが設定されたと」(キャスター)この部分開業の計画は実際にあるのですか。

(記者)

現状ではありません。知事が急に言い出した形です。先行的な部分開業の区間とする山梨と神奈川間は、着工が認められていない静岡工区より工事が進んでおり、できる区間から暫定的に開業をしていくという考え方を押し出したとみられます。

このため、関係者は寝耳に水だったようで、JR東海の金子社長は「名古屋、大阪までの単位で開業しないといけない」、期成同盟会の会長である愛知県の大村知事も「部分開業では事業が成り立たない」と述べ、直後の会見で否定しました。

(キャスター)

全体での開業を目指すと言うことで同盟会に入ったのに、部分開業を発言し否定されたということなんですね。

(記者)

そうです。さらに、部分開業発言の2週間後の今月7日、川勝知事は「実現性を探る」として、神奈川県相模原市に建設中の新たな駅の工事現場を訪れました。その際、公式の視察ルートに入っていなかった車両基地の予定地を独自で訪れ、この車両基地について、懸念事項を伝える報告書を、同盟会に提出しました。

報告書の中で、車両基地の「用地買収が滞っている」とか、「仮に来年、工事に着手しても計画上の竣工は2033年になるのではないかと危惧している」と指摘して、2027年の開業には間に合わない見通しを示しています。

これに対して、用地取得を行う立場の神奈川県の黒岩知事は、「これまでにおよそ5割の地権者から土地を譲ってもらっている。JRは用地の取得ができたところから整備を目指しており、車両基地が全体のスケジュールに影響を及ぼすことはない」とコメントを出し、川勝知事の発言を否定しました。

(キャスター)

せっかく同盟会に入ったのに、沿線の自治体とかみ合っていないですね。

(記者)

そうなんです。川勝知事のこうした言動について、期成同盟会の関係者からは、「静岡が着工を認めずに開業が遅れる見通しなのに、他県の問題にすり替えようとしているように見える」とか、「それぞれの地域の問題は地域で解決するものであり、他県の知事が評価するものではない」など困惑の声が上がっています。

こうした中、JR東海の金子社長は知事の発言の真意を確認しようと訪れた訳です。

(キャスター)

それで2年ぶりの会談となったんですね。今後はどうなるのでしょうか。

(記者)

金子社長は改めて部分開業と車両基地の問題の2点について否定し、知事は納得せず、話し合いは平行線でした。知事周辺の関係者情報では、知事のリニア整備への否定的な考えは今も変化しているようには見えません。ただ、ほかの都府県との意見交換を精力的に行いたい考えは示しています。リニアの早期開業を約束した中で、どのように足並みをそろえていくのか、いまだ検討中の静岡工区の工事をどうするのか、どんな発信をしていくのか、知事の姿勢が問われていると思います。