震災11年・臨時情報と事前避難 予知と違いは?課題も(2022年3月10日放送)

記者・三浦佑一
2022年3月10日 午後8:04 公開

東日本大震災から11年。南海トラフの巨大地震に関連して国が発表する可能性がある「臨時情報」について考えます。(記者・三浦佑一)

【“臨時情報”と南海トラフ地震の歴史】

(キャスター)

まずなかなか馴染みがない「臨時情報」、どういうものなのでしょうか。

(記者)

東日本大震災後に注目されるようになった南海トラフの巨大地震。静岡県から九州の太平洋沖にかけての広い範囲を震源として発生することが想定されている地震ですね。この震源域全体が一気に揺れる可能性もありますが、過去の例を見ると段階的に地震が起きる場合もあります。

1854年には、まず震源域の東側でマグニチュード8.6の「安政東海地震」が起き、そのおよそ32時間後に西側でさらに大きいマグニチュード8.7の地震が起きました。

また1944年には、やはり先に東側でマグニチュード8.2の「昭和東南海地震」が起き、そのおよそ2年後に西側でマグニチュード8.4の地震が起きました。

(キャスター)

なるほど。6年前の熊本地震でも、最初の揺れの2日後に、さらに大きな地震が起きましたよね。

(記者)

そうですね。南海トラフの巨大地震は震源域が広大なだけに、段階的にずれ動くことが十分考えられます。そこで政府は震源域の半分が割れてマグニチュード8以上の地震が起き、2段階目の巨大地震に備えるべきと判断した場合、「臨時情報(巨大地震警戒)」という発表をして、次の揺れの前に避難することなどを呼びかけることにしました。

【「東海地震の予知」とはどう違う?】

(キャスター)

これは、地震の予知なんですか?

(記者)

予知とは似て非なるものと考えてください。静岡県内を中心に40年にわたって取り組まれてきた「東海地震の予知」は、国が地面の中のひずみを観測して、地上で何も起きていなくても「もうすぐ地震がくるぞ!」と発表するというものでした。でもこれは結局「現在の科学では無理だ」ということになり、5年前に運用が取りやめられています。

「臨時情報(巨大地震警戒)」という情報は、例えば、南海トラフの西側を震源とする巨大地震が起きて県内でもかなりの揺れが観測され、日本の太平洋沿岸ほぼ全域に津波警報や大津波警報が発表されて、沿岸部で避難が始まったあとに、国が「このあと静岡を含む東側の震源域でもう1回巨大地震が起きるかも知れませんよ」と発表するイメージです。

(キャスター)

最初の地震で日本各地に混乱や緊張が広がっている状態で「さらにもう1回」と発表されるんですね。静岡県民が長年教えられてきた「予知」とはずいぶん違いますね。

【「不確実」でも事前避難呼びかけ】

(記者)

もう1つ注意しなければならないのは臨時情報の「不確実性」です。

もう1度、過去の例。1回目の「安政東海地震」のあと2回目の地震はおよそ32時間後に起きましたが、「昭和東南海地震」のあと2回目の地震はおよそ2年後でした。いつ、どの瞬間に2回目の地震が起きるかは国も専門家も予想がつかなくて、数年後かも、数十年後かも知れません。あくまで「ふだんと比べて巨大地震が起きやすくなっています」という発表です。

(キャスター)

「数十年後かも」と言われると、どう捉えればいいのか難しいですね。

(記者)

国は「臨時情報(巨大地震警戒)」を発表した場合、社会や経済の活動はある程度維持しつつも、津波からの避難が難しい住民には1週間の「事前避難」を呼びかける方針です。具体的には最初の地震で高台に避難したあと、2回目の地震に備えて、自宅には戻らず親戚の家や避難所でしばらく過ごす、という動き方が考えられます。

この事前避難の対象となる地域は、津波の浸水想定区域の範囲などをもとに、自治体が指定します。

(キャスター)

県内ではどうなっているんでしょうか。

NHKが県内の沿岸の21の市と町に尋ねたところ、事前避難対象地域の指定については▼静岡市など12の市と町が「指定済み」と答えました。▼また7つの市と町は「検討の結果、指定の必要なし」と回答しました。このうち浜松市は「防潮堤が完成し、事前避難をする必要はないと判断した」、熱海市は「地震が起きてからでも避難できる場所を確保し、訓練もしているから」と説明しています。▼そして御前崎市と伊豆市は「指定が終わっていない」という回答でした。

このうち御前崎市の状況を詳しく取材すると、事前避難の難しさが見えてきました。

【“事前避難” 地域指定や備えは】

御前崎市の岬の部分、人口およそ4400の御前崎地区。

港の近くに住宅街が広がっています。南海トラフの巨大地震では、港の周辺で7メートルの津波が想定されています。高い防潮堤はありません。

「臨時情報」の制度導入から3年。市は住民の理解を得ながら慎重に事前避難の対象地域を指定しようと考えていましたが、コロナ禍で説明会などがほとんどできませんでした。

(御前崎市 小野絢也災害対策係長)

「臨時情報何ぞやっていうところから説明をしていかないと、浸透していかない。コロナで人集めができない中でどうして伝えていくか」

避難生活をどう維持するかも課題です。御前崎市の避難所には、地震後の1週間分を目安に食料などが備蓄されていますが、事前避難まで想定した量はありません。

(小野係長)

「例えば1週間めで地震が起きたときに、備蓄していたものを食べ尽くしちゃってるという話になると、そこからの避難が困ってしまいます。ご自分で食料などを準備して避難していただくというのが、やはり鉄則になります」

住民も困惑しています。御前崎地区の自主防災組織で中心的な役割を担う植田一さん。自分の家ですら備蓄の食料や水は家族4人が2、3日過ごせる程度です。1週間分の備蓄を地区の全世帯が用意するほど意識を高めるのは難しいと感じています。

(植田一さん)

「少しの人たちなら、そういう(事前避難に備えて備蓄する)意識を持ってくれてはいると思うんですけれども、『全体的にそろえなさいよ』っていうことは、なかなか難しいかなと思いますね」

【まずは親戚・知人の家で】

(キャスター)

確かに自治体が事前避難をする地域を決めるだけではあまり意味がなくて、住民が臨時情報の仕組みを理解して、備蓄など避難生活を過ごせる環境を自分たちも整える努力は必要なようですね。

(記者)

そのためにも県は、事前避難が呼びかけられたら、避難所よりも津波の心配が無い地域にある親戚や知人の家で過ごすことをまず考えてほしいと呼びかけています。その上で自治体には、身寄りのないお年寄りなどが安全に避難して過ごせる場所を確保することが求められます。

臨時情報と事前避難について、1回聞くだけではよくわからないと思います。このページを見返してください。また静岡県や気象庁、内閣府も臨時情報に関する資料をインターネットで発信していますので、一度ご覧ください。

【動画】