【リニア解説】山梨のボーリング調査巡り、静岡県と山梨県の議論が平行線に

NHK
2023年5月31日 午前11:09 公開

  リニア中央新幹線の山梨県で始まったトンネル工事のための前段階のボーリング調査を巡り、静岡県と山梨県の溝が広がっています。先週には、知事同士が直接対談しましたが、解決には至りませんでした。いま何が起きているのか。振り返ります。
(静岡県政担当記者・仲田萌重子)

【舞台は山梨のボーリング調査】

JR東海が始めた高速長尺先進ボーリング

(記者)
問題となっているのは、JR東海が町や山梨県に理解を得てことし2月から山梨県早川町で始めたボーリング調査です。リニアのルートに沿って掘削し、山梨県内の地質や地下水について調べるもので、調査の場所は、静岡県境からおよそ800メートルの地点から県境まで。現在は直径およそ12センチ程度の筒状の棒を地下で掘り進めています。
(キャスター)
この山梨県内のボーリング調査のことで、静岡県がJR東海に物申していることがあるんですよね。
【静岡県が3回、JRに懸念の文書発出】

静岡県がJR東海に発出した文書

(記者)
はい。去年の秋以降から静岡県はJRに3回、文書を送っています。
1回目が去年10月です。当時県のリニア担当だった静岡市の難波市長が退任直前に出したもので、「山梨県内のトンネル工事が県境付近に近づくほど、静岡県内の水を引っ張る量が増える」として大井川の水資源への影響を懸念する内容でした。
(キャスター)
「引っ張る」というのは山梨県側に流れていくという意味ですね。
(記者)
そして2回目がことし1月。この文書でも、「調査で静岡県の地下水が山梨県側に流出する」と懸念を伝えています。
こうした中、2月にJR東海がボーリング調査を開始。調査が県境から583メートルに近づいたあたりの、今月11日に3回目の文書を出し、「県境から300メートル以内のボーリング調査の中止」を要請したのです。

(キャスター)
はっきりと「中止」を要請しているんですね。それにしても、静岡県は、なぜここまで県外の工事を嫌がるんでしょうか。

【静岡県の主張“断層帯が水が山梨に”】

静岡県の主張

(記者)
静岡県は、静岡県側の地質がもろく、水を多く含む断層帯が県境をまたいで地下で山梨県側とつながっているという主張をしています。山梨県側だったとしても、調査で地下に穴を開けると地下水が水圧で引っ張られて、静岡側の水が山梨側に流れ込む可能性があるというのです。この断層帯は県境から約250メートル地点にありもちろん、実際に掘ってみないとわからない部分があるのも事実です。ただ、JR東海によりますと、これまでの調査で山梨県内で出た水は、週の平均で、多い時で毎秒0.0007トン、つまり700ミリリットル程度なんです。静岡県内のトンネルの本体工事では「大井川水系で毎秒2トンの水が減る」としたJRの試算結果に比べても、微々たるものになっています。

【山梨県の主張“科学的根拠を”】
(キャスター)
これについて、山梨県の長崎知事はどう言っているんですか。

山梨県の主張

(記者)
この静岡県の主張に苦言を呈している山梨県の長崎知事の主張は大きく2つです。
まず、JR東海に文書で要請した際に山梨県への説明がなかったことに「しっかりと事前に 調整をしていただきたい」と不快感を示しました。
もう一つは、調査により山梨県内で出た水について、「山梨県の水だというのが常識的な考え方」とした上で、「どれぐらいの量の静岡の水が山梨に流れてくるのか、科学的な根拠が必要だ」と述べました。

【対面…しかし議論は平行線】

そして先週、川勝知事と長崎知事が対面しました。

携帯番号を交換する静岡県の川勝知事(左)と山梨県の長崎知事(右)

(5月24日・関東地方知事会議)
都内で行われた関東地方知事会議で顔を合わせた2人。川勝知事は、山梨県に事前の相談もせずJRに文書を出したことを長崎知事に謝罪しました。その上で「ホットライン」として、携帯番号を交換したことをアピールしました。ただ、ボーリング調査の中止を求める文書は撤回しない考えを示しました。

これに対し、長崎知事は川勝知事と対面した2日後の知事会見で次のように述べました。

(5月26日・山梨県の長崎知事)  

「調査は進めていただかなければ困る。トンネル工事が安全に進めるための情報収集活動として調査は不可欠」

すると、川勝知事はきのうの会見で。

(5月29日・静岡県の川勝知事)  

「(静岡の水が流出する)懸念があるまま工事が進みかねないので心配している。中止か、進めるかと分かりやすいからそうなるが実際は反対している訳ではない」
知事はこのように釈明していますが、静岡県が中止の要請を続けているのは明らかなので、議論は平行線のままということです。

【山梨の水?静岡の水?】  
(キャスター)
そうですよね。文書は撤回しないのですよね。長崎知事のいう山梨県内で出た水は山梨のものという考えも理解できる気がしますが、静岡県は、山梨県内で出る水についてはどう考えているんでしょうか。

静岡県が中止要請を撤回にしない根拠の1つ

(記者)
川勝知事は、中止の要請を撤回しない根拠の一つとして、「県の専門部会の専門家から山梨県の水が静岡県の水か分かる方法が提案されたので、JR東海に検証して欲しい」と主張しています。ただ、県の担当者によりますと、この主張の根拠としている、専門家の発言はあくまでも、「山梨県だけでなく県境付近や静岡県内でも調査を行う前提」で、そうすれば「地下の、どの範囲の水が流れ出たのか推定できる」というものです。
そうなると静岡県内での調査も認めてないのに、検証を求める川勝知事の発言は、ずれているようにも感じます。

(キャスター)
今後の展開はどう見ていますか。

【あす、リニア期成同盟会】

まもなく県境まで300メートルに達するボーリング調査

(記者)
ボーリング調査は、今月27日時点で県境まで459メートルに迫っていて、まもなく300メートルに達する見込みですが、JR東海は、水の流出量が基準を超えた場合、調査を中断するなど条件付きで慎重に進めていく考えです。
静岡県と山梨県の議論が平行線の中、あす、リニアの早期開業を目指す建設促進期成同盟会の定期総会に川勝知事が初めて対面で出席します。
山梨県の長崎知事を始め、多くの知事が顔をそろえる中どのように議論されるのか注目されます。  

(動画はこちらから)