今月6日、静岡の「時間と空間」をテーマに作曲されたオーケストラ曲が披露されました。この曲は、毎年1曲ずつ制作して最終的に「静岡3部作」になるという、4年前に始まったNHK交響楽団とのプロジェクトの最後を飾る3作目でした。作曲家がこめた静岡への思いを取材しました。
(記者・城山海人)
手がけているのは野平一郎さん。パリ国立高等音楽院に学び、数々の音楽賞を受賞した作曲家です。静岡音楽館AOIの芸術監督で、6年前に県文化財団からの作曲の依頼を快諾しました。富士山や駿河湾など静岡が誇る風土が作られてきた長い年月をイメージしました。
(野平一郎さん)
「静岡っていうものは、一体どういう地方、地域なのかということを考えて時間とそれから空間というこの2つの抽象的なテーマですけど、これに絞って3曲を作ろうというふうに思いました。作曲の依頼を)すごく感謝してますし、これがなかったら、この5年の創作というのが自分にとっては相当貧乏な貧相なものになったかもしれない」
野平さんが3作目のテーマに選んだのは、5年前に亡くなった、静岡が生んだ日本を代表する詩人、大岡信さんの詩でした。学生の頃から惚れこんでいたという詩の合唱を取り入れることにしたのです。
「時は涯(はて)ない 時はない」
「山林は眺望を生み 眺望は人を養ふ」
大岡さんが、「時間と空間」や富士山について詠んだ詩です。
(野平さん)
「大岡さんの詩は、ことばがものすごいイメージを持っているんです。ことばがことばの意味だけじゃなくてそこから噴出するイメージが、これほど僕は音楽的な人はいないと思ってます」
歌うのは地元、静岡でおよそ80年間活動する静岡児童合唱団。
静岡の未来を担う子どもたちが時間を表現します。
本番前日に行われたリハーサルで、初めて合唱団とN響が合わせました。
(静岡児童合唱団)
「今回はオーケストラでN響と一緒に歌うことができてとても幸せ。うれしい」
「私たちの静岡というイメージがあるので大岡さんの詩を体で感じてほしい」
迎えたコンサート当日。会場には、およそ400人が集まりました。
冒頭で野平さんが仕掛けます。児童合唱団のメンバーが小石を打ちながら登場。
楽器でも時間を表現しようと原始的な打楽器として小石を使ったのです。
【時は涯(はて)ない 時はない】
【山林は眺望を生み 眺望は人を養ふ】
【火と水の二大元素がきみの深い下腹部の容器の中で】
大岡さんが詠んだ富士山が持つエネルギーを表現しました。
(観客)
「新しい企画で斬新ですばらしいね。静岡の財産になる」
「石を使う音が独特でそういう音を思いついたなって。正直びっくりした」
(野平さん)
「3部作をこれでもうしぼんで終わるんではなくて、コロナ禍で頑張っていこうみたいな意思表示みたいなものになるかなと思って、そういったエネルギッシュな感じで終わりたいなと思って。この静岡とのご縁は、もし続けば、ずっと続けていきたいというふうに思っています」