スノーボード・三木つばき選手 温暖な掛川に冬季メダルを!

キャスター・各務梓菜
2022年1月13日 午後8:32 公開

(2022年1月13日放送)

100分の1秒を争うスノーボード・アルペン。回転しながら急な斜面を滑り降りる、ラストまで何が起こるか分からないスリリングな競技です。この競技で、2022年2月の北京オリンピックでメダル獲得を狙うのが、日本の若きエース、掛川市出身の高校3年生・三木つばき選手(18歳)。三木選手の強さの秘密に迫りました。

(インタビュアー:NHK静岡 キャスター・各務梓菜)

私が最初に三木選手にインタビューをしたのは2020年。その時からの期待どおり、ロシアで行われた今シーズンのワールドカップで2位に輝きました。

(各務キャスター)

「ご無沙汰しております。きょうはお忙しいところありがとうございます。また大人っぽくなりましたね」

(三木つばき選手)

「え!本当ですか!ウェア着ているからかもしれません(笑)」

三木つばき選手、先月のワールドカップでは初の表彰台。世界ランキングもアジア人トップの、日本スノーボード界期待の新星です。

(各務キャスター)

「出場が決まれば初めてのオリンピックですが、そちらへの思いはいかがですか」

(三木選手)

「私としてはオリンピックは初めてではあるけど、今まで戦ってきた人たちと戦うという気持ち。静岡・掛川の選手としてメダルを持って帰れるように頑張りたい」

三木選手は、力強い滑りとターンの速さで世界の強豪たちと戦ってきました。

その原点を探るため、実家を訪ねました。

父・浩二さんです。スノーボードの元日本チャンピオンです。

(各務キャスター)

「失礼致します。あ!早速。ボードですよね。つばき選手のですか?」

(父・浩二さん)

「そうです。娘が4歳からスノーボードを始めたんですけど、一番最初につばきが乗ったボードになります。4歳で『お父さん、私今年からスノーボードやりたい』って言ったんですけど。まだこれ4歳じゃちょっと大きいんですけど一番小さいサイズで。じゃあやってみなって渡しました」

小さなこのボードで、イチから基礎を覚えていきました。もちろん得意のターンも。

(三木つばき選手)

「4歳の時に初めてターンが出来たとき、目の前にお客さんが何人いて、どういう斜度でどういう景色だったかっていうのはすごく鮮明に覚えていて。すごくうれしかったなというふうに思いますね」

そして8歳の時、スノーボード界のレジェンド、マチュー選手と出会い、大きな夢が芽生えます。

「私も世界で1番速く滑る人になりたいなって純粋に思って。『私、世界で一番速く滑れるようになりたい』って両親に言いましたね」

(各務キャスター)

「世界一になるって言われたときはどう思われました?」

(父・浩二さん)

「何言ってんのって思いますよね。8歳で“世界一になる”。じゃあ9歳から何をしないといけないのかね?っていろいろ家族で考えました」

娘の夢を支えたい。浩二さんは、冬の間、家族と離れスキー場で住み込みながら徹底的に練習するという、小学生には厳しい提案をしました。

(父・浩二さん)

「滑走日数を稼がないといけないので、うまくなるためには。だからまず当時8歳のつばきに、9歳から3か月親元離れて長野県でこもれたらやっていいよと」

(三木つばき選手)

「長野に1人冬の間山ごもりをして練習しに行くってことが、両親と離れるっていうことすら分かってなかったので。純粋にやった!たくさん滑れるって」

食事や洗濯、身の回りのことはすべて自分でこなしながら、多い時で週6日、1日最大6時間、ひたすら滑り込んで成長を続けてきました。

世界一になるために三木選手が磨きをかけてきたのが、旗に背中を向けてターンする“バックサイドターン”体の重心を落とせば落とすほど速くターンできますが、その分、バランスが取りにくく、転倒のリスクも高くなるため多くの選手が苦手としています。

【動画】

左が海外のトップ選手。膝が曲がって重心が高くなっています。一方、右の三木選手は、膝を伸ばしたままで重心がかなり低く地面につきそうになっています。この究極の態勢を可能にしているのが三木選手独特のバランス感覚。遠心力が増して、ボードにダイレクトに力が伝わるようになり、速くターンできるのです。

(各務キャスター)

「私の感覚からするとどうやってその体を保っていられるんだろうって思うんですが」

(三木つばき選手)

「スピードが出ないと私たち選手でもあそこまで(体を)倒すことはできないんで。スピードでつく遠心力に乗っかって、板を倒して、体を倒していくことが必要になる。バックサイドだけ言えば、いいところまでいける自信はありますね」

【動画】

(各務キャスター)

「浩二さんでもなかなか難しい?」

(父・浩二さん)

「僕はできないです。だから羨ましいなと思って見てます」

そしてもう一つ。メンタル面で続けてきたことがあります。その名も「スノーボードノート」。

大会で優勝したアスリートに「世界一になるためには何が必要なのか」直接聞き、ノートに書いてもらったり、自分で日本語に直したりして、書き留めてきました。

(三木つばき選手)

「今トップにいる選手たちがどうしてトップにいるのか。居続けることができるのかを純粋に知りたかったというのもありますし、彼らが気をつけている事って何だろうというのをトップとかけ離れた頃から知りたかった」

中でも一番好きな言葉がこちら。

ワールドカップで優勝経験もあるドイツのラモーナ選手の”Stay Strong”

(三木つばき選手)

「『強くあり続けろ』。それに尽きるなって。勝負を仕掛けていかないと優勝できるかどうか分からないところにいるんじゃなくて、ちゃんと自分の滑りを安定にしたら優勝できるっていうぐらい、そういう強さを手にいれていきたい」

夢を語った日から10年。確実に成長を遂げてきた三木選手。コロナ禍でも自宅でオリンピックに向けた練習ができるように、浩二さんが作ってくれたトレーニングルームでスタミナアップに取り組んできました。

「世界一」への道が見えてきた今、父と娘の思いはひとつです。

(父・浩二さん)

「2022年じゃないけど、そのうち金メダルもって帰ることを信じてるよ。byお父さん」

(三木つばき選手)

「やばいな。『byお父さん』がインパクトあるなって思ったんですけど、信じてもらえてうれしいなって思いますし、たくさんの方に応援してもらって、その一番は両親だったりもするので、金メダルを持って家に帰りたいと思いますね」

お話を伺うと、ご両親の決断もサポートも相当なものでしたが、スノーボードが大好きな三木選手はこの経験をさせてもらえたことにとても感謝していました。住み込み練習の期間から培われてきた『自分でやる力』は、世界一への厳しい道のりも乗り越えていける強さにつながっていると思いました。これからスノーボード界を引っ張っていく選手なので、今後がますます楽しみです。