(2022年11月29日放送)
静岡市清水区に169億円をかけて新しい水族館を作るという市の計画。運営などを担う事業者が決まり、設計案が公表されました。二転三転したこの計画は、そもそもどのような経緯があり、今後はどうなるのか。解説します。
(記者 三浦佑一)
【総事業費169億円!どんな計画?】
(記者)
静岡市は、清水区の日の出地区に「海洋・地球総合ミュージアム」という駿河湾をテーマにした水族館と博物館の複合施設を、4年後のオープンを目指して造る予定です。
魅力を高めるために民間の力を活用しようと、1つの事業者グループに最大169億円を支払って設計、建設、そして15年間の運営を委ねる方針で、先週、事業者と設計案が公表されました。
こちらにあるのがイメージ図です。
(キャスター)
この夕日に照らされている建物ですか。向かって左側が駿河湾ですね。
(記者)
この計画を担う事業者ですが、市は当初、入札で複数の業者に価格や設計案を競争してもらうことを想定していました。
しかし手を挙げたのは東京の乃村工藝社を代表とする9社で作るグループだけでした。
結局、競争にはならず、市はこのグループの提案を審査し、価格はほぼ上限通りの169億6000万円、設計案もそのまま受け入れることを決めました。
(キャスター)
非常に大きな金額ですが、どのような施設ができるのでしょうか。
(記者)
5階建ての建物で、水槽があるのは2階と4階です。
2階にはメインとなる「沖合大水槽」があります。イメージ画像はこちらです。
駿河湾の海の中を再現するというコンセプトで、水量で1700トンの大きさです。
これは石川県にある「のとじま水族館」のジンベエザメの水槽、1600トンよりやや大きいくらいです。
(キャスター)
のとじま水族館は行ったことがないのですが、かなり大きいのでしょうか?
(記者)
沖縄の「美ら海水族館」は7500トン、大阪の「海遊館」は5400トンの水槽がありますので、トップクラスというわけではありませんが、市は国内有数だとしています。
(キャスター)
どんな生き物が展示されるのでしょう。
(記者)
想定されている展示の1つは、「シュモクザメ」です。
「シュモク」とは、鐘を突く木づちのことですね。その名の通りトンカチのようなT字型の頭が特徴で、海遊館や東京の葛西臨海水族園など、全国の水族館で人気の生き物です。
(キャスター)
駿河湾がテーマなら、サクラエビやマグロは、展示されるのでしょうか?
(記者)
サクラエビは元々寿命が短い上に、生きて捕まえるのが難しい、ほかの魚に食べられてしまうなど、飼育の難しさがあります。期間限定の小さな水槽や映像による展示は考えられるかもしれません。
マグロは、清水港で水揚げされるものは多くは冷凍マグロで、水槽で飼うのも簡単ではないので、今のところ想定されていません。
またイルカやクジラは駿河湾にもいますが、やはりほかの魚を食べてしまうので、専用の大きなプールが必要になってきます。
そもそも今回の静岡市の水族館計画は研究や教育面を重視するとして、伊豆・三津シーパラダイスや下田海中水族館みたいなイルカのショーでお客さんを楽しませるようなことは考えていないということです。
(キャスター)
私はイルカのショーが楽しみで水族館に行くこともあるのですが、静岡市では人をたくさん集めることが目的ではないということでしょうか。
(記者)
いえ、市は集客も重視していて、最初の1年で67万人、15年間で688万人の来館者を見込んでいます。
これは、周辺の人口などを全国の水族館の来館者数のデータに当てはめた上で、「民間の力を活用するのでさらに集客が見込める」としてはじき出していると数字だということです。
入館料は大人が1800円、小学生以上が900円、4歳以上が600円で、15年間で72億円の収入を想定しています。この収入がもし想定を1割以上下回った場合は、市が事業者の赤字を最大で10億円補填することになっています。
(キャスター)
集客がどうなるかわからない上、人口は減っていく中で、少し心配ですね。
(記者)
もともと市は当初、この計画は「運営は独立採算」と説明していましたが、4年前に、教育・研究の側面を強調して「運営にも税金を投入する」と方針転換をした経緯があります。
それでもコロナ禍の前から採算性を疑問視する声が民間から出て入札が延期され、感染拡大後には計画が凍結されました。
二転三転したのち、ことし計画を再開して事業者が決まったわけですが、建物の規模は、当初の市の想定では延べ床面積で9500平方メートルだったのが、今回の設計案では8400平方メートルに縮小しています。
展示内容の具体化はこれからですが、想定の入館者数達成のためには、かなりの工夫が求められそうです。
(キャスター)
順調にいったとしても169億円という大きなお金。実のある施設になるといいですね。
(記者)
建設や運営の費用については、もし今後も建設資材や人件費の高騰が続けば、市が追加の負担をするという契約があります。
また今の予算で運営されるのは4年後のオープンからの15年間で、その後の運営は白紙です。
市はこの施設に事業費を費やす一方、もう1つ、清水区で建設構想がある新サッカースタジアムは「民間主導で建設してほしい」と、市としては主体的な費用負担はしない考えです。
限られた財源をどう振り分け、成果を得るのか、今後の動向が注目されます。