【解説】差別問題に揺れる大道芸ワールドカップ 運営をめぐって何が?過去にも騒動

記者・三浦佑一
2022年10月19日 午後8:03 公開

(2022年10月19日放送)

差別の問題で開催中止も検討された静岡市の「大道芸ワールドカップ」。大会の運営をめぐって何が起きているのか、担当記者の解説です。

(取材・解説/記者 三浦佑一)

【静岡市の一大イベント】

(安川侑希キャスター)

静岡市の街全体が舞台になる心躍るイベントで、個人的には楽しみなんですが・・・。

(片平和宏キャスター)

私は、おととし静岡に赴任したので、コロナの影響で中止されていたこのイベントをまだ見たことがないんですが、どのようなイベントなんですか?

(記者)

大道芸ワールドカップは、1992年から2019年まで毎年行われてきた静岡市の一大イベントです。静岡市の街なかのあちこちに設けられたステージで、世界各国から集まったアーティストが、ジャグリングやアクロバットなどのパフォーマンスを繰り広げます。コロナ禍の前は全国から毎年、およそ150万人が訪れていました。

おととしと去年は中止になりましたが、ことしは規模を縮小して3年ぶりに開催すると発表されていました。出演者を国内在住のアーティストに限定した上で、例年よりステージの数を減らし、11月4日から3日間の開催予定で3万部のパンフレットが印刷されていたのですが、10月17日に、11月5日と6日の2日間のみに短縮すると発表されました。

(キャスター)

その短縮の理由が、今回発覚した差別の問題なんですね。

【海外出身者もいるのに・・・】

(記者)

はい。問題が起きたのは9月17日。大道芸ワールドカップ実行委員会が開いた、街なかでのパフォーマンスを運営するスタッフへの研修会でした。この研修会で、イベント全体のプロデューサーが、「日本人パフォーマーによる日本人らしい祭典を目指す」という5枚の文書を配りました。この中で、日本人の定義や遺伝子の特徴、それに精神性について独自の見解をつづった上で「日本人アーティストの魅力で大会を成功させる!」と記していました。ただ、ことし出演予定の33組には、国内在住の中国やアメリカ出身の人もいて、矛盾したものでした。

(キャスター)

「ワールドカップ」なのに「日本人による」とか「日本人の魅力で」とことさら強調するのは違和感がありますね。

(記者)

さらにプロデューサーは、この場で中国の文化を批判し、差別するような発言を繰り返していました。

1時間ほどの話が終わると、出席者の1人が「非常に危険だ」と問題視する声を上げたものの、別の人が「その話は別なところで」と遮ぎり、話は終わったということです。

(キャスター)

プロデューサーの考えの是非が議論されることはなかったんですね。

(記者)

しかし今月になってこの文書や発言がSNSに投稿されると批判が相次ぎ、プロデューサーは6日未明にツイッターで謝罪。この日夕方に開いた会見では「私の考えがイベントの理念であるかのように誤解を与えた」と改めて謝罪しました。実行委員会は「和のイメージを押し出すコンセプトだったとしても、逸脱するもので看過できない」として、プロデューサーを解任した上で実行委員長も引責辞任しました。

(キャスター)

世界各国のアーティストの演技を通じて多様な文化に触れるイベントなのに、残念な問題ですね。

【アーティストも運営に懸念】

(記者)

その後、実行委員会では開催の可否も検討した上で10月15日に開催を決めたのですが、プロデューサーが演出を手がけていた式典のうち、初日の開会式は中止にして、閉会式はあいさつ程度の簡素なものにする方針です。

出演予定者の1人、静岡市出身のジャグラーの渡邊翼さんは「問題の発覚以来、差別的な意図を持つ可能性が残るプログラムに協力させられるのではないかと心配していた。経緯や再発防止策を広く見える形で示してほしい。お客様も不安にさせてしまう」と話しています。

(キャスター)

出演者も事態を懸念しているんですね。

(記者)

今回、辞任した実行委員長に代わるトップとして委員長代理に就任した男性は、9月17日の問題の研修会に出席していました。プロデューサーの文書や発言を目の前で見ながら声を上げなかったということで、委員長代理はNHKの取材に対して「研修会のあと、プロデューサーにダメ出しはしたが、撤回させることにまで頭が回らなかった。文書が公開されるとは思わず、甘かった」と述べています。

(キャスター)

実行委員会の新しい体制による信頼回復はこれからということですね。

(記者)

実は、大道芸ワールドカップを巡っては、2018年に実行委員会が一部の出演者への出演料の支払いを廃止する方針を示し、のちに撤回した「ノーギャラ騒動」と呼ばれる問題が起きました。これをきっかけに、長年出演してきたアーティストが運営側への不信感を訴え、ことしの大会への不参加を表明する動きが相次ぎました。

そうした中で今回、イベントの直前にこの差別の問題が発覚し、実行委員会は、混乱の中で準備を進める必要に迫られています。

(キャスター)

いろんな問題はありますが、一市民としては、気持ちよく大道芸を楽しめるようにしてほしいです。

(記者)

イベントには市の補助金が数千万円投入されますが、運営体制が必ずしも盤石ではないことが露呈しました。今回の大会は、歴史ある静岡市の一大イベントが今後も続くのかどうかを占う試金石としても注目されます。