【解説】知事、どっちなの?リニア全量戻し案への評価(2022年5月27日放送)

NHK
2022年5月28日 午後3:31 公開

2022年4月、リニア中央新幹線の着工を認めていない静岡県と建設を進めるJR東海の直接協議がおよそ2年ぶりに再開されました。JR東海は、静岡県が懸念を示す工事による水資源への影響を抑えるための新たな対策案を提示しました。大井川の流域自治体の中には前向きな意見がある一方で、川勝知事は難色を示しています。新たな温度差となっているのは何なのか、取材しました。

(仲田萌重子)

【キーワードは「全量戻し」】

まずは、これまでの経緯をおさらいします。キーワードはトンネルを掘る時に県外に流れる水の「全量戻し」です。去年12月に国の有識者会議が公表した中間報告では、「トンネル内の水の量が現時点で想定されている範囲であれば、すべての量を大井川に戻すことができる」とされました。

ただ、今回議論となっているのは、リニアが通るトンネルそのものではなく、トンネルを掘る作業で補助的に使われるもう一つのトンネル、「先進坑」なんです。この先進坑を掘る際に山梨県側に流出する水の戻し方を問題にしているのです。

その際、地下水を多く含む断層帯も掘るため、突発的に湧き出た水が作業場所に溜る心配があります。JR東海は作業員の安全確保の観点から、山梨県側から掘ることにしています。

ただ、発生する水は山梨県側に流れてしまい、JRや静岡市による流れる水の量の試算は、工事期間のおよそ10か月間で、最大500万トンと予測されています。県はこの水も戻さないと「全量戻しにはならない」としていて、国の中間報告でも「関係者が納得するように具体的な方策を協議すべきだ」とされました。

【議論進めたい理事、反論する知事】

そして、県とJR東海は4月26日におよそ2年ぶりに水資源に関する直接協議を再開しました。新しい案は、大井川の上流部にある田代ダムが水力発電のために川から取水する量を抑えてその抑えた分で山梨県側に流れ出る水の量を補うというものです。JR東海によりますと、ダムを管理する東京電力の関連会社には、関係者の理解を得た上で、抑制する水の量や渇水期の対策について、検討を進めるということです。

国土交通省によると、水利権に基づく規定では、田代ダムが大井川から取水可能な水量は最大で毎秒およそ5トン、1か月でおよそ1300万トンです。先進坑の工事によって県内に戻さなければいけない水量の推定は、最大500万トンですので、この方式だけで行った場合の、工事期間の10か月で換算すると、1億3000万トン分の500万トン、つまり全体の4%を取水しないことになります。ただ、これは渇水期などの水の量は加味されていませんので、今後、具体的な検討が必要です。

元副知事で現在リニア担当の難波理事は、4月26日の専門部会で、工事で県外に流れ出る水の量は分析が必要と指摘した一方、報道陣の取材に対し、「案としては十分あり得る。現実性があるかどうかは別問題だが、話を深めていかないといけない」と前向きともとれる発言をしました。そもそも、国の中間報告に対する県の見解でも、「具体的な方策の議論が必要」と明記されており、話し合いが前進するかのように見えました。

ところが、その2日後、報道陣の取材に応じた川勝知事は次のように厳しく批判したんです。

(川勝知事)

「人様の水利権に手を出してですね。それを奪っていく。少し乱暴な議論だなと思っている」

このとき川勝知事が提示したのは、2005年に東京電力や県、流域自治体などの協議会で定められた大井川の水利権に関する合意事項です。具体的には、時期ごとに最低限維持しなければいけない川の流量が決められたものです。この合意を受け、国土交通省は東京電力に対し、水利権を許可しており、川勝知事は、関係自治体との協議で合意された水利権にJR東海が介入することを強く批判したかたちです。

【評価する自治体も】

知事は批判していますが、JRの新しい案について、前向きに捉えている自治体が多いという印象です。

一例を見ますと、

(掛川市の久保田崇市長)

「取水制限で県外流出分を補う新しい案が示されたことは一定の評価ができる」

(島田市の染谷絹代市長)

「初めの一歩として評価したい。 大井川から取水しないため、水利権は直接当てはまらない議論だ」

(山梨県の長崎県知事)

「説明を受けたかぎり、よく考えた案。解決のカードになることを強く希望」などと述べています。

【県の見解に温度差】

ところが、川勝知事はその後の会見などでも、

「切削中に出る水を全量戻すことができないという意味で、(JR東海の)敗北宣言」「東京電力の水利権をなぜJR東海が左右できるのか」などと批判を繰り返しています。

一方で「JR東海と東京電力でどういう相談があったのか知りたい」など、興味を示すような発言もしていて記者会見は紛糾しました。

県によると、今回の対策案は専門部会で議論を継続するということです。さらに、川勝知事と県幹部は、6月に田代ダムを視察することも明らかにしました。ただ、今回の知事の強硬な発言は、難波理事との受け止めと温度差があり、混乱を生んでいるようにも感じます。知事がかねてから言っている、流域自治体の意見が尊重される協議がなされるよう、県としての姿勢を見せてほしいと思います。

《解説動画》