(2022年11月2日放送)
静岡市が検討している新たなサッカースタジアムの建設。10月24日の静岡市の委員会で、候補地をJR清水駅近くの清水港にある民間の土地に絞り込んだ上で、実現が難しければ現在のスタジアムの改修で対応するという方針が固まりました。新設は実現するのか。なぜ現スタジアムの改修案も残されたのか。解説します。(記者・三浦佑一)
【地元で注目の土地 公式のテーブルに】
(キャスター)
新スタジアム、この番組でもたびたびお伝えしてきましたが、動きがあったんですよね。
(記者)
前々から持ち上がっていた話が、ようやくオフィシャルなテーブルに乗った、というところです。
まず議論の発端は8年前です。今の清水エスパルスの本拠地「IAIスタジアム日本平」について、エスパルス側が
▼観客席の屋根のカバー率がJリーグの基準を満たしていない、
▼そして交通の便がよくない
として、新設を市に要望したことでした。
(キャスター)
交通アクセス、先月の静岡ダービーでも、スタジアムに向かう道が渋滞して清水駅からのバスは、到着まで30分ぐらいはかかり、車内もぎゅうぎゅう詰めでした。
帰りは一斉にスタジアムを出るから、さらに大変なんですよね。
(記者)
問題を抱えながらも、新スタジアムの話はなかなか進まない状態が続きました。
ところが、今年度に入り、静岡市が有識者の委員会を設けて、まず建設候補地について検討を進めました。
そして先週、候補地を、JR清水駅から海側に100メートルほどの清水港にある、エネルギー大手「エネオス」所有の土地に絞り込んだのです。
(キャスター)
清水駅東口を出るとすぐ見える、大きな円いタンクが並んでいる場所ですよね。
(記者)
タンクは今は使われていないので、エネオスから譲ってもらえるのであれば、駅に近いベストな場所だと判断されたわけです。
この土地は、3年前の静岡市長選挙でも候補者が新スタジアムの場所として言及するなど地元では注目されてきた場所で、その案に市が乗った形です。
【新設と改修の“両にらみ”】
市の委員会としては、来年度にかけて、まず▼この土地での建設の実現可能性を探り、▼もし難しいと判断されれば今のスタジアムで屋根を増設するなどの改修で対応するという、両にらみで検討を進める方針です。
(キャスター)
ちょっと待ってください。もともと今のスタジアムは交通の便が悪いということで新設が検討されているわけですよね。なのにどうして、今のスタジアムを改修する案が残っているんでしょうか。
(記者)
それは、この候補地がまだまだ課題が多い場所だからです。
【建設候補地 特有の課題とコスト】
特に難しいのが、建設費以外にも相当な費用がかかりそうなことです。
▼まず、今あるタンクの撤去。
▼製油所の跡地ということでの土壌汚染の調査。
▼汚染があった場合、土壌の入れ替えなどの対策。
▼土地に段差があるため平らに整地する工事。
そして▼津波対策や液状化対策も考えなくてはなりません。
(キャスター)
目の前が海ですものね。
(記者)
さらに▼近くに病院が建設されるため騒音対策も求められそうです。
また▼駅が非常に近い分、駅周辺の混雑対策も必要です。場合によっては道路や歩行者が歩くデッキ、それに駅の改修も必要かもしれません。
(キャスター)
今と同じ規模なら2万人の観客ですよね。列車の本数も限られる中で、試合終了後の駅前は人でごった返すでしょうね。
先日の韓国の繁華街の事故を見ても、混雑は安全に関わる問題ですからね。
(記者)
そして、そもそもの前提として、土地をいくらで買う、あるいは借りることができるのかがわかりません。静岡市はこの土地と価格のことについて、所有者の「エネオス」とは「まだ何の話もしていない」といいます。
(キャスター)
本当に決まっていないことだらけなのですね。
(記者)
新スタジアムを熱望するエスパルスの山室晋也社長は、4月の取材で、建設費はほかのスタジアムを参考に「200億ぐらいかかるのでは」と発言していました。
しかし、今回の建設候補地特有のこれらの課題を1つ1つクリアしようとすると、さらに大きな金額になる可能性があります。
【見えない資金確保策】
そうしたコストの不確かさがある一方で、その費用をどう賄うかも全く道筋が立ちません。
(キャスター)
市が建設を検討しているということは、市のお金で造るのではないんですか?
今のアイスタも市の施設ですしね。
(記者)
田辺市長は市が積極的に資金を出すことには慎重で、「民間の主導で建設をしてほしい。私たちは下支え」だと述べています。
またエスパルスの山室社長は「構想が固まればパートナー企業に声をかけて協力をお願いしたい」と述べ、資金面はあとから考えるという姿勢です。
そしてエスパルスの親会社である鈴与の高橋副社長は、先月、「総額でいくらかかるのかが全く見えない段階で、やるやらないという判断が、正直できない」と発言しています。
このように現時点では資金の拠出に積極的な関係者がなかなか見当たらない状況です。
(キャスター)
確かに税金を際限なく使うことはできないでしょうし、民間企業も出せる額には限りがあるでしょうし、相当時間がかかりそうですね。
【静岡市民のサッカーへの関心は?】
(記者)
私がもう一つ気になるのは、この構想に関連して静岡市が市民1500人を対象に行ったアンケートです。
このなかで、「サッカーに関心があるか」尋ねた質問で、「ある」と「少しある」をあわせた比率は
▼60代で63.2%、
▼50代では67.2%と比較的高かったものの、
▼30代で46.5%、
▼20代で44.4%でした。
(キャスター)
40%を超えているとはいえ、若い世代ほど低下してるんですね。
(記者)
新スタジアムをきっかけに人気と人が集まるという期待もあるかもしれません。ただ一方で、成績とは直接結びつけられないかもしれませんが、エスパルスもジュビロも低迷が続く中、やはり、サッカーに巨額の投資をすることへの懸念の声が上がる可能性もあります。
(キャスター)
サッカーだけが目的ではなかなか理解されないのかもしれませんね。
造るなら、コンサートとかほかの使い方もできるような施設になってほしいですね。
(記者)
市は来月から広く意見を公募する方針です。新スタジアムは来年の静岡市長選挙でも争点の1つになりそうで、市民がどのような声を上げるかが重要になってきます。