性暴力の根絶を 被害当事者の声から考える(2022年5月2日放送)

記者・小田葉月
2022年5月2日 午後8:34 公開

ことし4月、性暴力の被害者や支援者でつくる団体が、県庁を訪問。静岡県などに対し、性暴力の根絶に向けた提言書を提出しました。

提出のきっかけになったのは、団体が、性暴力を受けた当事者などを対象に初めて行ったアンケート調査です。

「最も安全であるはずの場所・人の中で起きている」

「長期間継続する」

浮かび上がったのは、深刻な被害の実態でした。

(「フラワーデモ静岡」代表 静岡大学 白井千晶教授)

「とてもリアリティーのある内容で、そのアンケートの内容を見た時に、どれほど自分の被害を克明に届けたかったんだろうと思いました。どれだけ今、目の前にあるように、本人にとって刻まれているんだろうと思える被害経験が書いてありました」

(静岡局記者・小田葉月)

【浮かび上がった実態】

(キャスター)

今回、性暴力に関するアンケート調査が行われたということですが、どのような調査だったのでしょうか。

(記者)

調査を行ったのは、性暴力の根絶を目指して、およそ3年前から街頭やオンラインで活動を続けている「フラワーデモ静岡」という団体です。団体では、ことし2月末までの半年間にわたり、性暴力を受けた当事者などにインターネット上でアンケートを実施し、県内外の24人から26件の被害の体験が寄せられました。このうちの半数は県内在住の人が回答したということです。

(キャスター)

調査の結果から、どのようなことが分かったのでしょうか。

(記者)

26件の被害事例のうち20件と、大半のケースで子どものころに性暴力を受けていたことがわかりました。このうちの多くが、父親やきょうだい、祖父やおじなどの親族から被害を受けたという事例だったということです。

今回、団体に被害の経験を寄せた当事者の1人が、NHKの取材に実態を語りました。

【言えなかった被害経験】

県東部に住む祐理さん(50代・仮名)は、中学1年生の時に、実の父親から性暴力を受けたといいます。

(祐理さん)

「実の父親から、夜、後ろから急に抱きつかれ、羽交い締めにされて、パジャマの中に手をつっこまれました。1分間ぐらいだったと思いますが、直接胸をもまれたことがありました。当時、あまり私は性の知識がなかったので、父親が何をしているんだろうと思いました。息づかいが荒いというのは耳元で分かったので、気持ちが悪いなと思いました」

祐理さんはこうした被害について、長い間、誰にも相談できなかったといいます。

(祐理さん)

「40歳の少し前くらいまでは、誰にも言えなかった状態でした。20代の頃から30代にかけて、かなり精神的に落ち込んでしまったり、希望が持てなかったり、人を信頼できなかったりということが長い間ありました。夜、1人で寝ていると、涙が自然に出てくる、号泣してしまうということが何日も続きました」

【安全であるはずの場所で】

(キャスター)

祐理さんは、子どもの頃に性暴力を受けたために人間不信に陥るなど、人生に大きな影響を受けたのですね。

(記者)

そうですね。他にも、アンケート調査のなかでは「小学生時代、おじから性的暴行を受け続けていた」とか「幼いころ、同居する祖父から性器を頻繁に触られた」など、悲痛な声が相次いで寄せられていて、最も安全であるはずの場所や人の中で起きていることが浮き彫りになったとしています。また、子どもの頃に性暴力を受けた人の大半が、継続的に被害を受けていたこともわかったということです。

(キャスター)

なぜ、このような被害が長期間、続いてしまうのでしょうか。

(記者)

「フラワーデモ静岡」の代表で静岡大学の白井千晶教授は、「子どもが性暴力の被害にあった場合、それを周囲の大人に言い出せなかったり、言葉にしたりすることが難しいため、被害が表面化しづらいのではないか」と指摘しています。

【声にして言えるように】

今回、インタビューに応じてくれた祐理さんは「子どもへの性暴力をなくすためには、幼少期からの教育が重要だ」と訴えています。

(祐理さん)

「子どもが声をあげやすくするためには教育が大事だと思います。プライベートパーツがどこかということを、小さいうちから学校で教えてもらったり、それを口にするのが恥ずかしくないんだよという雰囲気を子どもが体験すれば、『黙っていなければいけない』とか、『自分が悪いのではないか』と思うのではなく、『これはだめなことなんだ』と確信をもって、声にして言える子どもが増えるのではないかと思います」

【被害者も加害者も生まない性教育を】

(キャスター)

祐理さんは長い間、被害を相談できなかった経験をしているからこそ、教育の重要性を感じているんですね。

(記者)

そうですね。今回のアンケートでは、ほかにも被害経験を寄せた当事者から、胸や性器など、水着を着た時に隠れる部分、いわゆる「プライベートゾーン」を、簡単に人に見せたり、触らせたりしてはいけないことを、子どもの頃から周知してほしいという声が上がっています。

また、被害者だけでなく加害者を生まないためにも、性暴力は許されない犯罪であることを性教育を通して教える必要があるという意見もありました。

このため、調査を行った団体がまとめた提言書では、性暴力をなくすための教育を幼少期から教育現場で徹底するよう求めています。

また、性暴力の被害者が適切な治療やセラピーを受けられるような体制の整備なども要請していて、県などに対し、5月末までの回答を求めています。これについて、県の担当者は「頂いた内容をしっかり検討し、5月中に回答します」と話しています。

【被害者への支援窓口は】

(キャスター)

行政には被害者の声をしっかりと受け止めてほしいですね。

現在、性暴力を受けた当事者への県内の支援体制はどのようになっていますか。

(記者)

県内には「静岡県性暴力被害者支援センターSORA(そら)」という、性暴力に関する相談から必要な支援までを一括して行う、県が設置している窓口があります。

ここでは、▼産婦人科での検査などの身体的ケアや、▼精神科での診察などの心理的ケア、それに▼弁護士による法律手続きの相談などを受けられるよう、関係機関との調整にあたっていて、警察や医療機関への付き添いなども行っています。

相談は24時間365日、電話やインターネットで無料で受け付けていて、専門の女性相談員が対応しています。電話番号は054-255ー8710です。

また、インタビューに応じてくれた祐理さんも、性暴力の被害を受けた当事者どうしがつながれる場をつくろうと「陽だまりのガゼボ」というグループをおととし立ち上げました。現在、月に1回のペースで、当事者たちが自身の経験を語り合う会をオンライン形式で開いているということです。申し込みは、ホームページから受け付けています。

(キャスター)

公的な相談窓口だけでなく、当事者自身による取り組みも行われているんですね。

(記者)

そうですね。ただ、アンケート調査を行った団体は「調査で浮き彫りになった被害は氷山の一角だ」と指摘していて、被害者への支援体制はまだまだ十分ではないと話しています。今回の提言書をきっかけに、性暴力の加害者も被害者も生まないための教育や支援の輪をいっそう広げていくことが求められます。

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