【リニア】「県外流出の水は0.2~0.3%」 島田市長に思いを聞く

NHK
2023年5月12日 午後2:04 公開

県とJRの対話が続いているリニア中央新幹線の問題について、島田市の染谷絹代市長にNHK「たっぷり静岡」のスタジオにおこしいただき、お話を伺いました。

(静岡局リニア担当記者・仲田萌重子)

(キャスター)

染谷さん、よろしくお願いします。

(染谷市長)

よろしくお願いします。

(キャスター)

染谷さんは水資源への影響が懸念されている大井川の流域自治体などで作る協議会の中心でキーパーソンとも言えるお方です。まずはリニア担当の仲田記者に現状を説明してもらいます。

(記者)

はい。トンネル工事で流出した水のいわゆる「全量戻し」の方法について、流域自治体などで作る「利水関係協議会」は、JR東海が提示した大井川上流の田代ダムの取水を抑制する案を前提として協議を始めることを了承したのですが、協議会の事務局を務める県の専門部会では協議が進んでいない状況です。

(キャスター)

染谷さん、いまこの現状を率直にどう感じていますか。

(染谷市長)

議論が十分に県民や流域のみなさんに伝わっておらず、議論の核心がどこにあるのかが伝わっていないと思います。

(キャスター)

なぜこうなったのか、仲田記者、これまでの経緯を教えてください。

(記者)

はい。協議会が立ち上がったのが2018年8月。JR東海と静岡市がリニア推進に向けての相互協定を結ぶ中、減少する水を大井川に戻すことを強く求める県と流域の10の市と町が一体でJRと対話するためでした。ここからJRとの対話の窓口は「県」に一本化されました。

国が有識者会議を立ち上げ、3年後の2021年12月。「工事で出た地下水が大井川に流れ込む水路を造って すべての量を戻せば、川の水量は維持される」とする中間報告を示したのです。ただし、この方法では戻せない県外に流出した水を戻す方法については、「関係者が納得するよう具体的な協議をするべき」としました。

これを受け、去年4月。JR東海が示したのが田代ダムの取水を抑制する案で、流域自治体からも歓迎の声が聞かれました。

(キャスター)

この中間報告と田代ダム案が出てきたことで、少し潮目が変わったように見えるのですが。染谷さん当時はどうでしたか。

(染谷市長)

「(JRが試算した)毎秒2トンの表流水がなくなる」というセンセーショナルな話が当初あったことを比べると、現実的に水を戻す方法が見えたと感じました。

大井川のトンネル工事で湧き出す水を戻すすべがあるんだということが、具体的に見えてきたということです。今、考えられる唯一の方法が田代ダムの取水抑制案だと感じています。

(キャスター)

具体的な方法が分かったということですか。

(染谷市長)

そうですね。

(記者)

しかし川勝知事は「リニア建設促進期成同盟会」に加盟したにも関わらず、その後も、否定的な発言を繰り返していますし、県の専門部会では、水利権やさらなるデータを求める指摘が出るなど具体的な協議には入れていません。ことし3月の協議会では多くの自治体から早急な協議を求める声がさらに強まりました。

そして、先月20日には、染谷さんはじめ大井川流域の自治体が、国交省に対し解決に向けて県とJR東海の対話に積極的に加わるよう要望したのです。

これに対し、川勝知事は。

(川勝知事・先月27日)

「流域市町のしびれを切らした要請だったんではないかなと。我々と基本的なスタンスは一緒だ。もう少し丁寧に議論の中身を見ていただきたい」

(キャスター)

染谷さん、今の知事の意見はどう聞いていましたか。

(染谷市長)

科学的・工学的に議論をされるということは私たちも理解しています。しかし、大井川上流部の地下の地質構造などはどこまいっても、まだ解明されていない部分が多くて、議論を尽くせば、みんな分かるのかというとそうではないわけです。不確実性が残るんです。そうした中で、リスクの高い議論をまずしていかないといけない。リスクにも軽いものと重いものがあります。それを一様に議論しているとなかなか前に進まないのではないかという風に思っています。ただ、議論を重ねていただけることには感謝しています。

(キャスター)。

こうやって経緯を振り返ってみると、流域自治体にとっては、利水関係協議会の発足時と現在で、特に水資源への影響について印象が変わったようにみえるのですが。

(染谷市長)

国の有識者会議の中間報告の結論が出たんですが、大井川の流量は年間約19億トン。年によって±9億トンの変動がありますが、今トンネルの工事期間中に県外に流出してしまう水は最大でも500万トンと言われていて、これは大井川を流れる水の0.2%~0.3%です。

つまり季節によって水が多かったり少なかったり、あるいは年によって、降雨の多い年少ない年があるのですが、そうした自然の環境の誤差の範囲内におさまる数値なんだということがはっきりわかったんですね。

(キャスター)

私も率直に0.2~0.3%は想像以上にパーセンテージが低いなと思ったんです。誤差程度なんですか。

(染谷市長)

そうなんです。大井川の地下水は富士山のようにずっと地下を通ってくる水ではないということや、とくに中下流域においては河川流量が維持されるという中間報告が出たわけです。

私たちは、その結論の上で、県の専門部会の議論が進むといいなと思っていたんですが、やはり有識者会議の中間報告自体が(県がJRに求める対応の)47項目が含まれていないなど、いろんな問題が出てきて、ぶり返しになってしまったんですね。国はこの47項目については相対的にその中で議論しているとは言っています。

(キャスター)

田代ダムの取水抑制案の協議を早急に進めたい理由についても改めて教えてもらえますか。

(染谷市長)

それはやはり市民の皆様方に不安、懸念たくさんお持ちなわけですよね。これを解消するすべがあるんだと。そして中間報告の結果というものを流域のみなさんに知っていただいて、解決できるすべがあるならば、前を向いてどうすればリスクを軽減できるのかと具体的な話に入っていきたいと思っています。

(記者)

市民の不安や懸念というと、実は私の祖父母も島田市でお茶を作っているんですが、不安の声を聞いたことがあります。ただ染谷市長の最近の発言を見ていると、県民に伝わらないもどかしさがあるようですが。地元住民の声はどのように受け止めていますか。

(染谷市長)

今は住民の考えが2つに分かれている気がします。1つは「水がなくなってしまうのではないか。農業にも上水道にも困る」と思っておられます。「やっぱり水は大事」だと。

それは確かにそうですが、もう一方で「この議論について、水を守れるすべがあるならば前に進める努力をしてもいいのではないか」と意見が分かれてきている印象を持っています。

(記者)

先月の国交省への要望の際に「田代ダム案など具体的な協議に入れないのが現実だ」と評価していました。建設的な議論が進んでいない理由はなんだと思いますか。

(染谷市長)

国の有識者会議の結論と、県の専門部会との今の議論がかみ合っていないところが1番大きなところだと思うんですね。

流域の住民は不安や懸念を語ります。でも専門家のみなさんには、ぜひ科学的な根拠に基づいたリスクも本当に起こりそうな部分のリスクについて慎重に検討して頂きながら、小さなものについてはそれを防ぐすべがあるなら、対策についての具体的な前向きな議論がそろそろ始められてもいいのではないかと感じています。

(キャスター)

リニアはJR東海が目指す2027年の開業は難しい見通しとなっています。他県からは「静岡が工事をかたくなに拒んでいる」という批判的な声も上がっていますが、これについてはどう感じていらっしゃいますか。

(染谷市長)

そういう声があることは承知しています。しかし私ども流域にとっては、これまでの流域の暮らし、そしてこれから先を生きる流域のみなさんの暮らしを守るためにも、大井川の水は宝なんですね。そのことについて、水資源について、簡単に妥協することはできません。ぜひ、この水資源の問題について流域の懸念がいち早く解消できるような議論を進めていきたい。

(記者)

先日の知事会見で聞いてみたんですが、川勝知事は「流域自治体の意見を尊重している」という認識でした。そのことについてどう思いますか。

(染谷市長)

ここまで議論が進んできたのは川勝知事のおかげと思っています。一方で、流域は水資源の問題を、とにかくそのことに絞って話していますが、私どもはときどき報道で初めて知るようなこともたくさんありまして、そうした中で、流域は水資源のことをしっかり声上げていかなければならないと感じるようになったと思うんですね。知事にはこれからも流域の思いや意見を尊重していただけると思っています。

(キャスター)。

田代ダムの今後の議論を進めるにあたって、県やJR、そして国土交通省に対して最も求めることはなんですか。

(染谷市長)

まず、県やJRにはわかりやすい議論と説明を尽くしていただきたいということです。毎日、新聞を読んでいる方でも、やはり議論の核心がどこにあるのか、これからどういう方向に進んでいくのかというのが、見えない状況だと思います。一方で国に対してはやはり積極的にかかわっていただいて、県とJRの議論がスムーズに進むように調整役の役割を果たしていただきたいと思っています。