(2022年1月6日放送)
いま、特定の地域を題材にした「ご当地漫画」がブーム。その中で8年に及ぶ連載で存在感を高めているのが、静岡県が舞台の『ローカル女子の遠吠え』です。作者は焼津市在住の瀬戸口みづきさん。生まれ育った焼津の親善大使も務めながら、静岡の魅力を辛口気味に日本中に発信し続ける、その発想の源泉を聞きました。
(インタビュアー:NHK静岡 記者・三浦佑一)
静岡ネタを全国発信!
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(記者:静岡愛あふれる漫画ですが、静岡のことを全国の読者に届ける上で意識されていることはありますか?)
(瀬戸口みづきさん)
「県外の方でも『あ、こういうところなんだ』って、例えば自分の地元と重ね合わせたり、全く新しいものとして見てもらったり。静岡に対する知識がゼロの方でも読んでいただけるよう、楽しく読めるようにということは意識しています」
「最初、静岡に舞台を限定するという話になったときは、ちょっと不安はありましたね。私自身は地元のことに詳しいというわけではなく、好きで住んでるというだけだったので。でも実際に調べて行ってみると、8年続いていますがまだまだ(ネタが)ある。同じ県の中でいろんな文化があるということは、それこそ県外の方はご存知ないじゃないですか。私も県中部で生まれて育ったので自分自身の驚きもありますし、それがそのままキャラクターの行動につながっている。新鮮さを受け取りながら漫画にできるのは楽しいです」
“静岡あるある”どう伝える?
『ローカル女子の遠吠え』は、静岡市内で働く「りん子」を主人公に、同僚や家族との日常を描く4コマ漫画。
同じ職場に東京から転勤してきた同僚、「雲春」の目線を通じて描かれる「静岡あるあるネタ」が笑いどころの1つです。
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続いて、鉄板の富士山ネタ。
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(記者:細かすぎて伝わらないんじゃないかな、とか心配になることはありませんか・・・?)
(瀬戸口みづきさん)
「やっぱりそれは心配でしたね.富士山、お茶、家康あたりの、すごくわかりやすいアイコン以外は全く知らないという読者のほうが多いものですから。聞いたことはあるぐらいのことでも、興味を持って読むまでにはちょっとハードルがあるじゃないですか。そこはキャラクターの力を借りて『このキャラクターが興味を持っている』『楽しんでいる』とキャラクターを入り口にすると、読者の方も一緒に楽しんでくれる。興味を持って『自分も食べてみたいな』『行ってみたいな』って思ってくれるように作る努力はしています」
「やっぱり静岡の方って、静岡のものが取り上げられると、まるで自分の家族や親友が褒められたかのように『そうでしょ~、富士山ってきれいでしょ~』『お茶おいしいでしょう?』って喜ぶところがあるじゃないですか。だから漫画に興味がなくても『静岡の漫画を書いてるの?』って私に興味を持っていろいろお話を聞かせてくださる地元の方がいて。やっぱり静岡県民は静岡が好きなんだなあというところに、この漫画は支えられています」
共感を呼ぶには
漫画には、地元のプライドがぶつかり合う場面も。
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「ちょっと(地域同士で)けんけんしているところを描くとき、読んだ方が不愉快にならないように、両論併記というか、同じぐらいの温度で書くっていうことは気をつけてます。実際にどっちが正しいっていう話でもないですし。どの立場の方が見ても『そうそう、そうなんだよ』って言っていただけるように気をつけています」
(記者:静岡のガイドブックというわけではなく、時にはディスる(※弱点を言う)こともありますよね?)
(瀬戸口さん)
「作品を好きになってしてくださる地元の方は、いいところだけじゃなくて『ちょっとここはどうなんだろう』って思っているところも正直に書いてくれるところに共感できるって言ってくださることが多くて。いいこともそうでないことも書いていけば、正直な作品になる。そこで共感を得られるのであれば、読者も楽しんでいただけるものになってくれるんじゃないかなと思っています。
『のぞみが止まらない県』とか、ちょっとクスって笑える形で落とせば、そんなに重たくならない」
「『静岡ってこうなんだよ』だけだと、最初は新鮮さや驚きで読んでいただけるけど、この先どうなるんだろうという気持ちを持っていただくのは難しい。そこにキャラクターやストーリーを絡めてエンターテイメントにしていけば、楽しく読み続けていただける。2つが同じぐらいの比重で合わさって面白いものになるのが理想です。」
徹底した現場取材
瀬戸口さんの作品の背骨は、徹底した取材です。1つの場所を描くために、情報収集と確認で2回は訪れるといいます。
「私自身は中部に住んでいるので、西部・東部・伊豆のことを書くときには情報源は少ないですし。その時はとにかく何度も足を運んで間違いのないように、情報を仕入れて資料を集めて、気を遣い過ぎるほど遣って描いています。天竜ぐらいだともう気軽に行けるようになりましたけど、伊豆となると『ひと仕事だなあ』っていう感じですね。駿河湾フェリーには大変お世話になっています。
現地に行くことで初めてわかることっていうのがあって。その空気感みたいなこともそうなんですけど、資料だけだとわからなかったことって必ずあるんですよ。思っていたより小さいなとか、ここからここまで近いっていうふうに資料には書いてあったけど、実際歩いてみるとすごく遠かったとか。そういう現場で仕入れられることって多くて」
「静岡県のことを調べて、それを漫画に落とし込むっていう作業は楽しいです。気持ちとしては観光客の気分で、こんなものがあるんだ、こんな食べ物があるんだって、私が1番楽しんで驚いてるんですよ。それを全くこれを知らない人にどう伝えようかなって考えるときは、ちょっと思考の上で苦労はしますけど、うまく伝える形にできた時の喜びのほうが大きいです」
徳川家康がまつられている、静岡市の久能山東照宮はたびたび訪れる場所です。この日は境内にある「家康の手形」に自分の手を重ねて・・・。
「やっぱり手は大きいですね。私、家康公と同じぐらいの身長ですけれど、手はずっと家康公の方が大きかったと思うと、いろんなことが想像できますよね。インターネットには載っていない情報というか、1つのお話になるかなと思います」
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さて、ここでまた地元愛が衝突する問題。徳川家康は、静岡と浜松、どちらのものか?
「青年時代を過ごしたところ(浜松)、生まれたところ(岡崎)、最終的に愛したところ(静岡)と、みんな愛していることには変わりがない。漫画の中ではああやって描いていますけど『仲良く家康公を推していこう!』っていう気持ちです」
作者が静岡県に住んでいてこその作品。ちなみに瀬戸口さんは、コロナ禍の前から自宅でタブレット端末で漫画を描いて東京の出版社に送信する、完全リモートワークを実践しているそうです。
「『漫画家はみんな東京のトキワ荘みたいなところで。みんなで顔を突き合わせ描いてると思ってた』って、本当によく言われるんですよ。でも全然そんなことはなくて。どこにいてもこの仕事はできるんですよっていうことを、これから漫画家やイラストレーターになりたいという若い世代の方にもっと知ってほしいと思っています」
地元への恩返し
作品を描く中で意識するようになったというのが、地元への貢献です。学校での講演のほか、去年(2021年)は静岡市の百貨店にイラストを提供しました。
また土石流被害を受けた熱海市を支援するため、日本漫画家協会が行ったチャリティーオークションに参加。瀬戸口さんの色紙も、数十万円の価格で落札され、全額が寄付されました。
「漫画家としてできることがあってよかったなという思いで。やっぱり娯楽って衣食住が足りて、その先で初めて手に取っていただけるものじゃないですか。だから今、インフラがなくて困窮している方には何もできないっていう気持ちがあったので。恩返しというか、いつも書かせていただいてありがとうございますっていう気持ちは、折々で出していかなきゃなと思ってます」
飽きさせないものを書き続ける
そんな瀬戸口さんのことしの抱負は?
「『継続と精進、と富士登山』です」
「読者の方に飽きさせない。ずっと面白いと思っていただけるっていうものを書くとなると、相当な努力が必要なんだなっていうことも分かってきたので。やっぱり面白いとか、お笑いっていうのも年々変わっていくじゃないですか。時代に合わせてそういうのもアップデートしていけたらなと思ってます」
「富士山はまだ宝永山までしか行ったことがないんですよ。去年かおととし登る予定だったんですけど、コロナで山小屋の方がNGっていうふうになって登れなくて。未知のところに行くというのがこの連載を続ける上での1番楽しいところ。それをそのまま漫画のキャラクターにも行かせて、読者の人にも喜んでもらいたい」
「こういう漫画を書かせていただいてて、静岡って本当に魅力のたくさんある県だなと思うことが多いので、これからあちこち取材で現れるかもしれないので、その際はよろしくお願いいたします」
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