【解説】静岡大学と浜松医科大学の再編・統合問題 静岡市や浜松市を巻き込む対立に?

記者 三浦佑一
2023年3月8日 午後8:50 公開

(2023年3月8日放送)

自治体を巻き込んだ議論になっている静岡大学と浜松医科大学の再編問題について解説します。(記者・三浦佑一)

※文末に解説動画があります

(キャスター)

3月7日にも静岡大の日詰学長が記者会見を開きましたが、この問題、何がこじれているんでしょうか?

(記者)

問題を理解するには、経緯を振り返る必要があると思います。

2つの大学の再編の議論は、さかのぼると2001年に、文部科学省の国立大学改革の波の中で「将来的に統合する」という基本合意を結んだときからありました。

(キャスター)

そんなに前からですか。

(記者)

この基本合意は、愛知県の大学を含めた統合の議論に発展しつつも、専門分野の重複などへの懸念から立ち消えになりました。

しかし少子化の中で再編の必要性が高まる中、2018年6月になって、浜松医大の今野弘之学長と、静岡大の当時の石井潔学長が、浜松と静岡でそれぞれに新大学を設置するという新たな方針を示しました。

これは大学を東西で分けて、▼浜松地区では、静岡大の浜松キャンパスにある工学部や情報学部を浜松医大と統合して新たな大学を作り、▼静岡地区では残る静岡大静岡キャンパスの農学部や教育学部など4つの学部で別の大学になり、ほかの大学との連携を進めるというものです。

今にして思えば、この発表がボタンの掛け違いの始まりでした。

(キャスター)

どういうことでしょう?

(記者)

といいますのもこの案は、分割される静岡大学の中で十分な合意が得られていなかったんです。

現に静岡大の複数の部局が「キャンパスの分離は、存在感や影響力の低下につながる可能性がある」などと反対意見を表明する事態に至りました。

また文部科学省の検討会も「浜松地区の連携による効果が明らかであるのに対して静岡地区の統合メリットが見えない」と指摘したんです。

2018年 浜松医科大学の今野弘之学長と、静岡大学の当時の石井潔学長が東西で大学を分割・再編する方針を発表。しかし静岡大学内や文部科学省から厳しい指摘。

(キャスター)

確かに、この案では今の静岡大学は小さくなるだけに見えますね。

(記者)

ですが2019年3月になってそれぞれの大学の評議会で浜松医大は満場一致、静大も僅差での賛成多数で分割案が承認され、2大学の学長が「2021年度をめどに2大学に再編する」という合意書を締結しました。

(キャスター)

いったんは双方合意したんですね。

(記者)

しかしこの年の8月に静岡市議会が全会派一致で統合再編についての不満を示す文書を文部科学省に提出するなど静岡市からの反発が強まりました。

そして2020年に静岡市と静岡大で大学の将来を話し合う協議会が設置され、静岡市は結論としても2大学の分割・再編案は「理解しかねる」と強い難色を示しました。

その一方で浜松市は、当初の合意案の実現を目指す会議を設置しました。

静岡大学を分割する案でいったんは浜松医科大学と合意。しかし静岡市側は反発。自治体を巻き込んだぶつかり合いに。

(キャスター)

意見のぶつかり合いに地元自治体も加わる形となったわけですね。

(記者)

こうした中で、2020年10月に行われた静岡大学の学長選挙で分割による再編に慎重とされる日詰一幸氏が当選しました。

2021年1月、日詰氏の学長就任を前に2大学は分割・再編の無期延期を発表。

去年・2022年に日詰学長は浜松市側の会議に出席して、2つの大学を分割ではなく1つに統合する案を「私案」として示しましたが、反発を受けました。

そして浜松市などは今月(2023年3月)、あくまで当初の合意案である分割・再編を後押しする「期成同盟会」を設立しました。

静岡大学の日詰一幸学長は静大・浜松医大を1つに統合する私案を説明。しかし反発を受ける。

発足式には、2020年の静岡大の学長選挙で日詰氏と争って敗れた川田善正副学長が浜松キャンパス代表として出席して「再編を早期に実現し自立・独立した形で大学運営を行うことを多くの人が望んでいる」と日詰学長と正反対の考えを述べ、波紋を広げています。

(キャスター)

浜松は浜松で独立したいと。静岡大の中でも意見が割れていることが、改めて表面化したわけですね。今後はどうなるのでしょう?

(記者)

静岡側も浜松側もまったく引かない状態で、期限も決まっていない話ですから、こう着状態は当面続きそうです。

折しも静岡市、浜松市ともに市長の交代を迎えますが、新市長がこの問題にどう関与するのか、あるいは静観するのかは1つの注目点です。

一方で、少子化で大学経営が難しくなり、競争が激しくなる中、学問分野を超えた研究による地域への貢献は、ますます求められています。

歩み寄りのない議論にエネルギーを費やして、本来の研究や教育がおろそかになるような事態は避けてほしいと思います。

【動画】

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