第5回「子どものマスク どこまで?」(2021年6月28日放送)

NHK静岡局記者・三浦佑一
2021年12月28日 午後8:28 公開

『子どもにマスクを着用させることで熱中症にならないか心配です』
特に夏場は、子どもが無理にマスクをつけなくてもいいんじゃないかという意見は、去年からありましたよね。
コロナ禍2年目、マスク着用が日常になった中で、周りの目が厳しく文字通り息苦しさを感じている子どもや保護者は多いようです。

【2歳でマスク?】

投稿をくださった静岡市清水区の白鳥あいさん。2歳の子どもを育てています。今月、子どもを連れて市内の科学館を訪れたときの対応に疑問を感じました。

(白鳥さん)

「係員さんから『2歳のお子さんではマスクを着用してもらうルールになっている』と。呼吸が苦しいんじゃないかというところが、私としては心配です」

  確かに、科学館の表示には「マスクの着用をお願いします。(2歳未満は除く)」と書いてあります。2歳の白鳥さんの子どもは着ける対象になります。  

しかしWHO=世界保健機関は去年、5歳以下の子どもは必ずしもマスクを着ける必要はないという見解を示しています。

  (白鳥さん)
「なんで2歳というところに決めたのかなという素朴な疑問はあります」  

【悩みが次々と】

白鳥さんは友人たちと、インターネットを通じて子どものマスクについて尋ねるアンケートを行いました。
すると、親の悩みが相次いで寄せられました。

『人の表情が見えなくて怖いというようになった』
『つばでびしゃびしゃにしたり、落としても着けたり、マスクを気にして触ったり、かえって不衛生』

アンケートに回答した人に話を聞きました。

(小学5年生の児童)
「ひものところが、耳の上側のところに当たって、傷が出来ちゃって」
三島市に住む小学5年生の女の子は、アトピー性皮膚炎で、長時間マスクを着けると出血することがあると言います。

  「マスクをしたまんま体育に行って、そのときにジャンプとかしたら頭がクラクラになっちゃって。今はもう外してるんですけど」
(母親)
「子どもたちの間では、外すどころかマスクから鼻を出すことすら注意の対象で、お互い言い合っています」  

  ほかにも深刻なケースがあります。
知的障害があり、特別支援学校に通う高校3年生は、苦手なマスクの着用を求められ続け、教室の雰囲気も張り詰める中で、2か月前から不登校になったといいます。  

  (高校3年生の生徒)
「マスクは嫌い。マスクは怖い。着けないと怒られちゃうから」  

【柔軟な対応を】

こうした声を受けて、白鳥さんたちは各地の教育委員会を訪問し、マスクについて柔軟な対応を求めています。

(白鳥さん)
「みんな頑張ってマスクを着けているのに、自分だけ外すってなかなか難しい子も多いと思うんです。子どもたちがまず自分の心と体の健康をベースに考えて、選んでいける社会であってほしい」

先週の静岡市議会でも子どものマスクについて議員の質問に市の幹部が答えました。

(教育委員会)
「精神的・身体的理由でマスクを着けることができない子どももいます。相互理解を他の子どもたちや保護者にも図ってまいります」

(幼稚園・保育園担当部署)
「乳幼児のマスク着用については慎重に判断し、周りの大人が子どもの体調の変化などについて注意深く見守る必要があります」

専門家は、子どもにマスクを着けさせるデメリットも考慮すべきだといいます。

(静岡市立静岡病院 岩井一也感染管理室長)
「10代以下の子どもについては、変異ウイルスでも重症化はほとんど無い。小さいお子さんにとっては発達の影響や、コミュニケーションの問題もある。
四六時中マスクを着けるのは、トータルで見た健康という意味では、問題があるのではないか」

【“熱中症対策を優先させて”】

大阪・高槻市では、マスクを着けていた小学生が持久走のあとに亡くなったというニュースもありました。
児童は保健室に運ばれた時にはあごの部分にマスクがかかっていたといいます。死因との因果関係は今も不明ということですが、国は「体育の授業ではマスクは必要ない」と注意喚起をしています。

文部科学省のガイドライン、改めて確認してみましょう。

(「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」)
「十分な身体的距離が確保できる場合は、マスクの着用は必要ありません」と、太字で、下線付きで強調されています。
そして「気温・湿度や暑さ指数が高い日には、マスクを外してください」。
さらに「命に関わる危険があることを踏まえ、熱中症への対応を優先させてください」と、マスク着用を厳守するより、熱中症を防ぐことのほうが大事だと繰り返し書かれています。

マスク警察ということばが取りざたされることがありますが、重症化のリスクが高齢者に比べると低いといわれる子どもたちに無理をさせないよう、大人が目配りする必要がありますね。