第12回「きつ音でもしゃべりたい!孤独な悩み乗り越えて」(2022年6月14日)

記者・三浦佑一
2022年6月14日 午後8:32 公開

視聴者のみなさんのお悩み解決をNHK静岡がお手伝いするたっぷりリサーチ。沼津市の40代の男性から投稿をいただきました。

「小学生時代に、きつ音になりました。就職氷河期世代で健常者と比較され、たくさんの会社から『きつ音を治せ』と言われました。たこ焼き屋を始めましたが、理解してもらうのが難しい現状です。もっときつ音のことを知ってほしいです」

(キャスター)

きつ音の悩み、簡単に治るものではないでしょうし、つらい思いをされてきたんでしょうね。

(記者・三浦佑一)

まずきつ音について簡単に説明します。国立障害者リハビリテーションセンターのホームページを参考にしました。きつ音は「どもり」とも言われる、話しことばが滑らかに出ない障害の一種です。症状は人によって違いますが、大きく分けて3つあるといわれています。

  • 音をくりかえす、連発。「か、か、からす」

  • 音を引き伸ばす、伸発。「かーーらす」

  • ことばを出せずに間があいてしまう、難発。「・・・・からす」

こうしたことで悩む人が、だいたい100人に1人ぐらいいるといいます。

(キャスター)

年代問わず、いらっしゃいますよね。

(記者)

投稿者に会いに行ってきました。

【生きづらさを知ってほしい】

投稿をくださった方は、沼津市の自宅の前でお店を出していました。川口剛さん(43)。きつ音のために学校や職場になじめない経験が続き、2年前から母親とたこ焼きを焼いて売っています。

(川口剛さん)

「小さいお子様からお年寄りの方まで、結構みんな好き好きに買ってくださいますね」

少し話す程度では気付かれにくいだけに、悩みも理解されづらいといいます。

川口さんはお店に、きつ音を説明する表示を出しています。

「きつ音って、ことばを言いかえると結構スムーズに話せるんですけど、どうしても言いかえができないことばになってしまうと、ことばを強く発したりしてしまうので。そういった場合にお客様にとってはご不快な面もありますので、怖くなってしまわないように、一応こういうことを書くようにしました」

【子どものころからの孤独な悩み】

川口さんにきつ音の症状が目立ちはじめたのは、小学校に入ってから。母音や、カ行、タ行の音などが急に言えなくなることが増え、「かわぐちたけし」という自分の名前もスムーズに言えなくなりました。その苦しみは、同級生にも親にもわかってもらえませんでした。

「僕・・・川口なんですけど、川口が言えないのと、あと濁音が苦手なので、濁音でかむっていう感じがあります。子どものころはものまねされるのが一番つらかったですね。あとみんなで笑うのが。先生含めてみんなずっと笑っていた。子どものころは毎日泣いて帰ってきてましたね。一つ覚えてるのは坂本九さんの曲。一応、上を向いて歩いて、涙はこぼれないようにって」

(川口さんの母・美枝子さん)

「ちょっとのひと言でみんなにからかわれたりしたので、よけいひどくなっちゃったのかなと思いますね。『そんなに悩むことはないんじゃないか』っていうのがよけい本人にはつらかったみたいです」

【『落ち着いて』って言わないで】

川口さんは今回、きつ音のことをたくさんの人に理解してほしい一心で、NHKに投稿したといいます。

「『早くしゃべって』とか『ゆっくり喋った方がいいよ』みたいな、『落ち着いて』とか『緊張しないで』っていうのを言わないで、1回話を聞くというのをしてほしいなと思います。“せきばらい”と同じぐらいの感覚でどもる人もいるんだよっていうことをわかってほしい。きつ音を知ってもらったら当事者が生きやすい世の中になるかなと、知ってもらいたいなと思いました」

【きつ音でもしゃべりたい!】

「これから始めますのでよろしくお願いします」

友だちや恋人を作るのが難しかった川口さんに、多くの人との交流をもたらしたのは、7年前に使い始めたSNSでした。プロフィールできつ音を公表している人たちとつながり、最近はツイッターに導入された音声で話せる機能『スペース』で、毎晩のようにおしゃべりを楽しんでいます。

(参加者)

「昔あったのが、ビンゴ大会でビンゴしたのにビンゴ言えない」

「はいはいはい。ありますね」

「もったいなー!」

(川口さん)

「ビンゴ大会で、最初にビンゴしても、ステージに上がって名前を言いたくないがためにビンゴしていてもビンゴしていないふりをしていましたね」

(参加者)

「電車がまったくわからなかったから、駅員さんに携帯のマップを見せて、ここまで行きたいんですけどみたいな感じですね。僕は。あっち行って、そっち行ってみたいな感じで」

(川口さん)

「本当はこの駅のことを聞きたいけど、違う駅名を言うとかありますよね」

(参加者)

「あるあるあるあるある!」

「違う駅に行っちゃう」

「一個手前とかな」

「そうそうそう。そっち方面に行きたいって」

「わかります。あるある」

(川口さん)

「大阪に行きたいけど、『大阪』が出ないから関西方面でお願いしますとか」

私(記者)も、川口さんのスマホから参加者に質問してみました。

記者:みなさん結構しゃべるの好きなんですかね

(参加者)

「大好きです!」

「ふだんなかなか話す相手がいないとか、話せずにいるから?」

「まさにそうです」

「そうです」

「話す相手がおっても、気楽にしゃべれる相手、どもってもいいっていう、安心してしゃべれる相手が、このスペース、この場所っていう感じ」

【つながりを広げる】

SNS上で語り合える仲間に元気をもらいながら、身の回りでも理解を広げようとする川口さん。少しずつですが、川口さんのたこ焼きに常連客も増えています。

(常連客)

「店長さん(川口さん)も必死に頑張っている姿がよく見えていますので。僕としてはお客さんで買うことしかできないんですけれども、陰ながら応援しています」

たこ焼きのキッチンカーで全国を回り、つながりを広げることを目指しています。

(川口剛さん)

「徐々に徐々にという形なので。僕1人がなんとかできるものではないので。僕はたこ焼き屋を通じて、全国のきつ音の人と出会えたらいいなと思っています」

【動画はこちらから】

「きつ音でもしゃべりたい!孤独な悩みを乗り越えて」

関連リンク

※下記はNHKサイトを離れます ※別タブで開きます