「魔改造の夜」の興奮と感動の競技から、凄いアイデアとテクニックを学んでスーパー技術者を目指す「技術者養成学校」が2022年春に開校(全8回)。劇団ひとり教官と特別講師のもと6人の生徒が競技を追体験し楽しく学びます。
第7回の教材は「お掃除ロボット走り幅跳び」。掃除機には本来備わっていない跳ぶ機能を加えるという、魔改造の夜の中でも一歩踏み込んだ競技です。
講義では、優勝したH技研のアイデアの出し方を分析するだけでなく、画期的な発想法を体験し、アイデアの達人になるための極意を学んでいきます。
テーマ:アイデアの出し方
第7回の特別講師は太刀川英輔氏。
読ませる工夫を凝らした防災本を編集するなど、幅広い領域でのアイデア・構想や、発想についての著書が高く評価されている気鋭のデザイナーです。
▼生徒の中からは、アイデア出しに自信がないという声が…
舘野 桜:「周りの人の視線や考え方を気にしてしまって、なかなか思いつかない」
斎藤 菜美子:「前例や経験にとらわれてしまい、新しいアイデアを生み出すのが苦手」
アイデアには出し方があり、学べるものだと話す太刀川先生。今回の教材である「お掃除ロボット走り幅跳び」には、そのヒントがあふれているといいます。
魔改造の夜 第2弾「お掃除ロボット走り幅跳び」「クマちゃん瓦割り」(2020年11月28日放送)
「お掃除ロボット走り幅跳び」に挑んだのは、新進気鋭のロボットベンチャー企業の「GX」、宇宙産業を支える町工場「Y精密」、世界のモビリティ企業「H技研」の3チーム。
▼空気圧のピストンを中央に装着した、チームGXの「DUST EMPEROR(ダストエンペラー)」
【マシン紹介】お掃除ロボット走り幅跳び:DUST EMPEROR(GX)
▼金属の筒の中に圧縮したバネを入れた、チームY精密の「とびまるくん」
【マシン紹介】お掃除ロボット走り幅跳び:とびまるくん(Y精密)
▼H技研の「魔破★掃一郎」
様々に魔改造された掃除機モンスターがジャンプ力を競う中、優勝したのは、マッハ4の噴射でロケットのように空を跳んだ、H技研の「魔破★掃一郎」でした。
▼記録は、驚異的な12メートル39センチ
【マシン紹介】お掃除ロボット走り幅跳び:魔破★掃一郎(H技研)
H技研は、なぜ圧勝したのか?
GXチームもY精密も高い技術力で戦ったものの、結果はH技研の圧勝でした。その違いは、一体どこにあったのでしょう。
アイデア出しに全力を注いだH技研は、試行錯誤の末、他のチームとは全く異なる考え方をしました。
「人類史上、最も高く飛んだものは何か?」
その答えが「ロケット」だったのです。
▼H技研は小さいロケットを作ることを宣言
▼手にしているのは自転車などの空気入れに使われるCO2ボンベ
もはや、「走り幅跳び」という競技のをも越えた発想で勝負したH技研。彼らが圧勝した理由は、まさにここにありました。
ワークショップ:ミキサージュース投げ
講義ではワークショップを行い、H技研のような優れたアイデアを出すための方法を生徒の皆さんに学んでもらいます。太刀川先生が出したお題は、ミキサーの魔改造。「中のジュースを遠くに飛ばすミキサー」を作るためのアイデア出しをしていきます。
▼飛ばすのはミキサー内のイチゴ牛乳
まずは、5分間、ミキサーを観察する
「飛ばすマシンとして、イケてるか?」を基準にして考えるのがコツ。
▼観察して気がついたことを紙に書く
▼「液体を遠くまで投げる機械がこれまであったかどうか」も考えてみる
アイデアを出すときに、自然界における進化のエラーにあてはめてみる
ミキサーを観察して気づいたことを書き出せたら、いよいよアイデア出しです。
ここで太刀川先生が、アイデアを出すヒントとして出したのが「自然界」。「自然界」にあふれる生命体はどれもクリエイティブ、その誕生の経緯がヒントになると話します。
生物の進化を生むのは、遺伝子の「エラー」。そこで生じる進化の仕組みを参考にすると、普段、辿り着けないようなアイデアを考え出すことができるといいます。
▼太刀川先生が分類した、遺伝子のエラーパターン9つ
私たちが普段、目にしている数々のアイデア商品も、これらのパターンに当てはまるのでは、と、太刀川先生。
▼欠失:○○を失くす →羽根のない扇風機、コードレスフォンなど
▼擬態:○○に似る →犬型ロボットなど
▼変量:超○○になる →タブレットなど
これらの分類パターンに気づくようになってから、アイデアがたくさん出るようになったと、太刀川先生は話します。
「9パターンの変異」を発想のベースにする
先生が分類した9つの変異パターンを、実際にミキサーに当てはめて魔改造のアイデアを出していきます。
正解か不正解かを意識するのではなく、むしろ失敗するようなアイデアを積極的に書くことがポイント。できるだけ多くアイデアを出して、最も良いと思うものをスケッチブックに描いて発表します。
「融合」のパターンから、「ミキサー+ピッチングマシン」「ミキサー+ローラー」といった類似のアイデアに辿りついた生徒も。しかし、それぞれの投げ方には違いが出ました。
▼舘野 桜:ピッチングマシンで、「ジュースが入ったミキサーごと」投げる
▼清水 由彦:ローラーで「ジュースを吸わせたスポイト」を投げる
これとは逆に、選んだ分類パターンは「交換」と「擬態」で異なるものの、投げ方に同じ「遠心力」を使うという点で一致するというケースも。
▼ギャル電 きょうこ:ジャイアントスイング型ミキサー
ミキサーが回転することで、中のジュースが風船に流れ込む。回転がMAXになったところで風船の留め具を外して、ジュースを風船ごと飛ばす。
▼斎藤 菜美子:ホース型ミキサー
ミキサーに先細りするホースを取り付け、ハイパワーモーターで高速回転させる。最高速度になったところでホースの蓋を外し、中のジュースを飛ばす。
アイデア出しは、みんなでできるスポーツ
アイデア自体は個人単位で出すものあっても、出したアイデアをみんなで持ち寄れば「集合知」になる、と太刀川先生。
今回のワークショップで出たアイデアを集めて、さらにブラッシュアップしていくと、よりハイレベルのモンスターミキサーが誕生しそうです。
練習すれば、発想力は高められる
さらに先生は、9つのカテゴリーの中で思いつけないものがあったとしても、練習すればアイデアが出てくるようになると話します。アイデアが浮かばない=才能がない、のではなく、日頃から身の回りのものを観察してアイデアを考える習慣をつけることで、創造性は鍛えられるものだといいます。
魔改造は人の役に立つか?
「人の役に立たない」と言われるものをたくさん生み出してきた「魔改造の夜」。魔改造の夜で行われてきた魔改造は、本当に役に立たないのでしょうか? 太刀川先生は「滅茶苦茶、役に立ちます」と即答。魔改造には、学校では教えてくれない学びがあふれているのでは、と話します。
正しいアイデアを出すことが重要なのではなく、失敗すること、エラーを出すことの大切さを力説する太刀川先生。「アイデアの出し方」を体験し、新たなものを生み出すエラーを考え出すことこそが重要だと、深く学んだ講義でした。
講義を終えて…
生徒:機械工学博士課程2年 斎藤 菜美子
考えが詰まってしまった時に、ほかの分類カテゴリーから考えてみたらアイデアを出しやすくなりました。アイデア出しには苦手意識があったので、上手く頭を切り換えることができたことにビックリしました。
生徒:発明家 藤原 麻里菜
とにかく分かりやすくて有意義な内容でした。この方法を使えば、今までアイデアを出せなかった人でも面白いアイデアが楽に出せると思うので、世の中がもっと面白くなっていく気がしました。