第6回「クマちゃん瓦割り」から学ぶ、生き物よりも生きているロボット

NHK
2022年5月11日 午後10:59 公開

魔改造の夜」の興奮と感動の競技から、凄いアイデアとテクニックを学んでスーパー技術者を目指す「技術者養成学校」が2022年春に開校(全8回)。劇団ひとり教官と特別講師のもと6人の生徒が競技を追体験し楽しく学びます。

第6回の教材は「クマちゃん瓦割り」。太鼓をたたくクマちゃんのおもちゃを魔改造し、高く積み上げられた50枚の瓦を割るというダイナミックな競技です。

講義では、生き物らしい「マシン」に魔改造するための極意を学びます。「生き物」の定義とは?などから、深く考えていきます。

テーマ:生き物よりも生きているロボット

第6回の特別講師は大阪大学の石黒浩教授。自分そっくりのアンドロイドや高度な会話ができる音声認識ロボットなどを開発し研究している、ロボット工学の第一人者です。

教材である「クマちゃん瓦割り」の放送回を見た石黒先生は、「改造の目的がよく分からなかった」と感想を語ります。一体どういう意味なのでしょうか?

まずは、「クマちゃん瓦割り」の戦いを振り返ります。

挑んだのは、新進気鋭のロボットベンチャー企業「GX」チーム、宇宙産業を支える町工場「Y精密」チーム、世界のモビリティ企業「H技研」チーム。

18キロのダンベルをクマちゃんの拳とした「GX」チーム、36キロの肉球をつけた1.8メートルの右腕を振り下ろす「Y精密」。100キロの手刀を使って50枚の瓦をものすごいパワーで叩き割る「H技研」チーム。それぞれのチームが独自のアプローチで戦いました。

▼3.5メートルの高さから手刀を垂直に落とす「RC90V(アールシークマブイ)」

▼パワー炸裂のギロチン方式で、全ての瓦を割り切った

▼完璧な勝利、歓喜の「H技研」チーム

▼戦いを終え、頭から煙が上がるRC90V。いかに大きな負荷がかかったかが分かる…

【マシン紹介】クマちゃん瓦割り:RC90V(アールシークマブイ)(H技研)

改造の目的とは何か?

「改造とは元々持っているものを、より拡張(=エンハンス)するように作り直すこと」では、と話す石黒先生。クマちゃんのおもちゃの場合は、「クマちゃんの楽しそうな感じや生き物らしさを拡張すること」も改造の目的では?と説明します。

破壊力を強化することを目的として改造されたモンスターは、元々のクマちゃんが持っていた「生き物らしさ」が、どうしても薄れてしまいます。石黒先生は、今回は「生き物らしさの拡張」を大切なテーマとして、講義を進めていきます。

宿題:生き物らしい要素を入れた「役に立たない箱」を作る

この講義では、石黒先生から生徒たちに、事前に宿題が出されていました。

宿題として出された課題は、人が押したスイッチを押し戻すという機能だけの「役に立たない箱」を作ること。その際に、最も生き物らしいと感じられる動作を作ることが条件です。目的は、ズバリ「生き物を作ること」。

ベースになるのは、人工知能の父・マーヴィン・ミンスキーが考案したといわれている「ユースレスボックス」。役に立たない機械ながら、エンジニアの挑戦心をかきたてる課題として有名なこの箱は、世界中の人たちによって様々な形で作り続けられています。

人が押したスイッチを押し戻す「ユースレスボックス(役に立たない箱)」

1個のモーターとわずかな制御だけしか持たない箱が、まるで生きているように見えます。その理由として、石黒先生は4つの要素をあげます。

  • 要素1:生き物らしい動き方をする

  • 要素2:箱(=巣)の中で身を守っている

  • 要素3:人間が何か働きかけると反応する(インタラクション=相互作用)

  • 要素4:動かしたときに音がしない

宿題の発表

生徒たちは「生き物らしさ」をそれぞれで解釈して「役に立たない箱」を作ってきました。はたして、石黒先生の評価は? いざ、発表!

▼石黒先生の横で、緊張気味に発表する生徒たち

舘野 桜:カラクリボックスに住み着いたカニ」

中からカニのハサミが出てきてスイッチを押し返す。外装にアルミ箔を貼って金属感を出すことで、機械的なモーター音を調和させる。

青野 航大:「木箱の中に潜むネコ」

内部に顔認識をするカメラが入っており、箱の前にいる人の動きを認識して絶妙なタイミングで姿を現す。

▼思わず「すごい!」と声が出る劇団ひとり教官

しかし、石黒先生からは、ダメ出しが…

顔認識しないものは生き物ではなくなるのか?という鋭い指摘。今回の課題では、いかに簡単な機能で生命感を出せるかが、重要なポイントとなってくる。

藤原 麻里菜:私に似た、役に立たない箱」

箱が人見知りというキャラ設定をし、人がいない時にスイッチを押す。

▼清水 由彦:タマ手BOX」

特徴は横に動くスイッチ。中の猫は横向きに手を動かしてスイッチを押し戻す。

▼ギャル電 きょうこ:箱自体が生き物」

角であるスイッチを触るとモフモフの尻尾が動き、目玉が光り、中からネコの手のような触手が出てくる。

▼ 斎藤 菜美子:目的を忘れた番人」

スイッチの戻し方に複雑な動きのパターンを持たせ、箱が臆病な性格であることを表現した。

▼作った箱をカブトムシやミミズと比べて、どちらが生き物らしいか、質問する石黒先生

石黒先生は、なぜ生き物らしさにこだわるのか?

モーターとスイッチだけのシンプルな箱を生き物らしく改造するといった今回の課題。この課題に取り組むには、まず「生きているものの原理」を考えることが必要でした。「生命とは何か」を考えることは、AIやロボットの研究に取り組む上でも、最も基本として必要なことであり、魔改造にも共通しているのでは、と石黒先生。

生命のないマシンを、いかに生き物に近いものにできるか。その探求心とアプローチ、「これこそが魔改造!」と石黒先生は話します。

人と機械の間の境界線はどこにあるのか?

義手や義足を考えれば、人間の定義が生身の身体を持つことに限らないのは誰もが理解していること。逆に考えれば、機械にも命が宿る可能性があり、両者の間に境はないのではと話す石黒先生。人と関わる様々なロボットを研究し続ける中で、語られた言葉です。

「生き物よりも生き物らしいロボット」の講義の中に、未来が垣間見えました。

講義を終えて…

生徒:ギャル電 きょうこ

さっそく明日から、「カブトムシと比べて、どっちが生き物?」レベルの問いを自分に投げかけながら、魔改造に取り組んでいきたいです。

生徒:機械工学博士課程2年  斎藤 菜美子

生き物らしく改造することを目的にすれば、誰からも愛される魔界の生物を誕生させられると思いました。