「魔改造の夜」の興奮と感動の競技から、凄いアイデアとテクニックを学んでスーパー技術者を目指す「技術者養成学校」が2022年春に開校(全8回)。劇団ひとり教官と特別講師のもと6人の生徒が競技を追体験し楽しく学びます。
最終回となる第8回の教材は「トースター高跳び」。世界の自動車メーカーT社の「地獄のローラー」と、T社を倒して優勝した社員50名の町工場のH野製作所が魔改造した「Godster(ゴースター)」、2つを比較して読み解きながら、なぜ町工場が巨大企業に勝つことができたのかを考えていきます。
魔改造の夜 第1弾 「トースター高跳び」(2020年6月19日放送)
▼世界の自動車メーカーT社の「地獄のローラー」
【マシン紹介】トースター高跳び:地獄のローラー/灼熱(しゃくねつ)の逆バンジー(T社)
▼H野製作所「ゴースター」
【マシン紹介】トースター高跳び:Godster(ゴースター)(H野製作所)
テーマ:なぜ町工場がT社に勝ったのか?
技術者養成学校第8回の講師を務めるのは、「魔改造の夜」を誕生から見守り、そしてすべての戦いを目の前で見届けた、魔改造倶楽部・解説の東京大学工学部の長藤圭介准教授です。
「魔改造の夜」の大きな見どころは、町工場の大奮闘。これまで過去2回、大企業を相手に町工場が優勝するなど、毎回名勝負が繰り広げられています。その秘密を考えることが、「魔改造の夜」で戦うのに大きな学びになると、これまで参戦した町工場3社の社長を講義にお招きしました。
▼(左から)Nットーの藤澤秀行社長、Y精密の大坪正人代表、H野製作所の浜野慶一社長
魔改造マシンを比較してみよう
T社「地獄のローラー」(左)とH野製作所「ゴースター」(右)を並べて、両者の違いを観察してみます。
▼H野製作所「ゴースター」
電動ドライバーをそのまま内部に設置して回転動力にしている
外装はネジ止めではなく、すべてリベットできれいに加工されている
回路が1か所にまとめられていて、持ち運び用の取っ手もついていてメンテナンスしやすそう
▼T社「地獄のローラー」
ローラーの大きさがH野製作所のものと比べてかなり小さい
身近な素材であるガムテープがそのまま使われていてキュンとする
設計の観点で考えてみる
T社とH野製作所の魔改造マシンの大きな違いはローラーの大きさ。ローラーの直径が4倍違います。同じ回転速度であればローラーが大きいほうが4倍の初速を出すことができる、ということが分かります。
ただし、このような大きいローラーは一般用には売っていません。となると自分たちで作ることができる、ということが重要になります。H野製作所は大きな部品でも自社で製造するのが可能なため、独自構造のハードウェアも「すぐに作る」ことができました。
テーマを決めたらすぐ動く、すぐに始める
どういったものを作るかが決まってからカタチができるまでの期間として、H野製作所は数日間、T社は3週間かかっています。
H野製作所浜野社長:初めて作るモノに関しては「何が正解なのか」「何が正しいのか」というのは誰にも分からない。まずは作ってみて数多くの失敗をしてみる。その多くの失敗から多くのことを学ぶことができる。
大企業では大人数でのビジネスを行っているため、「これは売れるのか」などの分析から始まります。ですが、人数の少ない町工場では、考え出した人と作る人との距離が近い、もしくは同一人物であることから「まずは作ってみよう」「まずは世に出してみよう」というところから始めることができて動きがとっても早い。そこが町工場の強みであることが分かると、長藤先生は話します。
なぜジャイアントキリングが起きたのか?
H野製作所はこれまで請負型の部品加工の割合が大きい町工場でしたが、世の中が多様化していくにつれて、社会の様々な課題、小さな市場の小さな課題があふれていると気づいた、と話します。大きな会社でなくても、むしろ小さな会社だからこそ可能性があるのではと考え、モノづくりの支援スペース「ガレージスミダ」の運営を社内で始めました。
▼レーザーカッターなどの設備がある工場の2階に設けた「ガレージスミダ」
作りたいモノがあるが技術がない、設備がないという300を超えるスタートアップ企業・団体が、このガレージスミダに集まって、H野製作所の職人たちと日々相談します。深く交流することで、ゼロ号機、一号機の制作を実現しています。H野製作所の職人たちは、様々な異業種の人たちと交流する中で、発想や腕がさらに磨かれます。社内に新たな技術が芽吹き、育ってきている、という実感があるそうです。
主体性をもって製品を作っていく時代に
自動車部品をこれまで主に製造してきたNットーも、細やかなニーズを汲み取ったオリジナル製品の商品化を実現しています。
▼立ったまま座ることができるアシストロボット 藤澤社長と共に装着体験する劇団ひとり教官
▼外科医などから開発依頼をうけて、椅子がない場所でも座ることを実現した
なぜ「魔改造の夜」に参戦するのか
Y精密 大坪代表:元々Y精密は公衆電話の部品を作っていました。時代と共に公衆電話の需要が減り、航空機の部品の製造を多くしてきたが、コロナ禍でその仕事がまったくなくなってしまいました。そんな大変な最中に「魔改造の夜」からお誘いがあり、社内からはいろんな意見が出ました。しかし「大変な時に縮こまっては終わってしまう」、苦しい時ほど次へのチャレンジをしなくてはいけないのではと思い「やるかやらないかで迷ったら、やってみよう!」と舵をきり参戦を決意しました。実際に参戦してみて、正直大変ではあったものの、会社のみんなが熱くなれてチームワークや一体感が生まれたということはすごくよかったなと思っています。
Nットー 藤澤社長:参戦するかどうかは非常に悩みました。それでも参戦したことにより、大変ではありましたが、リーダーや若手も含めてみんなが成長できたと思っています。モノづくりの楽しさを感じてくれたのがすごくうれしかったです。
H野製作所 浜野社長:新たなチャレンジをすることによって今まで見えなかった景色が見えるようになります。そういったチャンスは誰もが平等に与えられているというわけではないので、その機会がこの「魔改造の夜」であってほしいと願っています。これを経験した若い人たちに世界の最前線で活躍してもらいたいと思っています。
質疑応答
生徒 清水 由彦:魔改造の夜に参加するにあたり、社内での意見が分かれたかと思います。「参加しないほうがいいのでは」という意見を持った人たちに納得してもらうためにはどういうことに気をつけましたか?
Y精密 大坪代表:何かを決める際に全員賛成ということはまずありませんよね。そして賛成が少数であってもやるべきことというのもあると思います。そういったときは「決めたことを正解としましょう」とし、一回決めたことはみんなでサポートしていく体制を作っていくようにしています。
長藤准教授:大企業においては「みんなが賛成しないと動けない」ということが往々にしてあると思います。できない理由はいくらでも出せるんですが、できる理由がひとつでも見つかったらやってみようぜ、となることが大切なんだと思います。
全8回の講義を終えて…
生徒:高専5年舘野 桜
モノづくりって楽しいけど、できないことがあると一気に不安要素に変わってしまい困ってしまうことがあるのですが、今回、総合的に学べたので、すごい成長できたなって感じています。モノづくりしたい欲が沸いてきました。
生徒:発明家藤原 麻里菜
技術力のある皆さんが、役に立たないことに対して一直線にやっている姿をこうして見ると、個人でモノづくりしている身としてはすごく勇気づけられました。一丸となって一緒にやりたいなって思いました。
生徒:機械工学博士課程1年 青野航大
モノづくりを始める前の発想だとか、チームをまとめ上げるリーダーの力だとか、本当に様々な要素が重なって、本番の成功につながるんだなっていうことをしっかり学べました。日常の中で実践していけたらなと思います。
生徒:機械工学博士課程2年斎藤菜美子
失敗してもいい、失敗は当たり前、という考え方を持ち、そこからどう改善していくのかが大事であるということが学べました。魔改造だけじゃなくて、人生でも通用するすごく大事なことだなって思いました。
魔改造の夜 技術者養成学校 校歌斉唱
♪胸に潜めし魔の心 腕に忍ぶは邪(じゃ)のスキル
♪己と友とライバルと 常軌を逸していざゆかん
♪ああ 魔改造 ああ魔改造 過ち倒して切り拓け
♪ああ 魔改造 ああ魔改造 我らは誇り高き マッドなエンジニア