NHK俳句

高野ムツオ特選句発表

4週目の選者：高野ムツオさんの特選句を放送後に発表。俳句と選評コメントを掲載します。

3月24日放送「父」特選九句発表！

公開：2024年3月25日(月)午前10:00

終戦を海の底から聞いた父　　茨城県那珂市　宮澤史子さん〈評〉終戦の玉音放送。ラジオの前に正座する家族が目に浮かぶが、実際はさまざまな場所で聞いたに違いない。海で死んだ父は海の底で聞くしかない。戦争の悲惨と作者の憤りが込められている。父の腕には海老反りの入園児　　滋賀県栗東市　蜘蛛野澄香さん〈評〉入園式の帰りの公園あたり。園児が父親の腕に抱かれたまま体を大きく反らしている。緊張感から解放され、ゆっくり父に甘えられるうれしさが「海老反り」の一語にあますところがない。籾蒔くや親父譲りの蝮指　　千葉県旭市　　岡邦俊さん〈評〉蝮指は第一関節の先が反って短く太い指。形が蝮の...記事を見る

2月25日放送「バス」特選九句発表！

公開：2024年2月26日(月)午前10:00

陽炎に浮いたバス来るそれにのる　　埼玉県加須市　持塚悦夫さん〈評〉街中もいいが、田園の方が自然。陽炎に揺らぎながら、田圃の一本道をやって来るバスがユーモラス。さて、どんな乗り心地なのだろう。すぐに夢の世界に連れて行ってくれそうだ。話しかけ話しかけられ帰省バス　　千葉県松戸市　覚正一徳さん〈評〉帰省バスと言っても長距離バスではない。ローカル線から乗り換えた循環バスあたり。「暑いね。どこまで帰るの」「隣町まで」「親孝行するんだよ」「はい、頑張ります」。ガトゴトと楽しげ。人はみな誰かの遺族春のバス　　神奈川県川崎市　蒼空蒼子さん〈評〉地方の路線バスあたり。対面の座席に...記事を見る

1月28日放送「扉」特選九句発表！

公開：2024年1月29日(月)午前10:00

寒夜の扉ひとりになっただけのこと　　神奈川県寒川町　石原美枝子さん〈評〉状況は想像に任されている。共に暮らしてきた人との死別とも、恋人との決別とも。今夜からは一人きりの生活。寒夜の扉の前で、ただそれだけなのだと自分に言い聞かせている。それが切ない。はつゆきや絵本の扉よりうさぎ　　石川県白山市　真砂光子さん〈評〉初雪は胸がときめくもの。絵本の扉に描かれたうさぎも初雪を喜んで、絵本を開いたとたん飛び出してきた。見ていた傍の幼な子も目を丸くして喜んだだろう。メルヘン溢れる幻想世界。冬の星扉はそつと閉めてよね　　兵庫県神戸市　立花紅さん〈評〉扉を閉めたのはやっと温かい家...記事を見る

12月24日放送「靴」特選九句発表！

公開：2023年12月25日(月)午前10:00

新しき雪靴まづは手を入るる　　新潟県村上市　鈴木正芳さん〈評〉雪靴は高価、しかし、雪国には不可欠。愛用していた靴がだいぶくたびれてきた。思い切って新調した。まずは手を入れて履き心地を確かめる。今冬、よろしく頼むよとの声が聞こえそうだ。人形のよごれぬ靴よ雪催　　大阪府豊中市　葉村直さん〈評〉人形もいろいろあるが、ここではガラスケースに入った観賞用の西洋人形がいいだろう。一生歩くことはできないが、きれいな靴を履いている。人形を慰めるように、やがて雪となる。ストーブの前に家族の靴揃ふ　　北海道札幌市　福原あさひさん〈評〉まずは小学生の弟、続いて買い物帰りの母と部活帰り...記事を見る

11月26日放送「手」特選九句発表！

公開：2023年11月27日(月)午前10:00

両の手が銀河にとどく肩車　　東京都足立区　大和田博道さん〈評〉「あれが天の川」と父の声。肩車された子供が、「見つけた、天の川だ！」と両手を広げた。現実に銀河に手が触れるはずはないが、親子の心の中では、間違いなく銀河に触れている。手に蓋をして団栗は宝物　　大分県玖珠町　大野洋子さん〈評〉公園の楢の木の下あたりから見つけて拾ってきたのであろう。小さな団栗なのに手のひらに手のひらで蓋をする。手もかなり小さい。母親の前で今、手の蓋を開こうとしているに違いない。スケートの手解きや手を取り合うて　　東京都中央区　久塚謙一さん〈評〉若いカップル。スケートが初めての彼女の手を取...記事を見る

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