旅人・溝端淳平が見た ピカソの「サルタンバンク」

NHK
2023年5月3日 午後10:45 公開

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■ピカソ『腕を組んで座るサルタンバンク』に感じた孤独

やっぱり生の絵からは迫力や力強さを感じました。サルタンバンク(軽業師)といえば、僕たちの仕事と一緒で体を資本にしているわけで、自分と近いものを感じましたし、もしケガをしたり体を壊したりしたら、生活もままならなくなってしまう・・・。絵の中のサルタンバンクの若者は、肉体的には筋骨隆々でたくましくもあり希望もあって、でもいまがずっと続くわけでもないという将来の不安も垣間見えました。この絵から、僕はどちらかというと孤独を強く感じたのかもしれません。

■若者ならではの期待と不安、そしてエネルギーがこの絵に

誰しもあると思うんですけれど、若いころは期待も不安もひとしお大きい時期。でもそういう時を経て今の自分がある。僕は今年で34歳になりますが、昔、先輩方にどうして可愛がってくださるのか聞いてみたことがあったんです。その時に「若いやつといると元気をもらえる、エネルギーをもらえる」とおっしゃっていたことが、いまは自分もなんとなくわかるようになってきたんですよね。年上の方といると勉強にはなる。でも自分より若い方と仕事をすると、その方たちからあふれ出るエネルギーというのがやっぱりあって。

きっとホロヴィッツは、あれだけ大成して世界的に著名で、実力を認められていたけれど、そういう人ほど孤独だったんじゃないかなと思うんですよね。同じ次元で彼の気持ちがわかる存在っていうのがなかなか難しかったのかなと。だから、ホロヴィッツはあの絵に、孤独な自分を重ね合わせていたのかもしれないし、不安そうだけれどなぜか自信ありげにも見える若者の姿から力をもらっていたのかもしれないと思いましたね。

■サルタンバンクにこめられた代々の主たちの思い

石橋正二郎さんが、戦後に美術品を普及しようとしてくれていた、その志。さらにそれを継いだ息子さんが亡き父が欲しがっていただろう絵を手に入れて、気軽に見に行ける場を提供してくれているということが素晴らしいなと思いました。自分も今回番組を通してはじめて生で見ることで、言葉にはできない目には見えない得るものがあったなと思います。サルタンバンクの絵には、ピカソが描いたときの思いがこめられているだろうし、いろいろな主たち、ホロヴィッツに渡り、石橋財団に渡り、いろいろな人たちの思いが全部吸収されて、今がある。そういう歴史を知ったうえで見ると全く違うものに見えますよね。

■この番組の見どころは?

作家にフォーカスしたドキュメンタリーは結構あると思うんです。でもこの番組では作品自体がしゃべります。作品からみた画家のピカソだったり、ホロヴィッツだったり、石橋財団だったり、想像がどんどん膨らんでいきました。今日も撮影をしながら実はこうだったんじゃないか、ああだったんじゃないかとか、人それぞれ解釈が違うでしょうが、想像は無限大ですよね。僕は美術品を見ることに対しては初心者ですけれど、自分なりの解釈で、自分なりの思いで楽しめました。いままでのドキュメンタリーとはちがい広がりのあるファンタジーという感じがしています!

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