土曜の夜に考えた。今村翔吾さん×NHKニュース

サタデーウオッチ9 越村真至
2022年11月11日 午後7:01 公開

サタデーウオッチ9放送直後のアフタートーク、「土曜の夜に考えた。」

今回は、歴史小説『塞王の楯』で直木賞を受賞した作家の今村翔吾さんです。

今村翔吾さん

1984年京都府生まれ。ダンスインストラクター、作曲家、守山市埋蔵文化財調査員を経て作家デビュー。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。

今村さんは、サタデーウオッチ9の番組の最後に、「大河ドラマを3歳のころから見ていた」と発言されたのですが、私(筆者)は少し意外に感じました。今村さんが作家を目指した原点は、小学5年生のときに読んだ『真田太平記』だったというインタビュー記事を読んでいたからです。歴史好きになったきっかけは、実際はいつなのでしょうか?

今村さん)

「僕の最も古い記憶に残っているテレビ番組が、大河ドラマの『独眼竜政宗』(1987年)なんですよね。大河ドラマは、僕が生まれる前の作品も、DVDでさかのぼってずっと見ていました。七五三で『伊達政宗!』って言いながら、走り回っている映像も残っています。歴史小説を読みだしたのは、小学5年生なんですが、それより早く“歴史好き”になったのは、まさに『独眼竜政宗』がきっかけでした。オープニングの映像で、騎馬武者が突っ込んでくる場面があるんですが、『かっこいい』とやたら言っていたと、母親から聞いています。オープニングから見られなかったら、すねていたらしいです笑」

歴史好きは映像から始まったという今村さん。小説を書くときも頭のなかに映像が流れているといいます。実際、どのように小説を執筆しているのか、小説を書くときも映像が先行するのでしょうか?

今村さん)

「自分のなかで『ここは寄りで書こう』『顔に接写しているようなカメラワークで、登場人物の息づかいを描こう』とイメージしているときもあれば、ドローンで撮っているかのような、俯瞰(ふかん)のイメージで書くときもあります。文章にそれを起こすと、寄りと引きで表現の仕方が変わってきますよね。例えば、引きになると主人公の唇のひび割れは、絶対見えないなと。

『歴史』というと、入っていきにくいと思うんですよね。僕は、小説よりも映像のほうが入りやすいと感じています。“小説だけど、ちょっと映像より”というか、ビジュアルが浮かぶようにすることによって、歴史という難しいところに入りやすくしているつもりです。冒頭に、時代背景についての難しい解説文のようなものがあると、読者は嫌がってしまいます。その内容も知ってもらわないといけないんですけど、どこに散りばめるのか、どの段階で知ってもらうのかをすごく重視しています。例えばいまは、南北朝時代を舞台に小説を書いていますが、『南北朝時代ってこうだよ』という内容は、主人公たちの日常会話のなかにちりばめるんですよね。あえてアクションの場面から始めることもあります。『え、なんでこいつら戦っているんだろう…』と思うような、どの時代かわからない入り方をしても僕はいいと思っています。いわゆる本読みの玄人にも楽しんでもらえるような要素は残しつつですが、本離れが言われているなかで、どんと構えて『読まへんやつはいいや』という時代ではないと僕は思っていて、若い層にも読んでほしいという思いがあるから工夫しています」

「読んでほしいから工夫をする」言葉にするのは簡単ですが、読者をひきつけるその工夫こそ、今村さんの真骨頂なのだと思います。そうした工夫で読者に伝えたいことは何か聞いてみると、歴史の面白さを広めたいということにとどまらない、思いを教えてくれました。

今村さん)

「30年ぐらい前までは、家のなかでの日常会話で『忠臣蔵が…』といった会話が結構あったはずなんですよね。それが、どんどん消えていって…。そういうフランクな『歴史って楽しいよ』という会話を、もう一度取り戻したいなって思いがあります。サーフィン好きな人が誰かと一緒に楽しみたい、というのと同じで、深い意味はないです。ただ、気になるのは『歴史を学んでも仕方ない』と言われることがあるということです。それを言い始めたら、どんな趣味も、どんな知識もそうなのに、役に立たないみたいなことを言われているんですよね。僕が若い人に講演でいうのは、『歴史は“人生のカンニングペーパー”だよ、学ばないのはもったいないよ』ということです。先人たちが同じような選択を迫られたときに、こういう選択をしたらこうなったという、ひとつの例が載っているものだと。これを現代に変換するのは、さして難しくないです。人間はそんなに変わらないから。だからといって、分厚い歴史書を読めというのはちょっときついから、エンタメから歴史の面白さに入ってもらえたらいいかなと思いますね」

近年、ニュース番組などのコメンテーターとしても活躍する今村さん。歴史を知っているからこそ、ニュースの見え方も変わるのでしょうか。最近のニュースで気になるものを聞きました。

今村さん)

「この3年間のコロナ禍に、ある意味よく似たことは歴史のなかで何回か起きています。ペストや明治期に日本でも大流行したコレラ、平安時代の天然痘もあります。そういうときに、人間がどうやってきたかのかを知っていると、コロナも見方が絶対変わってきます。現代より医療が発展していなかったときに、人間はどのように行動して、どのように乗り越えたかを、僕は真っ先に思い出したんですよね。一方で、何も変わってないと思ったこともあります。天然痘のときにも、まったく根も葉もない風評が飛び交いましたが、現代でも同じように、いわれのない人が病原菌の始まりだと叩かれたりしています。変わらない点は良くない点なので、過去から学ばなければならない。そういうことを乗り越えてきた日本人であったり、人間の歴史に自信をもって強さを持たなければならないと思います」

直木賞を受賞した『塞王の楯』では、安土桃山時代を舞台に、決して破られない石垣をつくろうという職人と、どんな城でも落とす砲をつくろうという職人の対じを描いています。現実世界では、ウクライナ侵攻が長期化し、プーチン政権は核戦力の使用も辞さない構えを示すなど、情勢が緊迫化しています。戦を扱った小説の作者として、ウクライナ侵攻をどう見ているのでしょうか?

今村さん)

「古くはモンゴル帝国のころから、いまのウクライナやベラルーシにあたる地域は、ヨーロッパの入口にあたる場所にあって、かつ穀倉地帯ですから、大きな勢力に狙われるんですよね。ウクライナにはそういう歴史があって、同じことを繰り返しているなと思います。ただ、覇権国家が最後までうまくいった歴史がないというのも事実です。約800年前の例でいうと、ウクライナにあたる地域の人々は数十年間押されまくって、圧制を受けていた地域もあるんですけど、最後は追い出しているんですよね。分断されていた人がもう一度結集してきた。再起した歴史があるので、願望も含めてですけど、僕はそこに希望を見ます」

「映像を文章に起こしているイメージ」と語る今村さんに、最後にこんな質問をしてみました。

―――ご自身の小説を映像化するときは、みずから監督をしたいのではないですか?

今村さん)

「そこはプロに任せたほうがいい。やりたい気持ちはあるけど笑 自分から離れた『監督の作品』だと思うし、『なんかちゃうな』となっても、それも含めて楽しめる。自分の作品を一読者として見る、それが夢です。大河ドラマにでもなろうものなら、日曜日の仕事を全部キャンセルして見るよ。リアルタイムじゃないと嫌だから笑」

【取材 越村真至】ディレクター、神奈川県川崎市出身、社会人になってから読書に目覚める

【写真 木村和穂】ディレクター、普段はドキュメンタリー番組を中心に制作。最近はウクライナ関連の取材が多い。好きなウクライナの食べ物はサーロ(豚の脂身の塩漬け)

「サタデーウオッチ9」は毎週土曜夜8時55分から放送中!

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