4月2日から本格的に始まる、土曜夜のニュース番組「サタデーウオッチ9」。
毎回、出演ゲストと放送直後にアフタートークをすることにしました。話したりなかったこと、もう一歩踏み込んで考えた個人的なこと…印象に残ったニュースを糸口に、一緒に考えていきます!
今回は、番組開始前の番外編。
音楽を担当してくれたピアニスト・角野隼斗さんです。
【角野隼斗さん 1995年生まれ 東京大学大学院情報理工学系研究科卒 大学院ではAIを研究 第18回ショパン国際ピアノコンクール(去年10月)のセミファイナリスト 「Cateen(かてぃん)」名義でも作曲・編曲 テレビでよく見るのは音楽番組とドキュメンタリー】
サタデーウオッチ9の番組開始が迫ってきた3月初め、角野さんが母校で演奏するという話を聞きつけて、都内の開成中学・高校の講堂を訪れた。
番組音楽の作曲を依頼したのは去年12月。そろそろ曲はできるのか?どんな曲を作ろうとしてくれているのか?直接、聞いてみたいと思っていたから。
角野さんはクラシックに軸足を置いているが、ジャンルを超えたアレンジで、幅広いファンから支持を集め、ユーチューブのフォロワーは96万人を超える(4月2日時点)。
この日も、ピアノにピアニカを加えるアレンジで、ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」を後輩たちに届けていた。ピアニストとしての本流を歩みつつ、型にとらわれずにオリジナリティを追求する角野さんの真骨頂だ。
演奏の前に、角野さんが後輩たちに語った学生時代のエピソードのなかに、表現者としての角野さんの核心がうかがい知れる話があった。受験を控えた高校3年の12月、音楽ゲームにハマり、全国大会に出場したそうだ。
「大好きだったんです、音ゲーが。本当にはまっていて、ずっとゲーセンにいたという感じで。全国大会に行くぐらいまじめにやっていました」
苦笑しながらも角野さんが伝えたのは、好奇心が一番の原動力だということ。
「僕には将来の夢なんてなかったけど、その時々で好きなことをずっとやっていた。僕は大学院でAIの研究をしていたのですが、大学での研究も好きだったけど、音楽の方がのめり込めるっていうのが、うすうすわかっていて。本当に好きなことに没頭している時間を大事にすれば、将来に生きてくるじゃないかなと思っています。今は好きなことが価値になりやすい時代だと思うんです」
自分の心にある「好き」を大事に生きること。角野さんの枠にとらわれない多彩な音は、そんな「好奇心」が生み出しているのかもしれない。
サタデーウオッチ9のために、角野さんはどんな音を鳴らそうとしてくれているのだろうか。
演奏会の後、放課後の日差しが懐かしい音楽室で聞いてみた。
「ニュースって、ハッピーだったりそうじゃなかったり、いろいろあると思うんですけど、音楽で少しでも温かくなるものを込められたらいいなと。それはピアノという楽器が合っている部分でもあるので」
「僕が曲を作ったぐらいで世界は変わらないですけど、少しでも世界がよくなるように、ハッピーな気持ちになれるように思いを込めたいと思います」
実は私(筆者)、このとき、ちょっと心配になっていたんですよ。「角野さんに曲を書いてもらうって、もったいない使い方だな、申し訳ないな」と。
だってニュースのオープニング曲とかって、一瞬しか聞こえないときもあるでしょ?BGMも大きく聞こえる必要はなかったりするわけで…。
でも、角野さんの言葉に、番組制作者として背中を押された気がしたんです。
「何か情報を得たり、勉強したりするときに感じていたのは、客観性を重視するあまりに、何を伝えたいのかよくわからないことがあるということ。客観性は重要だと思うけれど、そこに人間が関与しているわけだから、僕は思考の過程を知りたくなる」
「それに今は、インターネットやSNSで簡単にほかの人にアクセスできるから、人の存在が昔より強くなっている気がして。AIの研究をしていたからというのもありますけど、音楽をやるうえで『人間がやっている』ということを大切にしているし、演奏家なので僕の色が自然に入ってくる。曲に作り手の影なんてないほうが作品自体の純粋性が高まるかもしれないと思うことはあるけれど、そのバランスなんですよね」
ニュースは、客観的に真実をお伝えしなくてはならない。でも、やっぱり知ってほしいのは、きょうを懸命に生きる人がいることやこの世界をよくしたいと歩んでいく人の姿、そして、希望だったりもするわけで。
だから、土曜の夜はちょっと立ち止まって、あしたや来週への何かを皆さんと一緒に見つけられないかなと。角野さんが奏でる音楽の力も借りて。
「サタデーウオッチ9」は4月2日(土)午後8時55分からスタート。角野さんの楽曲は、オープニング、スポーツ、気象情報、エンディングで聞けます。
【文章 原田季奈】「サタデーウオッチ9」立ち上げメンバー 静岡のお茶農家出身 盛岡局・長野局に勤務 最近、クラシック沼にハマる