土曜の夜に考えた。為末大さん×NHKニュース

サタデーウオッチ9 西川典孝
2022年9月21日 午後6:33 公開

放送後のアフタートーク「土曜の夜に考えた。」、今回は陸上競技の元オリンピック選手・為末大さんです。

聞き手はサタデーウオッチ9のスポーツキャスターを務めています、西川典孝。実は私、為末さんにお会いするのは3回目なんです!

為末大さん

1978年、広島県生まれ。陸上競技の400メートルハードルの日本記録保持者。2001年と2004年の世界選手権で銅メダル獲得。オリンピックには2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京大会に出場。2012年に現役引退、現在は執筆活動、会社経営を行う。パラスポーツの推進にも尽力、国連ユニタール親善大使。

まずは、こちらの写真をご覧ください!

1枚目は今から17年前、私、西川が中学3年生のときの陸上競技大会の表彰式です。憧れの為末さんから優勝証書と「おめでとう」という一言をいただけたことを、今でも鮮明に覚えています。

そして2枚目のこちら。今から10年前、私の通っていた大学に引退直前の為末さんが特別講師として招かれていたときの写真です。為末さんが来ていると聞いた西川は、その授業の終わりをドキドキしながら出待ちしていたんです(笑)。すでに教室の外には同じように待つ人が多くいて、列ができていました。写真は、ついに自分の順番が来て、実際にお会いできたとき。…少し緊張した表情ですね!

なんてったって、私のなかで為末さんはヒーロー的存在。まさかお仕事でご一緒できるなんて、当時の西川少年からすると夢にも思っていないわけです。写真を見せながら、そんな思い出を興奮気味に話すと為末さんは。

為末さん)

「そう言っていただけるなんて嬉しいです。最近、こういうのとても多くなりました。うわ~。この写真は17年前ですか?西川アナが幼いですもんね。中学生?これは…私も年取るわけですね(笑)」

いやいや、見た目も全然お変わりないですし、現役を引退してもSNSで活発に発信する姿を見ていると、今でも「若い」と思います。陸上競技では完全に雲の上の存在でしたが、サタデーウオッチ9で共演したこの日だけは、情報発信するものとして同じ立場。為末さんにメディアのあり方などについて伺いました。

恐れ多くて緊張した…。

現役時代の為末さんと言えば、“超”ストイックな練習量から「侍ハードラー」と呼ばれていました。いまではコメンテーターとして活躍したり、社会問題についてSNSを使って発信したりしています。そんな為末さんだから、きっとニュースも‟超“ストイックに収集しているのかもしれない…!そう思ってまず、ニュースをどのくらいチェックしているのかを聞くと、驚きの答えが返ってきました。

「ニュースですか。僕はニュースをチェックしていないんですよ。本だけです。本だけは読むけれど、あとは情報を取ろうとはしていないです。SNSは開きますけれど、そこで自然に入ってくる情報だけですね」

意外でした!世界の舞台で戦い続けた為末さんだから、海外の情報などもたくさんチェックしているのかと思っていました。ただ、色々なメディアがあるなかで、本を選ぶ理由はなんですか?

「本は編集の精度が高いんですよ。速報性はないですけれど、『あとで訂正すればいいや』ということが難しいので。週に1冊は読んでいますね。ジャンルはバラバラですけれど」

いつ頃から本を読み始めたんですか?

「小学校のときですね、読書部だったんですよ。学校に陸上部はなかったんですよね(笑)」

えー!それも意外です。今でも為末さんの中学記録は破られていないですし、わき目も振らずに毎日たくさん走っていたのかと。

「近所の陸上クラブに入っていましたよ。でも中学や高校では陸上に関する本を結構読んでいて、大学を卒業してからは違うジャンルの本も読み始めていましたね」

「走る哲学者」の異名は、きっとそのときからの読書が関係していたんですね。

「本の何がいいかって、1つの事柄について最後まで書き切っているってことですよね。たとえば安全保障にしても、北朝鮮から見た視点、中国やロシア、アメリカから見た視点など、1個1個の情報の奥にある背景を網羅している。テレビだと一瞬で流れていってしまうけれど、本は自分のペースで理解して読んでいける。本を読んだあとは見え方が変わりますよね」

そんな為末さんがメディアに求めるものはなんでしょうか?

「メディアの理想は、みんなにとって分かりやすく、かつ、考えるきっかけを提供することだと思うんですが、かなり大変ですよね。大きいメディアの役割は全体像を見せて、断片的な切り取り方をしないことが重要だと思います」

為末さんは、NHKをどう見ていますか?

「NHKが光るのはドキュメンタリーや調査報道ですよね。お金がかかるし、記者が何年もコミットして取材するじゃないですか。第二次世界大戦を追いかけるものとか。それができることが最大の強みだと思っていて。いまの時代だからこそ、国を越えてグローバルにやっていていいなと思います」

私たちも日々ニュースを発信していますが、いろいろな見方をどう提示して発信するのか、その塩梅を毎回探っています。SNSで発信を続けている為末さんが意識していることは何ですか?

「分からないことを、分からないと明らかにすることがすごく重要だと感じます。SNSをやる人には『分からないという人に教えたい』という人は結構いて。知りたいことがあるときには発信して教えてもらう。あとは訂正ですね。わかったと思っていたけれど違っていたときに、ツイッターでリプライされた訂正をツイッター上に並べて、それをフォロワーに見える化しています」

社会でなにかが起きているときに、為末さんのツイッターを見ればなにかヒントがあるかもしれないですね!

「そうですね。正解は分からないけれど、色んな観点があるということをまとめるようなことを実験しています」

なるほど、人が意見を求めて自然に集まってくるようになると面白いかもしれないですね。

アフタートークの最後に、為末さんの半径5mであったニュースを聞くと、ちょっと沈黙したあとにこんなことを教えてくれました。

「夏に僕の友人たちが家に来たんですよね。そのうちの1人が、みんなに桃を送るって言ったんです。それで桃が届いたんですけれど、私の自宅に立て続けに40個ぐらい届いて!その友人がフリマアプリを使っていたんですけれど、僕以外の友人に送る際に住所を変更するのを忘れていて。インターネットで手軽に買えて、手軽に送れたことによる弊害です。送り返さなくていいと言われたのですが、家族は海外に行っていたので、1人でずっと食べて…ようやく残り2個まで減りました(笑)」

少しゆっくりとしたテンポで柔らかく話す為末さんに、気が付いたらアフタートークの場にいた誰もが笑顔になっていました。

印象的だったのは、「SNSの使い方」です。「分からないことを分からない」とはっきり言うこと、間違った時は訂正。これまでは、為末さんは物事を哲学的に冷静に見る方という印象でしたが、今回感じたのは「優しさ」でした。言葉を発する前にさまざまな見方で、相手に届く言葉を選ぶ。SNSを駆使した発信者として、メディアの新しいあり方をみずから実験し続ける為末さんを、初めてあった17年前と変わらず、いや、その時よりもさらにかっこよく感じました。

為末さんとの4回目の出会いがあることを期待して。ありがとうございました!!

【取材】サタデーウオッチ9 スポーツキャスター 西川典孝

【写真】サタデーウオッチ9 ディレクター 越村真至

「サタデーウオッチ9」は 毎週土曜 夜8時55分から放送中! 

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