出演ゲストと番組終わりのアフタートーク、「土曜の夜に考えた。」
今回はテレビ・雑誌などさまざまなメディアで活躍する、医師のおおたわ史絵さんです。
おおたわさんは、実の母親が薬物依存症だったことを公表していて、著書には家庭での壮絶な経験が赤裸々につづられています。その経験を経て、いまは矯正医官として刑務所の受刑者などの診療に携わっています。
なぜ刑務所で働くのか、これまでどう生きて抜いてきたのか。生きるヒントがあるのではないかと、番組終わりに聞きました!
おおたわ史絵さん
総合内科専門医、法務省矯正局医師。東京女子医科大学卒業、大学病院、救急センター、地域開業医を経て、現職。実母を薬物依存症で亡くした経験をもとに依存症問題に取り組む。
「矯正医官」は、刑務所や拘置所、少年院などに収容されている人の診察をする医師です。おおたわさんは父親から引き継いだ医院を閉院したあとに、2018年から矯正医官として勤務しています。著書「プリズン・ドクター」では、塀の中での医療の現実や受刑者との関わりについて、ユーモアを交えながら伝えているおおたわさんですが、なぜ矯正医官として歩み始めたのか。背景には、薬物依存症だった母親の存在がありました。
おおたわさん)
法務省が医師を探しているということで、私のところに一本釣りで話がきました。だいたいの人が断るんですが、私は「面白そうだな」って思っちゃって。見学に行ったら受刑者たちをまったく怖いと思わず、「私、これできる。向いている」って思ったんです。悪いことをした人たちということはありますが、すい臓ガンはすい臓ガン、糖尿病は糖尿病だと思った時に、刑務所の外の患者と何にも変わらないなと思って、「やります」って言って。
それに受刑者たちは、薬物犯罪と窃盗が圧倒的に多いと聞いて。どちらも医学的には依存症の部分があります。薬物依存で母を亡くしていますが、母は全く治療できず、快方に向かわせることができなかったので、すごく心残りだったんです。「いつか依存症や薬物の問題を抱えている人の医療に携わることができればいいな。きっと自分にとってやるべきことだな」と思っていたところに、矯正医官の話がきました。実際に、薬物の問題を抱える患者さんに、直接接することができる現場っていうことで、自分は向いているなと思ったんですよね。
受刑者の社会復帰や再犯防止のベースとなるのが、心身の健康。それを支えているのが矯正医官です。
罪を犯したことは悪いことだが、その背景には、親の顔を知らず、ひらがなすら間違えてしまうような人生もあるというおおたわさん。だからこそ、「犯罪を繰り返さないように、刑期を終えたあとのヒントになるように」と、受刑者たちにこんな冗談も言うことがあるんだそうです。
おおたわさん)
刑務所の外には、いい薬がいっぱいあって、治療の選択肢もあるのに、刑務所の中だから使える薬がすごく少ない。こんなところにいるから、治療が遅れてしまう。もったいないことしたね」っていうようなことを言って、一生懸命やって早く刑務所を出るのがいいという話をよくします。そうすると「罰が当たったんだな」って言う人もいます。そういう人間が悪い人であれ、興味の対象なので、面白い仕事ですね。
穏やかで明るい印象のおおたわさんですが、子どもの頃は不安定な状況が続き、爪かみや抜毛症(ばつもうしょう)など自傷行為があったそうです。そして、いまも心身に負担が大きくなると現れてくるといいます。ただ、自分からのサインを察知して、回避するのが上手くなったとか。どうやって回避しているんでしょうか?
おおたわさん)
仕事が詰まっていたり、負担が大きくなったりすると、皮をむいたり毛を抜いてしまうことがあります。生放送中とか、割と多いです。だから、少しでもそういうサインが出てくると「あんまり無理するのはやめよう」「何もしないでボーっとする人生もいいや」と思うようにしています。あんまり働き者ではないですね。
番組の最後に言ったんですけど、中学生の頃からダンスをしています。研修医の時に一時辞めたんですが、その頃が、一番メンタルが悪くて。研修医生活が終わった後にはうつ状態になったのですが、回復して戻ってきたときに、ダンススタジオをのぞいたらすごく楽しそうに踊っている人たちがいました。「ダンスが好きだったな」と思い出したので、30歳ぐらいから再開しました。そこからは1度もやめずに、盲腸の時も退院してすぐレッスンに行ったり、コロナ禍でスタジオが閉まっていても、友達とスタジオを借りて踊ったりとかしていましたね。
実は、ニューヨークのカーネギーホールの舞台に立ったことがあるんですよ!30代の頃に、医者をやりながらですが、すごく集中して練習していたときにチャンスがあって。今は、誰かに見せるとか衣装をつけるとかそういうことがなくても、毎回のレッスンが自分の内面との対話の時間だと思っているので、レッスンをしているのが幸せだなと。ダンスなど必要だと思ったものを取り入れながら、年を取ってきたという気がしますね。
アフタートークの最後に、NHKになにか要望があるか尋ねてみると…!
おおたわさん)
『プリズン・ドクター』をドラマ化しませんか!(笑)NHKでしかできないと思います。罪の醜さとか愚かさということを知ってもらうこともできますし、人間というものを、いつも見ない角度から描くことができます。刑務所で頑張っている医療従事者、更生のために頑張っている少年少女、受刑者の人間性っていうものが見えることで、理解につながり、不要な偏見と差別の軽減につながる可能性があると思います。多くの人に伝わることが社会を変えると思っているので。
おおたわさん、ありがとうございました!
【文章 原田季奈】記者、静岡の茶農家出身。盛岡局・長野局に勤務、サタデーウオッチ9・ニュース7などニュース番組を担当
【写真 木村和穂】ディレクター、ドキュメンタリー番組を中心に制作。最近は、ウクライナ侵攻に関わる取材に従事
「サタデーウオッチ9」は毎週土曜夜8時55分から放送中!
壇蜜さん、角野隼斗さん、香取慎吾さん、ヤマザキマリさん、厚切りジェイソンさん、山崎亮さん、増田明美さん、番組キャスター・赤木アナ×番組責任者、牛窪恵さん、富永京子さん、真山仁さん、刈谷仁美さん、原晋さん、トラウデン直美さん、パックン、為末大さん、中野信子さん、今村翔吾さんとのアフタートーク公開中!