土曜の夜に考えた。ヤマザキマリさん×NHKニュース

サタデーウオッチ9 木村和穂
2022年4月14日 午後6:00 公開

4月から始まったニュース番組「サタデーウオッチ9」。みなさん、どんな風に見てくれていますか?

番組では、生放送終了後に出演ゲストと、番組のことやニュースのことを一緒に考えていきます。今回お届けするのは、ヤマザキマリさんとのアフタートークです。

ヤマザキさんは、古代ローマ人が現代日本にタイムスリップし、風呂文化を吸収していく人気漫画『テルマエ・ロマエ』の作者として知られていますが、実は、かつて北海道のテレビ局で数年間レポーターをしていたこともある異色の経歴の持ち主。朝の日課は「各国ニュースをチェックすること」という筋金入りのニュースウオッチャーでもあります。

そんなヤマザキさん、ヨーロッパからみた日本のニュース番組の特徴や私たちへのご意見など、忖度なしで話してくれました。

ヤマザキさん出演の放送は見逃し配信しています!(16日まで視聴できます)

ヤマザキマリさん

1967年生まれ。17歳でイタリアへ渡り、油絵と美術史を学ぶ。『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞、手塚治虫文化賞短編賞受賞。エジプト、シリア、ポルトガル、アメリカを経て、現在はイタリアと日本に拠点を置く。趣味は昆虫採集・飼育、南米文学と南米音楽、温泉巡り。

―――生放送で話し足りなかったトピックはありますか?

ヤマザキさん)生番組で自分の喋りたいことを枠に収めるのはなかなか大変ですね。例えば、Bizトレのコーナーで扱った子どもへの金融教育のトピックは興味深くて、あの場でいろんなことを考えてしまいました。親が子どもに説明したくても、まず親が経済のことについてよくわかっていないということでしたけど、「経済」という概念を難しく考え過ぎているのかもしれません。

例えばイタリアでは、どこそこの誰が人から借りたお金を返せなくなって大変なことになった、どこそこのお父さんは会社が倒産しちゃったらしい、みたいな結構シビアな話を平気で子供の前でしたりしています。すると子どもたちは、「お金はあれば嬉しいけれど、怖い側面もあるんだな」ということをごく当たり前に感じながら育っていく。

経済だけでなく、政治についても同じでしょう。日本では皆さんあんまり深刻な話題に入り込みたくないというのか、見たいものだけ見て、知りたいことだけ知ってふわふわと生きたいと思っている人が多い気がしますね。もちろん国民性というのがありますから、それが良い悪いということを言いたいのではありません。

ただ、お金も政治も、避けたり無関心でい続けていると、あとでしっぺ返しがくる可能性があります。17歳でイタリアに留学し、その後とんでもない困窮状態に陥ってしまった私がまさにそうでした。

欧米ではそういうシビアなことを子供の頃からわかっておかないといけない、何かあったときに防御できるのは自分自身しかないから、っていうことを子供の頃から叩き込んでいく傾向が強い。イタリアの家庭ではテレビの報道番組に向かって、「それ絶対うそだ」「おかしい」とかツッコミをいれながら見ている。そういう会話の中で、社会を見る目や政治を見る目というのがごく自然に育っていくというのはありますよね。どんな内容のものであれ、家族内のコミュニケーションが盛んになれば、子供たちはふつうに社会のことを覚えていくようになるでしょう。

留学中、よく出入りしていた芸術家や知識人が集うサロンで、老作家や他国から亡命してきた芸術家たちから「おまえは政治のことや、世の中のこともわかっていないのに、いったいどんな表現作品をつくろうと思っているんだ? おまえの夢想と幻想だけで描かれた絵なんて見ても、誰も感動しないぞ」と警告されていました。

どんなに若くても、自分が生きている地球の性格についてはよく知っておく必要がある。だから、毎日、新聞を何紙も読み比べたり、友人たちと政治情勢や歴史について議論をかわしていました。

それがなかったら私は『テルマエ・ロマエ』という漫画を描いていなかったと思うんです。あれは一見、お風呂のコメディという取っつきやすい話に見えますが、実は入っていくと古代ローマと日本社会との比較文化と向き合う仕組みになっている。意図していたわけではなく、自然にそうなっていたというほうが正しいのですが、イタリアでのあの辛酸や屈辱にみちた怒涛の経験がなければ、自己満足の絵ばかり描いて、おそらく絵描きや漫画家なんてやっていなかったでしょうね。

―――日本人はソフトな感触を好む。ではテレビ番組を作る側はどんなことを考えるべきでしょう。

ヤマザキさん)シビアな現実と向き合う番組を、もうちょっと増やしてもいいんじゃないでしょうか。「偏差値低めな番組を作っていかないと視聴者がついてこない」という話をよく聞きますが、それって要するに経済が良く回れば人間のクオリティは低くても別に構わない、って言ってるようなものじゃないですか? とはいえ、いきなり高尚なものを作れという意味ではなく、導入口をひねって面白くして、軽い気持ちで見てみたら実はものすごく奥が深かった、という構造の番組にヒントがあると思います。

―――ニュースをチェックすることが朝の日課だそうですね。イタリアのRAI、イギリスのBBC、アメリカのCNNもチェックされるとか。ヤマザキさんは、テレビは見ずに歴史書を読みふけってらっしゃるイメージがあったので意外でした。

ヤマザキさん)歴史と現在進行形の社会情勢は完全にシンクロしていますので、どんな歴史学者も皆さんしっかりニュースはご覧になっているでしょう。歴史書というのは自分の目で見てきたことと照合するわけにいかない、ある種のフィクションですから、歴史書だけ読んでいるのは実に心許ないことです。

例えば今連載している『プリニウス』という古代ローマ時代の博物学者が主人公の漫画作品で、私は当時の皇帝だったネロの残虐性について描いていますけど、皇帝ネロのことを知るためには歴史書を読むだけでは立体感が出せません。ネロの時代については、ナチやファシズム、そして近代現代の独裁者とその周辺で起こったこと、そしていまウクライナで起きていることとも重なります。

ニュースというのは人間という“生態”を俯瞰で知るために必要不可欠なものだと思います。しかも1つの報道だけを見るのではなく、さまざまな国の倫理的解釈が同じ問題をどう捉えているのかが知りたい。こっちが正しいと考えていることが、他国ではそうではないかもしれない。報道というのは、そもそも内容を信じ込むために見るのではなく、我々が自分の脳で考えるためのきっかけを与えてくれるものと捉えています。

―――各国のニュース番組を見比べると、その国らしさって見えてくるものですか?

ヤマザキさん)見えてきますよ。イタリアとか、フランス、ドイツでもそうですけど、報道番組ではジャーナリストやアナウンサーが視聴者に対して媚びているような様子はあまりないですね。前のめりの姿勢で圧力たっぷりな報道をしている女性アナウンサーがたくさんいますが、かたや日本ではやはり世間体の戒律を意識して「視聴者から何か言われるんじゃないか」という当たり障りのなさへの配慮を強く感じます。

でも、それは日本人という国民性を慮ったやり方だと思いますし、いきなりイタリアのニュースキャスターみたいな、圧たっぷりのパンチの効いた女性を起用したところで日本には適合しないでしょう。皆怖がってニュースを見なくなってしまう(笑)。欧米の報道の様子を知ることは大事ですが、なんでも西洋化すりゃいいというものでもないですからね。

ただ、世間のジャッジに怯えてしまうことによって、本当に言いたいこと、伝えたいことがどんどん言えなくなってしまうのは、やがて社会の脆弱化、国家の脆弱化に繋がる可能性はあるでしょう。自らの国の欠点と向き合わずして、蛙の王様みたいに肥大したり奢ったりしていると、いざというときに大変なことになってしまう。

そもそも言論の自由というのは、踏み込んで発言していくことで獲得していくものじゃないかなと思います。報道は本来ジャーナリストが見てきた真実や実態を伝えるためにあり、そこに携わる人は言論の自由という特権をもっと多いに駆使してもらうべきだといつも思うのです。そして、報道が国家や権力者の情報操作の手段にもなり得ることもしっかり心得ておかねばならないでしょう。

ここにきてその傾向がまたどんどん顕著になりつつありますが、報道というものの性質をしっかりと見極めることも、我々視聴者に問われるスキルとも言えるでしょうね。

ヤマザキマリさんのアフタートークを終え、「サタデーウオッチ9」を見てくれている皆さんの間ではどんな会話が生まれているだろう、と知りたくなりました。そして私は、「言論の自由は、踏み込んで発言していくことで獲得していくもの」というヤマザキさんの言葉を放送に携わるものとして、重く受け止めました。「踏み込んで発言」するためには取材が尽くされなくてはならず、それは簡単なことではないからです。

これからも、番組がきっかけで会話が生まれ、よりよい明日につながっていくように、そして信頼される報道機関であるために励んでいきたいと思います。

【取材構成 木村和穂】ドキュメンタリーを中心に番組を制作。最近はニュース番組に携わる機会を得て、その奥深さに驚嘆。仕事が忙しいときにかぎってサウナに行きたがる癖がある。

サタデーウオッチ9」は 毎週土曜 夜8時55分から放送中!

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