ピンポイント着陸成功のSLIMが第一歩に? 熱帯びる「月開発」の未来

NHK
2024年2月6日 午後5:16 公開

〈この記事は、2月3日の放送をもとにしています〉

今週、月から画像を送り続けてきた無人探査機のSLIM。こちらは、SLIMが撮影した最新の画像です。

様々な“犬”の名がついた岩石を探ることで、月の起源が分かるかもしれません。人類の月への探求は、いったいどこまで進んでいくのでしょうか?

月面着陸成功の「SLIM」に子どもたちも夢中!

横浜市で行われた、未来のテクノロジーをテーマにしたイベント。月や宇宙の展示エリアには、多くの来場者が集まっていました。

月面探査車のレプリカを操縦する体験や、無人探査機SLIMなどを学ぶコーナーも…

スタッフ)

「SLIMが月に降りることができた。おめでとうございます。成功したね! 月面着陸に成功したのは、日本以外どこ?」

参加した子ども)

「ロシア、アメリカ、インド、中国」

参加した子ども)

「月に住めたら遊びたい。ぴょんぴょんしながら、誰がいちばん高く飛べるか」

訪れた人の中には、SLIMの着陸を祝ってケーキを作ったという人も。

参加者)

「SLIM着陸おめでとうケーキ。みんなでデコレーションした」

【世界初!】SLIMが月面に「ピンポイント着陸」成功

1月、世界で5か国目となる月面への着陸に成功した日本の無人探査機SLIM。従来、誤差が数km単位とされてきた月面着陸で、誤差55mほどと推定される世界初のピンポイント着陸に成功。最大の目的を達成しました。

JAXA 「SLIM」の開発責任者 坂井真一郎プロジェクトマネージャ)

「クレーターとクレーターのはざまにあるような、普通に考えたら降りられると思わないような所に目標地点を設定して降りている。ピンポイント着陸については100点満点」

去年14年ぶりに選ばれた、日本の新たな宇宙飛行士の候補者からは。

宇宙飛行士の候補者 米田あゆさん)

「うさぎの耳の左耳のあたりにSLIMがいるのかな。あそこにSLIMがいるんだなという思いでずっと見続けるし、待っててね(という気持ち)」

【10の岩石の観測成功】月の起源解明に期待

さらに、月の起源を探るというのもSLIMの目的です。

月は、地球に別の天体が衝突したことがきっかけで、およそ46億年前にできたとする「ジャイアントインパクト説」が有力とされています。衝突によって宇宙空間に飛び散った地球内部の岩石などが集まって固まり、月が作られたと考えられています。

着陸したSLIMの周辺では、かつて月の内部にあった鉱物の一種が地表に露出しているとみられています。その成分が地球のものと似ていることが確認されれば、ジャイアントインパクト説を裏付ける証拠の1つになるというのです。

分析の鍵となるのは、マルチバンドカメラと呼ばれる特殊なカメラ。

10種類の特殊なフィルターが装着されていて、このカメラで撮影した岩石の画像を分析することで、地球に持ち帰らなくても鉱物の種類や成分が分かります。

今回、マルチバンドカメラで10の岩石を観測することに成功。現在、その岩石の分析が進められています。チームでは、結果を半年から1年後に公表したいとしています。

立命館大学 宇宙地球探査研究センター 岩石観測チームの責任者 佐伯和人センター長)

「世界で初めての観測データを出せそう。月と地球の起源の謎を解き明かすようなデータを出して、SLIMチームのみんなの恩に報いたい」

岩石に犬の名前…その理由は?

ちなみに、観測した10の岩石には犬の名前が付けられています。なぜなのか聞いてみました。

佐伯和人センター長)

「最初は番号をつけていた。そうすると『“1番”の石の観測の優先度は2番で』みたいな話になり、大混乱になってきて」

そこで犬好きの佐伯さんが提案したのが、犬の名前でした。

佐伯和人センター長)

「最初に例に出したのはトイプードル、柴犬、秋田犬ぐらいをババッと出して、あとは『私はこの犬がいい』みたいな感じで、それぞれの好きな犬の名前をつけていった。犬の名前がついていることで、研究者がどんな感じで議論しているか、いろいろ想像してくれているみたいでよかった」

【解説】SLIMが成功した「ピンポイント着陸」のすごさ

惑星科学が専門でJAXAでの勤務経験もある、寺薗淳也さんに話を聞きました。

今回SLIMが降り立った場所は、月のうさぎの、上の画像で示した辺り。平らな土地ではありませんが、無事着陸しました。

―――こうした場所へのピンポイント着陸成功は世界初とのことですが、どれぐらい難しいのでしょうか?

寺薗さん)

「画像からも分かりますが、石が非常に多く、地面が斜めになっていたり、向こうの方には山のようなところも見えます。非常に起伏が多く、本来は離着陸をしたい場所ではありません。

 ピンポイント着陸の方法はというと、まず月の周りを回り、近づいたところで時速6,000キロほどまで出ているスピードを緩め、着陸地点の画像を認識しながら、最後は垂直にストンと降りていきます。月は地球より小さいですがそれなりに重力もあって、重力のことも考えながら降りなければいけないので、大変です」

【解説】「水」きっかけに活発化する月探査

月への人類の探求は、今どこまで進んでいるのでしょうか。

月の探査といえばアメリカのアポロ計画が有名です。1969年にアポロ11号が着陸し、人類が初めて月に降り立ちました。当時は冷戦の時代で、旧ソビエトも月面探査をめぐってアメリカに対抗していました。

ではなぜ、近年になってその動きが再び活発になっているのか。その理由は「水」です。月の北極や南極など太陽の光が当たらない場所では、高い確率で水が氷の状態で存在することを示す論文が相次いで発表されました。これを受けて、水の存在を確かめようと、各国が探査機を送り込む動きが激しくなっています。

こちらは、月面着陸に成功した国と回数、今後の着陸計画をまとめたもの。アメリカ、旧ソビエトに加えて、この10年あまりの間に中国、インド、そして日本が成功。今回このSLIMが狙い通りの場所に着陸できたということで、日本は今後、水があるとされる場所の周辺にピンポイントで降りられるのではと期待されています。

今後の着陸計画については、他の国々や民間企業も、水が存在するとされる月の南極などを目指す計画を立てていて、いっそう熱を帯びていきそうです。

【解説】月の「水」は見つかる?

―――水の存在を決定的に示すようなものは見つかっているのでしょうか?

寺薗さん)

「今まで“水がある”と言われているデータは、月の周りを回りながら、上空から撮ったデータをもとにしています。ですので、月の表面に氷があるとか、そういうものを持ち帰ってきたといった直接的な証拠はまだないです。ただ、ことしアメリカで『グリフィン』という着陸機を南極に送り、付属のローバーという探査車が月面をドリルで掘ったりしながら水の存在を探すことも計画されています。また来年は日本も行く予定ですし、月に水があるかどうか、決定的なことが分かるのではないかと思います」

【解説】月に水が見つかれば…どんな可能性が?

もし月に水があった場合、どんなことが可能になりうるのかを寺薗さんに挙げてもらいました。

月の可能性

・人間の長期滞在

・資源採掘

・火星への中継基地

・観光目的

―――人間の長期滞在や資源採掘などがありますが、なぜ水があることでこれらが可能になるのでしょうか?

寺薗さん)

「水は水素と酸素からできています。水素は燃料に、酸素は人間の呼吸に使えます。水素を使ってロケットの燃料を作る、燃料電池として使う、また酸素があれば月に長く人間が滞在できるようになります」

寺薗さん)

「資源採掘の点でいうと、月面にはアルミやチタンなどがあります。また『ヘリウム3』というものが、核融合という技術を使うと地球上の電力の数千年分を生み出せることが分かっています。今後、アメリカ主導で人間を再び月に送る『アルテミス計画』が進められていますが、こういった月の資源を使って、さらに火星へ人間を送るということも実現するかもしれないですね」

【月の開発】日本の民間企業も続々と…

寺薗さんがあげた状況を、あくまでイメージですが、模型にしてみました。

発電するための太陽光パネルや、人が長期滞在するための居住エリア、そして作物を育てる農業エリアもできると予想されています。こうした設備を作るために、日本の民間企業もどんどん参入しています。

こちらのイベント会場には、月の開発に携わろうという企業が出展。

VRゴーグルで月面体験できるブースを出していたのは、月に燃料のプラントを作ろうとしている企業。

一方、都内のベンチャー企業が目指しているのは、重力が地球の6分の1ほどしかない月での農業です。月面のような重力を生み出す実験装置を使い、数年以内に国際宇宙ステーションで実験しようと考えています。

宇宙開発のベンチャー企業 及川雅信部長)

「民間の創意工夫がこれから重要になってくる。ライフラインの一番重要なところは“食”。まずは手前のこういった実験の段階から着実にやっていきたい」

都内にある大手建設会社には『宇宙開発部』があり、およそ40年前から月に基地を建設するための研究に取り組んでいます。そうした中で開発したのが…

大手建設会社 宇宙開発部 鵜山尚大主査)

「弊社が開発した“月の砂”です」

アポロ12号が持ち帰った月の砂のデータを基に作った、ほぼ同じ成分の物質です。

コンクリートなどの建材を月に運ぶには、巨額の費用がかかります。月面の砂から建材を作り、現地調達できないか。その研究を地球で行うために砂を開発したのです。

リポーター)

「砂を触ったりとかは?」

鵜山尚大主査)

「吸い込むと危険なので」

本物の月の砂と同じように、粒子の角が鋭く尖っていて、吸い込むと体が傷つくおそれがあるといいます。

そして、その砂で作ったのが、レンガのようなこの建材。砂を1,100℃の熱で焼き固めて作りました。コンクリートと同じ強度があるといいます。

さらに今後は、月の砂に含まれる鉄やチタンなどの金属を取り出して建材にする研究も進めたいとしています。

鵜山尚大主査)

「月に人が行く時代が来たとき、建設業としてはインフラをきちんと整備するのが使命。フロントランナーとして走りきれるように頑張っていきたい」

【解説】広がる月開発の課題は?

―――国の開発競争に民間も加わり、今後は競争が広がっていくと思いますが、懸念や課題はどういう点でしょうか?

寺薗さん)

「月の資源の開発はルールがしっかり定まっていないため、このまま開発競争に世界各国がしのぎを削ってしまうと、“早い者勝ち”になってしまう。地球上で起きている、資源をめぐる紛争が宇宙でも起きてしまうかもしれないですね。開発をめぐり、きちんとルールを作る必要がありますし、月利用も平和的であってほしいと思いますね」