寒さ・医療崩壊・強制連行も? ロシアの支配続くウクライナ東部マリウポリの実情

サタデーウオッチ9
2022年11月30日 午後0:43 公開

「このままでは市民の命が危ない」

11月下旬、私たちのもとに届いたSOSのメッセージです。発信元はウクライナ東部のマリウポリ。ロシアによる占領が長引き、その実態が見えづらくなっているいま、いったい何が起きているのか。現地からの緊急報告です。

【記事は11月26日の放送をもとにしています】

見逃し配信はこちらから 12月2日まで視聴できます※別タブで開きます

「市民の命が危ない」

11月26日未明、ウクライナ・マリウポリから送られてきた映像に映っていたのは、1人暮らしの高齢の女性です。映像を送ってきた男性が訪れたときには、気温は5℃以下。80代のこの女性は、一枚の布団で寒さをしのいでいました。

インフラが破壊されたままのため、市内ではたびたび停電が発生。この夜も暖房が一切使えない状態でした。

ロシア軍との間で激しい戦闘が行われたマリウポリでは、侵攻前40万だった人口は 5月の陥落以降、12万に。高齢者など多くの生活弱者が取り残されました。

ロシア政府は、占領地で手厚い生活支援を行っていると発表していますが、戦闘の爪痕が放置された市内のあちこちには「凍える、助けてくれ」「凍るほど寒い」など命の危険を訴える切実な声が刻まれていました。

とくに深刻なのは、医療の崩壊です。キャンプ場の跡地で避難生活を送る人たちがいますが、多くが高齢で疾患を抱えています。

中には、ガンや糖尿病など重病を患う人もいますが、検査などを受けることを諦めていて、ガンがどのステージにあるのかもわからないといいます。

ウクライナ側に避難しているマリウポリ市議会は、11月14 日、「市内で毎週150人が亡くなっている」「戦前に比べて死亡率が5倍に急増している」と公表しました。

ロシア政府が続けているという生活支援ですが、多くの市民が支援を受けられない事態になっているといいます。

冒頭の、一枚の布団で寒さをしのいでいた80代の女性は、戦火で家や家族を失い、収入も蓄えもなく物置だったスペースで暮らしています。それでも生活支援を受ける対象になっていません。

なぜ、女性は生活支援の対象になっていないのか。ロシア側は公的な生活支援を受けるためには身元を証明するIDの提出を求めていますが、身分証明書はすべて燃えてしまったからです。

さらに、たとえIDがあったとしても、提示できずにいる市民も少なくないといいます。身内にウクライナ兵がいると知られることや、パスポートを取り上げられることを恐れているからです。

動画を送ってきた男性)

「ロシア側の公的な生活支援を受けられない人は今後増えていく。本当に憂慮すべき事態だと思う」

子どもたちはどこへ…

男性は、「いま、ほかにも気がかりなことがある」と明かしました。男性の自宅近くにあり、爆撃を受けた孤児院です。ここには多くの孤児が暮らしていましたが、その行方が分からなくなったといいます。

動画を送ってきた男性)

「以前は友達と正月などに孤児院へスイーツやクッキーを持って行きました。子どもたちのために小さなお祝いをしたくて。だから子どもたちを見つけて、無事を確認して安心したい」

子どもたちは一体どこへ行ってしまったのでしょうか。

指摘されているのは、ロシアが、保護の名目で子どもたちをロシア領内に強制連行し、愛国教育を強要している可能性です。その数はウクライナ全土で「およそ26万人」に上ると、今年7月、アメリカのブリンケン国務長官が発表しました。

国際人権団体 アムネスティ・インターナショナル アグネス・カラマール事務局長)

「われわれが把握している内容は氷山の一角であり、子どもたちの強制移送や強制縁組は おそらくアムネスティやほかの機関が調査したものより、はるかに規模が大きいと考えている。こうした強制移送や強制縁組みについて、われわれは人道的な犯罪行為と考えていて、だからより早急に調査すべきと考えている」

国際社会からの支援が届かない理由について、赤十字国際委員会は「紛争当事者は、ICRC(赤十字国際委員会)など人道支援団体の活動を妨げてはならないという国際法上(戦時のルールであるジュネーヴ諸条約)の義務を負っている。しかし、迅速に支援を届けたくとも、安全が保障されない限り、現実的に難しい。また、中立な組織として支援に入るにはウクライナ、ロシア双方の許可をもらうなど複数のプロセスを踏まなければならない。捕虜の訪問もしかり。そうしたもどかしい状況に、現場でもフラストレーションがたまっている。支援が必要な場所や人にたどり着けず、人道支援の空白が生まれている」としています。

【取材 社会番組部ディレクター 秋岡良寛】