【解説】ロシアから広がる天然ガスの供給不安 日本では「節ガス」の議論も

NHK
2022年7月27日 午後0:25 公開

7月11日、ドイツに衝撃が走りました。 ロシアが主要なパイプライン「ノルドストリーム」を通じた天然ガスの供給を点検を理由に停止し懸念が広がっています。 日本もエネルギーの一部をロシアに依存しています。 耳慣れない「節ガス」という言葉も聞かれ始めました。

(石川陽平、鈴木敏彦、川田陽介、ホルコムジャック和馬、越村真至)

【天然ガス供給に懸念 ドイツでは「まき」に注文殺到】

ドイツでは、国民や企業にガスの節約への協力を呼びかけていて、公共の温水プールでは水温を下げる動きが広がっています。6月の家庭向けのエネルギー価格は前の年の同じ月と比べて38%上昇。こうした中で「まき」の売り上げが大きく増えています。 まきや練炭の販売店には、ガス価格の高騰や先行きへの不安から早くも冬に備えようと注文が殺到していて、店は販売個数の上限を設けました。

背景にあるのが、ロシアからの天然ガスの供給に対する懸念です。ドイツが輸入する天然ガスの35%(4月時点)はロシア産です。 主にバルト海を通るパイプライン「ノルドストリーム」を通じて供給されてきましたが、ロシアは7月11日、定期的な点検を理由に供給を停止。この先、供給が再開されないのではないかと警戒感が高まっています。

エネルギーの供給に対する懸念は日本でも。日本はLNG(液化天然ガス)のうち、全体の8.8%をロシアから輸入しています。LNGは無色透明で、天然ガスをマイナス162度まで冷却してできた液体のことをいいます。液体にすると体積が約600分の1になるため大量輸送が可能です。

日本ガス協会によりますと、輸入したLNGの約6割が発電などに、3割以上が都市ガスに利用されています。ロシアからの輸入のほとんどは、日本の大手商社も出資する石油・天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」で生産されています。しかし6月30日、プーチン大統領が「サハリン2」の事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名。これまでどおりLNGを調達できるか、不透明な状況となっています。

【都市ガスを大量に使う日本の企業は…】

LNGが原料の都市ガスを大量に使う企業では危機感が高まっています。陶磁器の生産量日本一の岐阜県にある、住宅や公園に敷くタイルを製造する企業を取材しました。タイルを焼く火力を生み出しているのは都市ガスです。

しかし、ウクライナ情勢によりLNGの国際的な需給が厳しくなる中、都市ガスの価格も高騰。今は窯を一時的に止めていて、一部の商品の納期に遅れが出ています。

タイル製造企業

「お客さんから注文書が入り、『7月中旬にお願いします』と来るが、私たちの回答は『8月中旬でないと難しい』と。このところお客さんには迷惑をかけているのが現状」

こうした中で7月11日、都市ガスの需給がひっ迫した場合に備えて、経済産業省が利用者にガスの節約=「節ガス」を要請する制度に関する議論を始めました。有識者会議では需給ひっ迫の場合、まずは利用者に自主的な「節ガス」を求め、改善しなければ数値目標を定めた「節ガス」を要請。それでも危機的な状況になった場合は、使用量が多い大規模な商業施設などを対象に、強制的に使用を制限する手段も検討すべきとされました。

有識者会議の座長は今すぐに節ガスを求める状況ではなく、需要の抑制はあくまで最終的な手段と強調したうえで備えの必要性を指摘しています。

有識者会議の座長  一橋大学 山内弘隆名誉教授

**「国際的にエネルギーの需給がひっ迫して、調達に対するリスクというものを重視せざるをえないということ。電気については節電要請が出されていて、仕組みができているが、ガスについてはそういうものがない。仕組みをどうつくるかという議論が始まった」 **

【解説  輸入率8.8%の“重さ”】

スタジオで、エネルギーの国際情勢や市場動向に詳しい、日本エネルギー経済研究所の小山堅さんに話を聞きました。

――小山さん、日本が輸入しているLNGのうちロシア産は8.8%と、それほど大きな数字ではないような印象も受けるのですが…。

小山さん)

「パーセントだけで見ると『それほど大きくないかな』と思われるが、実は日本は昨年中国に抜かれるまで、世界一の“LNG輸入大国”で、大量のLNGを輸入している。その8.8%とは数量でいうと約600万トンで、それをロシアから輸入している。万が一、問題があったとき、簡単に手に入るような数字ではない。非常に大変な問題」

――日本は各地にガス会社がありますが、互いに助け合うようなことはないのでしょうか。

小山さん)

「いろいろな会社がそれぞれ輸入をしているので、助け合うのがいいが、今はどの会社もまず自分の供給を守るのに精いっぱい。非常に余裕があって、他社を助けてあげられればいいが、そうでないのが第1のポイント。そのうえ、ガスの場合はパイプラインで地域間を結ぶというのが基本だが、実はそれほど日本の中で網の目のようにパイプラインが発達しているわけではない。そうすると、何か困ったときに、さっとすぐに助けてあげるということが、インフラ的にもそんなに簡単ではないという事情もある。時間はかかる」

では、ロシアの代わりに、他の国から調達することはできないのでしょうか。下の図は日本がどこの国からLNGを輸入しているのかを示したものです。先ほど話に出たロシアは5位です。1位はオーストラリアで全体の35.8%です。次いでマレーシア、カタール、アメリカと続きます。 先日、最も多いオーストラリアとアメリカのエネルギー担当閣僚と、萩生田経済産業大臣が個別に会談しました。LNGの増産や安定供給の要請を行い、日本の立場に理解が得られたということです。

――オーストラリアの理解が得られたのであれば「大丈夫」と捉えてはいけないのでしょうか。

小山さん)

「もちろん大臣が今回、アメリカ・オーストラリアと話をして、協力に向けて話し合いがうまくできたのは非常にすばらしいことだと思う。ただ、例えばこの冬に向けて日本が必要なものを、オーストラリアやアメリカがすぐに出せるのかというと、なかなかそういかない。オーストラリアは伝統的なLNGの輸出国の代表だが、基本的に長期で契約をして安定的に売り手と買い手の間が結ばれている。なので急に『日本にたくさん持ってきて』といわれても、そう簡単にできない。他方、アメリカは対極で、短期的な取り引きで非常に供給が柔軟なので、いろいろなところに輸送して相手に輸出することができる。ただ、そういう性質があるから、今回のロシアの問題で困っているヨーロッパの国が、いまアメリカのLNGをどんどん買っている。もしここで仮に日本が『私も』といったら、今度は競争になって非常に値段が上がってくることも考えないといけない。だから、そんなに簡単に、すぐにというわけにはいかないと思う」

――取り合っているということだったんですけれど、そもそもLNG自体を増産、増やすということは難しいのでしょうか。

小山さん)

「ここが今回のいちばん難しいところで、LNGの市場は基本的に供給の余力、すぐに生産を増やすということがなかなかできない。 石油の場合はそれができるところもあるが、残念ながらLNGではできない。LNGの場合は、最初にものすごいお金をかけて投資をして、そしてプロジェクトを立ち上げる。『サハリン2』もそう。それをやるためには、お金を回収するために、長期契約を結んで、相手と固定的にやるというやり方をしている。もうひとつは、LNGには備蓄もあまりない。これはなぜかというと、『液化する』話が先ほどあったが、これは特別にお金がかかることをやっている。LNG備蓄をするというのは、ものすごくお金がかかってしまう。だから市場に供給をすぐに増やしてくれるという対応力がないところが、今回の問題でLNGや天然ガスがいちばん厳しいというところ」

【「節ガス」制度化も?進むべき道は…】

そうしたなか、日本で議論が始まったのが「節ガス」です。都市ガスがひっ迫した場合に、今アイデアとして出ているのは、段階的に「節ガス」を求めていくというものです。

――国は冬までに制度を設計する考えですが、この動きはどう見ていますか。

小山さん)

「もう『ここまで来た』というふうに思っている。今まで『節電』はあったが、『節ガス』というのはなかった。でも今ここまでやらないと、日本はこの問題を乗り切っていけないのではないかというところまできている。特に冬までというところにキーポイントがあって、この冬は電力の需給も非常に厳しい。そして天然ガスは電力でもたくさん使われているので、『節ガス』と『節電』の両方をやって、この冬のひょっとしたら訪れるかもしれないエネルギー危機に対応するということが大事」

『節ガス』といわれてもイメージが湧きづらい、何をしたらいいか分からない、といった方に向けて、できることを具体的にまとめました。

家庭でガスを使うといえば、ガスコンロやお風呂などです。例えばガスコンロだと「鍋の水滴を拭き取ってから」。火にかけるときに鍋のまわりが濡れていると、外側の水を蒸発させるのに余分なガスを使ってしまいます。そして、お風呂の場合は「追い焚きはなるべくしない」。お湯を再び温める時にガスを使ってしまいます。なので、浴槽のお湯が冷めないように必ずフタをしたり、間隔をあけずに入浴したりするようにしましょう。 そしてシャワーです。シャワーは実は家族4人が4分ずつ使うと、ほぼ浴槽1杯分のお湯の量になるんだそうです。流したままにしないことが「節ガス」になります。

――「節電」に続き「節ガス」もと、ウクライナ侵攻で日本のエネルギー環境は大きく変わったと思いますが、小山さん、今後状況が改善するような道は何かあるんでしょうか。

小山さん)

「『まさにロシア次第』というところがあると思う。今回の『サハリン2』の問題もそうだが、ロシアがこれからどう動くのかというところを我々は注目しないといけないと思う。 ただ、その上で日本は日本としてできることをきちんとやっていくと。日本ができる、ありとあらゆるオプションを使って、この問題に対応していくということにならざるを得ないと思っている。 その第一は『節電』や『節ガス』。消費者としてできるだけムダを省いて対応するということは、基本中の基本だと思う。 それから冬場、これから電気もたくさん必要になってくるときに、LNGの火力だけではなく、例えば石炭を使う火力や、石油を使う火力といったものを有効に活用しないといけなくなる可能性が非常に高い。ただ、ふだん使っていない設備もあるので、支障がないように今から準備しておく。そして、もうひとつは、岸田総理大臣が話をしていたが、原子力発電所の再稼働も安全性を確認しながらしっかり進めていくということがどうしても必要だと思う」