【この記事は3月11日の放送をもとにしています】
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日本国民1人あたりの卵の消費量は年間337個(IECまとめ・おととし)と世界で2番目。その「卵」、物価の優等生とも言われますが、値上がりが止まりません。
外食大手2割が卵メニュー休止 洋菓子店の対策
卵の異変は値上がりだけではありません。飼料価格の高騰に加え、鳥インフルエンザの感染拡大も重なり、外食産業などでは卵が不足する事態になっています。
外食大手100社のうち、およそ2割が卵を使ったメニューの販売を休止していることが民間の信用調査会社の調べでわかりました。
日本マクドナルドは、卵を使った春の定番商品のうち、朝のてりたまマフィンを販売中止に。シュウマイなどを製造販売する崎陽軒は、チャーハン弁当を当面休止しました。すかいらーくホールディングスは、グループのレストランで、パンケーキなどおよそ10品の販売を休止しました。
※この情報は、2023年3月11日時点のものです。
ホワイトデー間近、需要が高まる洋菓子にも、卵不足の波が押し寄せていました。
千葉県にある洋菓子店の看板商品は、チョコムースをのせたバウムクーヘンです。
看板商品を1つ作るのに、最低4つの卵が必要です。さらにムースを作るのに必要な、加工済みの卵黄と卵白が、いま不足し、例年の半分しか手に入らないといいます。
そこで、この店では。
せんねんの木 広報担当 阿部玄武さん)
「チョコの商品が一番の主力なので、こちらの製造量を守るためにも、ほかに卵黄を使う商品の製造を制限している」
最も多くの卵黄を使う、ティラミスのバウムクーヘンの製造を中止し、限られた材料を看板商品に振り向けています。卵の不足が続けば、ほかの商品の製造も取りやめる予定です。
卵の値上げが止まらない!前月平均比25%アップ
全国平均の小売価格は、2023年2月、10個入り1パックで262円。平年と比べて25%値上がりしています。
値上がりは、業務用の卵の仕入れ価格でも深刻です。
親子丼を提供するこの飲食店では、卵の仕入れ価格が半年前に比べ2倍近くになり、価格を維持するため、2023年2月から使う卵を小さいものに変更しました。
季節割烹 勝味 店長 津田勝幸さん)
「これ以上、仕入れ価格が高くなると、値段に反映せざるをえないと思っている。少しでも長く、この値段で提供して喜んでほしい。その一心で作っている」
【海外でも値上げ】ニワトリを飼う人も!? アメリカの卵事情
卵の値上がりは日本だけの話ではありません。
アメリカ ペンシルベニア州の販売所では、この1年で25%値上がり。12個入りは日本円でおよそ680円です。このため、メキシコとの国境では、物価が安いメキシコから、本来は禁止されている卵の持ち込みをする人が急増。押収された件数は、2023年2月までの3か月で4倍以上に増えています。
卵が高いなら「ニワトリを飼育しちゃおう」という人も…。
こちらの家庭では、2022年に飼い始め、2023年2月に18羽まで増えました。1日あたり12個ほど卵が採れ、餌代を差し引いても、家計の助けになったといいます。
ジェニファー・ルークさん)
「卵の値段が高くなっているので、お金をかけずに手に入れられてうれしい」
【卵不足の背景】鳥インフルエンザ 日本過去最多
世界的な供給不足の原因のひとつは、鳥インフルエンザです。
日本では過去にないペースで起きています。2022年10月から2023年3月7日までに、25の道と県の78か所で発生。処分されるニワトリなどの数は1,500万羽を超え、過去最多になっています。
苦境続く養鶏農家 出荷量が回復しない理由
兵庫県で養鶏業を営む藤井芳晴さん。鳥インフルエンザの直接の被害はありませんが、出荷が思うようにできていません。2022年12月の出荷量は例年の6割ほどに落ち込みました。直売用の自動販売機は空の状態が続いています。
小坂養鶏 藤井芳晴さん)
「2022年12月から自動販売機は稼働させていない」
理由は、卵を産むニワトリを簡単には増やせなかったためです。鳥インフルエンザの感染拡大により、各地で殺処分が相次ぎ、業界全体でニワトリやヒナが不足。藤井さんの養鶏場では、卵をあまり産まなくなったニワトリに代わり、若いニワトリを仕入れて出荷量を落とさないようにしようとしましたが、仕入れできない状態が4か月続きました。
小坂養鶏 藤井芳晴さん)
「こんな状況は経験するのは初めて。どこあたっても、ニワトリを供給してくれるところがなかったので、厳しかった」
2023年3月9日、ようやく600羽が手に入りましたが、飼料代も高騰する中、不安定な経営が続くといいます。
【解説】卵供給不足、値上がりはまだ続く?
卵の生産や流通に詳しい、東京農業大学元教授の信岡誠治さんに話を聞きました。
鳥インフルエンザ、深刻化の理由
鳥インフルエンザの状況をみていきます。
赤くなっている箇所が、鳥インフルエンザの発生が確認されたところで、2022年から2023年にかけて、これだけ各地で確認されています。殺処分も1,570万羽と過去最多(25道県・2023年3月7日時点)ということです。
―――なぜこれほど、鳥インフルエンザが蔓延しているのでしょうか?
信岡さん)
「鳥インフルエンザは、数年前から増加傾向にあり、最近はさらに悪化している状況です。原因は渡り鳥が運んでくるウイルスで、今まで冬場だけだとされていましたが、長期化、さらに通年化してきているという状況も欧米では観察されています。
また、日本だけではなく世界中に広がってきていて、いまは、オーストラリアで蔓延してきているという状況です」
―――国内で殺処分になったニワトリが、1,500万羽を超えています。
信岡さん)
「相当な数ですね。日本では養鶏農場の集約化、大規模化が急速に進展してきました。いま、1戸当たりの平均飼養羽数は約10万羽です。さらに、大きな養鶏場では100万羽を超えるというところも増えてきています。
現場では、鳥インフルエンザの感染対策をいろいろとやっているのですが、完全に防ぐために非常に苦労している状況です。一羽でも感染が確認されれば、全てを殺処分ということで、生産力に与える影響が大きくなっています」
1,500万羽減の影響はどれほどなのか?
―――1,500万羽が殺処分になると、ダメージとしてはどれぐらいのものがあるのでしょうか?
信岡さん)
「日本の卵の生産力として、ニワトリは国全体で1億4,000万羽いるのですが、その1割強の1,500万羽が、すでに殺処分になっています。そうした供給源の状況が卵の価格に反映されていて、特に業務用や加工業の方に影響がでています」
―――外食業界の方々が特に苦労されているようですが、理由があるのでしょうか?
信岡さん)
「卵の主な流通経路としては、スーパーマーケットなどを通したパック卵での小売が5割、ファミレスなどの外食が3割、液卵として利用される加工向けが2割となります。いま政府は、消費者への影響を緩和するため、小売向けのスーパーマーケットへのパック卵の流通を優先するよう要請しています。ですので、どうしても、外食や加工向けの供給量がカットされ、供給不足や値上げの影響が出ている状況です」
―――この状況が回復するには、どれぐらいの時間が必要でしょうか?
信岡さん)
「鳥インフルエンザの収束が期待されるわけですが、仮に収束するとしても、元通りになるには少なくとも1年はかかります」
鳥インフルエンザ発生!出荷再開までの道のり
なぜそれだけの時間がかかるのか。養鶏場で鳥インフルエンザが発生した場合を想定して、再び卵が出荷できるようになるまでのプロセスをまとめました。
まず必要なのが、ニワトリの処理や鶏舎の洗浄消毒です。規模にもよりますが、これには最短でも1か月から2か月かかります。そして綺麗になった鶏舎で、数十から数百羽程度のニワトリを小規模で飼育して安全を確かめます。これにも1か月から2か月ほど必要になります。その後、ようやく大量のニワトリを養鶏場に入れますが、ニワトリを大量に買い付けるというのは難しいので、一般的には、ヒナから飼育します。ヒナが成長して卵を産めるようになるまで4か月ほどかかります。
ただ、このときに産む卵はまだまだ小さく、お店で見るような Mサイズの卵を産めるようになるまでには、さらに4か月かかるのです。こうした手順を踏むので、卵が出荷できるようになるまでは、合わせると12か月、1年ほどかかることになります。
ヒナも入手困難に 影響はどこまで?
―――ヒナがそもそも手に入りづらい状況は、なぜ起きているのでしょうか?
信岡さん)
「ヒナや卵を産む若鶏は、なかなか、すぐ増やすわけにはいかないのが現状です。養鶏場では一般的に鶏舎ごとにローテーションを組み、順番にヒナを育てて産ませている。ヒナはあらかじめ業者に予約をして導入しているので、今すぐ欲しいとなっても、すぐに増やせるわけではありません」
卵不足、価格高騰はさらなる長期化も?
―――生産力の回復に時間がかかるということは、私たちにとって、卵が手に入れづらい状況や、値上がり高騰が今後も続くということでしょうか?
信岡さん)
「おっしゃる通りで、その覚悟は必要かもしれません。鳥インフルの影響に加え、野菜も高騰したままで、これが大幅に下がるめどはまだたっていません。価格にさらに影響が出るということもあり得ることで、元の値段に戻るにはかなり時間がかかると思います」