初の「戦争犯罪」裁判 ロシア兵に判決

中川雄一朗・秋岡良寛・木村和穂
2022年6月2日 午前11:51 公開

初の「戦争犯罪」裁判 ロシア兵に判決

5月23日、ウクライナの裁判所で、軍事侵攻後初の「戦争犯罪」を問う裁判の判決が言い渡されました。

検察官「名前を教えてください」

ロシア兵「ワジム・シシマリンです」

ロシア軍の戦車部隊に所属するワジム・シシマリン軍曹(21)。民間人を殺害した罪に問われました。ウクライナの法律にのっとり4日に渡って行われた審理。今週月曜日に言い渡されたのは「終身刑」でした。

その時 何が起きたのか? ロシア兵が犯した罪

事件が起きたのはウクライナ北東部、スムイ州の村。軍事侵攻から4日後、シシマリン軍曹がいた部隊はウクライナ軍の反撃を受け、撤退している最中でした。

当時シシマリン軍曹は、他の4人の軍人とともに、市民から奪った車を使い、はぐれた本隊に合流しようとしていました。その時、電話をしている62歳の男性を目撃。「ウクライナ軍に居場所を通報されるのではないか」と恐れた将校は、シシマリン軍曹に殺害の命令を下したといいます。

シシマリン軍曹の弁護士が感じた“人々の怒り”

弁護を引き受けたウクライナの弁護士は、戦争犯罪に対するウクライナの人々の怒りをひしひしと感じていました。

弁護士

「“ロシアに行け”とか、“こうした人を弁護するなんて良心がないんじゃないか”などと言われました」

ネットで配信された裁判映像のコメント欄には・・・。

“残りの人生 彼には地獄の苦しみを味わって欲しい”

“終身刑の彼を 税金を使って養わなければならないなんて”

被害者の妻が 法廷でロシア兵に問うたこと

法廷には殺害された男性の妻、カテリーナ・シェリポワさんも出廷。シシマリン軍曹にこう問いかけました。

妻カテリーナさん

「あなたは悔い改めていますか?」

シシマリン軍曹

「はい、罪の意識を感じています。あなたは私を許してくれないでしょうが、許してほしいです」

殺害された男性はかつてソビエトの軍人だった

殺害されたオレクサンドルさん。軍人だった旧ソビエト時代、最高指導者ブレジネフのボディーガードも務めたといいます。30年以上前に引退してからは子供や二人の孫にも恵まれました。

妻カテリーナさんは「夫は何も悪いことをしていないのに・・・。命令があっても撃たなければよかった。外して撃てばよかった。(シシマリン軍曹は)子供だからかわいそうだが、いい人間になるとは思えない」と話します。

シシマリン軍曹はなぜ戦争犯罪人になったのか

ロシアの地方都市イルクーツク出身のシシマリン軍曹。4人兄妹の長男で母子家庭に育ちました。今回の軍事侵攻では、ほとんど何も知らされないまま派遣されたといいます。

シシマリン軍曹の弁護士は、「彼の印象は“普通の人”、命令に従う普通の兵士だ。ロシア軍にはこのような兵士が多い」と言います。

シシマリン軍曹の母親はロシアの独立メディア「メデューサ」の取材に対し、こう語っています。

シシマリン軍曹の母

「息子は人に手をあげることすらしない子です。人を撃ち殺すなんて・・・。どれだけ正気を失えばできるのでしょうか」

シシマリン軍曹にインタビューをしたジャーナリストは、戦争がいかに人を狂わせるのか、その罪深さを感じていました。

ジャーナリスト

「彼は“殺したくなかった”と言いました。それなのになぜ人を撃つことができるのでしょうか。これが戦争の本質です。(戦争犯罪は)起こるべくして起こったのです」

ウクライナで最も重い「終身刑」が言い渡された今回の裁判。裁判長はその理由として、「命令した将校は直属の上司ではなく命令を拒否できた」と指摘しました。

ロシア政府は判決には直接言及していません。ロシア大統領府のペスコフ報道官は「兵士を直接保護するための選択肢は多くないが、継続的な試みを検討していないわけでない」と述べています。

ウクライナの検察の発表によると、ロシア軍による戦争犯罪は1万4000件以上が捜査中です。ウクライナのベネディクトワ検事総長は、ウクライナで戦争犯罪を行った疑いのあるロシア側の容疑者600人以上を特定し、およそ80人について訴追の手続きを始めたことを明らかにしています。

  【取材制作ディレクター】中川雄一朗・秋岡良寛・木村和穂  

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