フミダス!ガマダス「豪雨拾得物を持ち主の元へ! ~バレーボール後編~」

NHK
2022年4月27日 午後2:18 公開

NHK熊本局の記者グループ「災害機動班」です。

前回、「豪雨拾得物を持ち主の元へ!バレーボール前編」で3月11日に放送した新企画の番組「フミダス!ガマダス」の一部を紹介させていただきました。

前回の記事はこちら

バレーボール

これまでの取材でバレーボールの持ち主は、球磨村にいるのではないかということまでわかりました。果たして持ち主の「あみ先輩」とはどんな子なのか?そして、バレーボールに込められた思いとは?

それではバレーボール後編!フミダス!ガマダス!

あまび~

(取材班:木村隆太・岸川優也)

つながった糸

球磨村には中学校が1つしかない。さっそく私たちは球磨中学校に向けて車を走らせた。対応してくれたのは、教頭の宮川先生、学年主任の那須先生、そして、女子バレーボール部顧問の森田先生。これまでの経緯を説明してボールを見せることにした。

(右から教頭の宮川先生、女子バレーボール部顧問の森田先生、学年主任の那須先生)

(右から教頭の宮川先生、女子バレーボール部顧問の森田先生、学年主任の那須先生)

那須先生「あっ!まや、まほ、いまの3年生です。これを書いた子がいますよ」

木村記者「つまり、あみ先輩というのは?」

那須先生「ここの卒業生です。いま高校2年生。間違いないです」

あみ先輩への糸がつながった瞬間だった。

先生たちによると、豪雨前、あみ先輩は球磨村の茶屋地区に住んでいたという。球磨村でも特に浸水被害がひどかった地区で、あみ先輩が住んでいた家は流され、いまは仮設住宅で生活をしている。
高校進学後、バレーボールは続けていないとのことだったが、中学時代のポジションはセッターで、いまもたまに中学校に来て、後輩たちにバレーボールを教えているという。真面目で、面倒見が良いとのことだ。

那須先生「なんか感じますよね、縁というか、絆というか」

那須先生はボールをまじまじと眺めながら、そうつぶやいた。

後輩たちの思い

先生たちの計らいで私たちは寄せ書きを書いた後輩にも会うことができた。
球磨中学校の3年生の大岩舞帆さん、日當茉耶さん、佐々木優帆さん。みんなカメラを前に少し緊張気味だったが、ボールを見せると目をまるくした。

(右から大岩舞帆さん、日當茉耶さん、佐々木優帆さん)

(右から大岩舞帆さん、日當茉耶さん、佐々木優帆さん)

3人「あ~」

「先輩と過ごしたのを思い出す」「なんだか懐かしい」。カメラを気にしながらも、3人は小声であみ先輩との思い出に浸っていた。

しばらくすると、茉耶さんがみんなの意見をまとめるようにして、寄せ書きに込めた思いを語ってくれた。

茉耶さん「部活のときにわからないことを丁寧にやさしく教えてくれて、それでできるようになったこともたくさんありました。そのお礼と、教えてもらったことを生かして頑張っていきますという気持ちを込めて書いたんです」

ただ、3人には心残りがあるという。
球磨中学校のバレーボール部には、先輩が卒業するときにボールに寄せ書きをして贈る習慣がある。しかし、新型コロナの影響で卒業式には出席できず、あみ先輩には直接ボールを渡せなかったのだ。

話を聞いていると、私たちからあみ先輩にボールを返すより、もっと良い方法があるのではないかと感じた。そこで、私たちはあることを提案した。

木村記者「みんなの手であみ先輩にバレーボールを返したいと思う?」

間髪入れずに3人は首を縦に振った。

(右から大岩舞帆さん、日當茉耶さん、佐々木優帆さん)

茉耶さん「私たちも思いを込めて、ありがとうという気持ちを込めて書いたボールだから、その気持ちを一緒に返せるなら、間接的にじゃなくて、やっぱり直接返したほうが、私たちの気持ちが伝わるかなって思います」

実は3人ともあみ先輩と同じように豪雨で自宅が被災し、大切にしていたものが流された。仮設住宅で生活をしていて、あみ先輩と同じような経験をしながらも、あみ先輩に真っ直ぐに向き合う姿に、私たちの心はどこか熱くなった。

サプライズ返却作戦

それから4日後、私たちは再び球磨中学校を訪れた。
後輩3人の手からあみ先輩にボールを直接返してもらうためだ。
さらに、この日は学年主任の那須先生と、あみ先輩の父・長船一誠さんにも協力してもらった。

実は、後輩3人と会った日に、私たちは那須先生の紹介で父・一誠さんにも会っていた。あみ先輩へのサプライズには家族の協力が必要不可欠だと判断したのだ。
私たちが取材主旨を説明すると一誠さんは快諾してくれた。ただ、ボールの存在を秘密にしたうえで、あみ先輩を球磨中学校まで連れて来るのは一誠さんにとっても至難の業で、サプライズ前夜には「なんと言って中学校まで連れていいかな」と電話で相談を受けたほどだ。

後輩3人と那須先生と木村記者

そして返却当日、私たちは球磨中学校の体育館で返却の段取りを後輩3人と那須先生と確認。

返却作戦の手順はこうだ。

1. 一誠さんが“適当な理由”をつけてあみ先輩を球磨中学校まで連れて来る。

2. 到着後、一誠さんから那須先生に連絡が入る。

3.那須先生があみ先輩に電話して1人で体育館に来るよう伝える。

4.体育館で後輩たちからボールを手渡す。

見ての通り返却作戦はいたってシンプルだ。

(電話で呼び出そうとする那須先生)

(電話で呼び出そうとする那須先生)

そして、作戦を開始すると、案の定、連続してトラブルは起きた。

予定時刻になっても一誠さんから那須先生に連絡がなかったり、那須先生から一誠さんやあみ先輩に連絡がつかなくなったり、さらに一誠さんから「娘に不審に思われています」という連絡が那須先生に入ってくるなど、とても作戦とは思えないほど成り行き任せだった。ただ、それもまたサプライズのリアル。

それでも「あみ先輩を驚かせたい」という思いがつながったのか、あみ先輩になんとか体育館まで1人で来てもらうことに成功した。

体育館につながる階段を上る足音が聞こえてくる。

緊張と期待が一気に高まった。

そして、ついに亜美さんが登場!!

亜美さんが登場

(長船亜美さん)

が、カメラクルーに驚いたのか、困惑している様子だ。

那須先生が大きく手招きをすると、ようやく亜美さんは私たちがいる体育館の中央付近に歩いてきた。そして、後輩の舞帆さんがボールの入った手提げ袋を手渡した。

亜美さん「ありがとうございます」

まだ、フリーズしている様子なので、私たちがこれまでの経緯を説明すると納得した様子。

木村記者「なんで呼び出されたと思いました?」

亜美さん「悪いことしたと思った・・・」

これには一同笑い、場が和んだ。そして後輩たちの念願どおり直接感謝の気持ちを伝えてもらうことに。

亜美さんと後輩たち

優帆さん「2年前はアドバイスをしてくださったり、1年生の私たちにもたくさん話しかけてくださり、ありがとうございました。卒業後も何度か練習に来てくださって、いい試合をする事が出来ました。私たちも入試を頑張るので亜美先輩も頑張ってください」。

舞帆さん「2年前は、コロナで直接お渡しする事が出来なかったけど、この場を設けてもらい直接感謝を伝える事ができて嬉しいです」

茉耶さん「2年前はバレーの事とか教えてもらって本当にありがとうございました。高校に行った後もたくさん練習に来ていただいて本当に嬉しかったです。私もこれから受験とか高校生活もあるので、亜美先輩みたいに頑張りたいです」

後輩3人は照れくさそうに、でも、確かに自分たちの言葉で亜美さんにその思いを直接伝えた。そのひとりひとりのメッセージに亜美さんも照れくさそうに笑顔で応えた。

亜美さん

亜美さん「他の学校はもうちょっと厳しい部活だったんですけど、球磨中はニコニコしてる事が多くて楽しい部活でした。みんなの思いが詰まったボールで大切なものなので戻ってきて嬉しいです」

亜美さんはいま

後日、私たちは改めて亜美さんと一誠さんの話を聞くことにした。

亜美さんの自宅は球磨川沿いの茶屋地区にあった。おととしの豪雨では、水位計が欠測するほどの浸水があった場所で、豪雨後の球磨村の調査では10メートル以上の浸水があったと推定されている。川沿いの住宅はすべてが全壊し、亜美さんの自宅も家ごと流され、いまは更地になっている。

(球磨村の自宅跡地を見つめる父・長船一誠さんと亜美さん)

(球磨村の自宅跡地を見つめる父・長船一誠さんと亜美さん)

豪雨当時、一誠さんは仕事で熊本市内にいて、自宅にいた亜美さんは母や弟と高台に着の身着のままで避難した。ボールは2階の部屋にある棚にいつも目に入るように飾っていたという亜美さんだが、まさか2階まで水が来るとまでは考えていなかったという。

豪雨のあと、家のものがどこかに流れ着いていないか家族で自宅周辺などを見て回った。

長船一誠さんと亜美さん

一誠さん「写真もすべてなくなったので、思い出のあるものが1つでも見つかればなと思って探しましたね。それが唯一このボールだったのかもしれないんですけど。みんなが書いてくれた、ボールに込められた思いをきっかけに、ここまで戻ってきたのだと思います」

亜美さん「ずっと大事にしたいと思っていたので、このボールだけでも戻ってきてくれたのはうれしいです」

いまも球磨村の仮設住宅で生活を続けている亜美さんだが、ボールは以前のように目にとまる勉強机の近くに置いているという。

一誠さん「大人になって何かのタイミングでこのボールを見て、中学校時代を思い出すと思います。拾ってくれた方や後輩たちにも本当に感謝の気持ちでいっぱいです。唯一の宝物になっていくんじゃないかなと。くじけそうになったときには、このボールを見て頑張っていけるようにならないといけない」

亜美さん

亜美さん「お互い顔も名前も知らないなかで、ボールを拾って、私の元に届けてくださってありがとうございます。将来は、小さい頃からの夢でもあるので保育士になって、たくさんの人を笑顔にできるように頑張っていきたいと思います」

寄せ書きがたぐりよせた奇跡を2人はかみしめながら、これからの一歩を踏み出そうとしていた。

身近な疑問やお困りごとを、皆さんと一緒に“がまだして”、解決への道を探る新企画。
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