クマガジン「TSMCで地価高騰 地元の町は今」

NHK
2022年9月27日 午前11:27 公開

《地価の上昇率 全国トップに》

熊本県菊陽町、県最大の都市である熊本市のベッドタウンで、豊かな水と肥沃な土壌に恵まれ米や野菜など農業が盛んな地域です。そんな町に去年11月、半導体の分野で世界最大手の台湾企業「TSMC」の新工場が建設されることになりました。発表から10か月、工場の建設予定地では再来年12月の出荷に向けて急ピッチで工事が進められています。

ことし9月、全国の土地の価格を調べた「都道府県地価調査」が公表されました。この調査で菊陽町の土地の価格が大きく上昇しました。

「都道府県地価調査」は都道府県が毎年基準となる場所を選び、不動産鑑定士の評価を踏まえて、毎年7月1日時点の1平方メートルあたりの価格を調べるものです。土地は「工業地」と「商業地」、それに「住宅地」などに分類され、県全体ではことし481地点で調査が行われました。算出された土地価格は「基準地価」として、土地を売買する時の重要な目安となっています。

【工業地】

「工業地」から見ていくと、去年からの上昇率がもっとも高かったのは、「菊陽町原水」。去年に比べ31.6%上昇し、価格は4万5000円でした。

県によりますと、TSMC進出で規模のまとまった用地を中心に需要が高まり競争が激しくなって、価格が大きく押し上げられたということです。

周辺の自治体を見ても、▽菊池市の調査地点が23.7%、▽大津町の調査地点が19.6%と大きく上昇しました。

【商業地】

続いて商業地。商業地でも県内で上昇率が最も高かったのは菊陽町で、「菊陽町光の森」が13.6%で1平方メートル当たり15万円でした。

県は、TSMC進出の波及効果などで需要が増え、土地を売る側の強気な姿勢が強まっていることに加えて、高い人口増加率を背景に収益性が高まっているなどと指摘しています。

【住宅地】

最後に住宅地です。上昇率がもっとも高くなったのは「菊陽町津久礼」で、上昇率は8.8%で価格は6万2000円でした。

TSMCの新工場ではおよそ1700人を雇用する計画で、マンションやアパートを建設するための土地需要の増加と、周辺で商業店舗の開業が相次いで利便性が向上していることが理由として挙げられています。

《不動産会社は“特別チーム”で対応》

TSMCの進出で、地元の不動産会社は動きを活発化させています。

熊本市に本社のある不動産会社「明和不動産」は、引き続き半導体の関連企業の進出ラッシュは続き、土地の需要はますます高まるとみて、来年の春、菊陽町に支店を開設して対応することにしています。

支店の開設に先駆けて、ことし2月からは特別チームをつくり、進出する関連企業の工場や事務所、それに従業員が暮らすマンションを建設する土地を確保するめに、特別チームをつくりました。

特別チームでは、菊陽町と隣町の大津町にある空き地や農地など1400件分が登録されたリストをつくり、土地の売却や貸し出しが出来ないか、地道に所有者を尋ねる営業活動を行っています。

これまでに10数件の契約がありましたが、このうち菊陽町の幹線道路沿いの土地はもともと駐車場で、TSMCが進出を決める前に比べ地価が上昇していたものの

TSMCや関連企業の従業員などの住まいの需要が見込まれることから、マンションを建てるための用地として購入しました。

(明和不動産 菊陽支店開設準備室 水谷亮介さん)
「今までにないくらい土地の金額はどんどん上がってきている。TSMCの進出に向けスピード感を持って事業を進めたい」

《高まる需要も・・・菊陽町は“土地がない”》

土地の需要は高まりを見せていますが、無尽蔵に工場やマンションを建てられるわけではありません。

なぜなら、菊陽町は、土地全体の8割以上が開発の制限される「市街化調整区域」となっているからです。その大半が農地となっていて、農地に建物を建てるには町の農業委員会に農地転用を申請する必要があります。しかし、審査に時間がかかるほか、優良な農地の転用は法律で厳しく制限されています。

このような状況でも、「TSMCと同じ菊陽町の土地を確保したい」として、農地に工場や事務所を建てられるようにする、いわゆる「農地転用」を求める相談が、関連企業から町の農業委員会に相次いでいました。具体的には、ことし4月以降36件。これは昨年度1年間のおよそ3倍にのぼります。

土地需要は旺盛でも、自由に使える土地がない菊陽町。今回、県から委託されて地価調査を行った不動産鑑定士の石山博さんは、開発可能な農地や空き地などはすでに取り引きされていて、転用できる農地はほとんど残っていないのが実態だと指摘します。

(不動産鑑定士 石山博さん)
「このような背景から、菊陽町が隣接する大津町や合志市にまで、土地の需要は波及して広がっていて、さらに、今後はより安い土地を求めて、菊池市や熊本市方面にまで需要が広がり、より広い範囲で地価が上昇していくことも考えられる」