「2030年には46%の荷物が運べなくなる可能性がある」
民間のシンクタンクが示した衝撃の数字。背景にあるのは、働き方改革の一環で進む物流業界の「2024年問題」です。
物流業界では、来年・2024年4月からトラックドライバーへの時間外労働の規制が強化され、上限は1か月の平均で80時間となります。
これによって人手不足が深刻化し、運べる荷物が大幅に減るのではないかと懸念されています。
ドライバーの労働時間を守りながら、荷物も運べるようにするために、秋田県内の会社もあの手この手で動き始めています。
【ドライバーの労働時間 どう減らす?】
この問題にいち早く取り組んできた運送会社が美郷町にあります。
140人のドライバーで、食料品やキッチン用品を東北地方や関東地方に運ぶこの会社。
体への負担が特に大きい長距離を走るドライバーの負担をどう減らすかが課題となっていました。
関東向けの輸送ではこれまで、1人のドライバーが仙台や盛岡を経由して、3日をかけて往復していました。
しかし、この方法だと、1日の拘束時間や時間外労働など新たな基準をクリアすることができません。
そこで、仙台でドライバーが交代する方法に変更。2人のドライバーが分担することで、基準をクリアし、労働時間の短縮につなげました。
ドライバー
「ドライバー歴は30年以上で、体力的にもかなり無理をして運転していた時期もあった。2人で分担してからは、体がだいぶ楽になった」
【ドライバーの人材を確保するためには】
労働時間の改善につながるとする一方で、ドライバーの人手不足は深刻化しています。
民間のシンクタンク「野村総合研究所」が試算したところ、秋田県では再来年・2025年に35%、2030年には46%の荷物が運べなくなる可能性があるというのです。人口減少も影響して、全国で最も悪い結果となりました。
美郷町の運送会社の近藤哲泰社長は、ドライバーの待遇や給料を改善していくことが人材不足解消につながると考えていますが、現状は厳しいといいます。ドライバーの給料となる輸送にかかる料金が低いためです。
六郷小型貨物自動車運送 近藤哲泰社長
「輸送にかかる料金の値上げが商品自体の価格にはねかえることを考えると、荷主企業としても簡単に値上げを決めることは難しいと思う。ただドライバーを確保し、持続可能な状態で物流を維持するためには、ドライバーの待遇をもっと上げていく必要があるのも事実です。業界全体での取り組みが求められている」
【輸送量確保へ ドライバーをサポート】
こうしたなか、動き始めている荷主企業もあります。
荷物が運べなくなる事態をなんとか少なくするために、ドライバー以外の人が協力して負担を分散する取り組みです。
こちらのパレットと呼ばれる台。これまでトラックに積み込む前に、荷物のケースを積み替える必要があり、ドライバーの大きな負担となっていました。
その作業を、全農の職員が前日までに済ませることで、ドライバーの業務はフォークリフトでトラックに積み込むことだけに減りました。最大で2時間ほど早く出発できるようになったといいます。
ドライバー
「作業の負担も減って楽になった。関東の市場が混む前に早く到着できるので非常に助かる」
JA全農あきた県南園芸センター 石井浩センター長
「運送会社以外の人がやることによって、より効率化につながっている。農作物がお客さんに届かないということにならないよう、産地としてもリスクをできるだけ回避しなければいけない」
【トラックで運べない分は鉄道で】
輸送手段をトラックから鉄道に切り替える取り組みも進んでいます。トラックの輸送量の減少が見込まれる中、貨物を運べる鉄道を活用しようというのです。
こちらの段ボールのもとになる紙。高さは2メートル20センチで、これまでトラックでしか運ぶことができませんでした。
しかし、ある特殊なコンテナを使うと、今まで積むことができなかった高さのものも運べるようになり、ことし3月から一部をトラックから鉄道に切り替えることができました。
このコンテナは、トンネルの形に合わせて天井部分をアーチ状にしたことで、トンネルを通過できるギリギリの高さまで荷物を積み込めるように開発されました。
コンテナを開発したDOWAエコシステム 廣田和巳さん
「今までは運送会社任せになっていた部分が非常に大きかったと思う。わたしたち、メーカーや荷主がきちんと当事者意識を持って、いかに物流を守るかが重要だ」
来年4月までおよそ9か月。秋田県トラック協会は、深刻な人手不足や輸送量の減少に対応するには、幅広い連携が欠かせないとしています。
秋田県トラック協会の赤上信弥会長
「トラックが動かなくなると経済も社会も止まってしまう。運送事業者としては、様々な制限があり、苦労も多いが、長時間労働が当たり前だったこの業界を変える大きなチャンスにもなると考えている。さらに、荷主企業、一般の消費者、それから行政も含めてこの課題をしっかり共有して、秋田県の物流を止めないために、この2024年問題に対応していきたい」
取材 中尾絢一
2016年入局。秋田局で経済担当