NHK秋田 大谷昌弘アナウンサー 大雨3か月 証言から考える「呼びかけ」

NHK
2023年10月19日 午後0:31 公開

秋田放送局アナウンサーの大谷昌弘です。

秋田県を襲った記録的な大雨から3か月が経ちました。今回の大雨では、秋田放送局のあるJR秋田駅前をはじめ、広い範囲で浸水被害がありました。

かく言う私も自宅の前が冠水。水が迫る恐怖を感じ、避難所で一夜を明かしました。避難所には、車いすの家族や小さなお子さんを連れている方、トイレが逆流してしまい家に戻るのが怖いという方、避難してきたもののスマートフォンの充電器を持ってこなくて困っているという方など、多くの人が身を寄せていました。

(避難所では、配布された毛布やアルミシートを敷いて過ごしました)

一方で、避難のタイミングを逃してしまった人、家財や車を廃棄せざるをえなかった人も少なくありませんでした。私を含め、秋田放送局のアナウンサーも放送などを通じて、防災・減災の「呼びかけ」を行ってきましたが、果たしてその「呼びかけ」はみなさんに届いていたのか。「呼びかけ」が行動を起こすための後押しになったのだろうか。

実際にどう受け取られていたのか聞いてみたいと思った私は、浸水被害が深刻だった秋田市広面(ひろおもて)地区の住民に直接話を伺いました。その声をもとに、今後の減災につなげるための教訓について専門家とともに考えました。

広面地区の当時の状況は?  今後に経験を残す動きも

(広面町内会会長 川辺英勝さん)

まず私が訪ねたのは、広面町内会の会長・川辺英勝(かわべ・ひでかつ)さんです。7月の大雨で氾濫した太平川のそばに住む川辺さんに、当時の状況について話を伺いました。

(川辺さん)

「玄関のこの辺まで水が上がったんですよ。ここまで上がるっていうことは、前の道路は私の胸くらいの高さ。道路もとても渡って歩くような状況じゃなくて、川と同じ流れの強さで、もう歩くとかできなくて」

当時、浸水のスピードがあまりにも早く、外に出ることが難しくなってしまったといいます。水が引いた後、町内の様子を心配した川辺さんは、被害状況の確認に動きました。

広面町内には集合住宅を除き、およそ200世帯ありますが、川辺さんの調べでは、その4分の1に上る56世帯が床上浸水。川から離れたところでも、深刻な浸水被害があったことがわかりました。

(川辺さん)

「まさかあそこのほうは水が上がると思わないから、災害の保険には入ってるんだけど、水害だけは抜いてあったんです。そういう家庭が結構あるんです」

川辺さんは今回の教訓を残すべきだと考え、この3か月間で全世帯にアンケートをとり、どんな被害があったのか、避難をしたかどうかなどをまとめました。

(大谷)

「アンケートを見ると、避難しなかった人が123人。結構多いんですね」

(川辺さん)

「年をとっていれば、避難すると言っても2階あれば、ほとんど2階に上がるよ。自分の家から離れたくないんですよ」

一方、アンケートでは、避難の行動につながる要素もわかってきました。

(大谷)

「町内の方が声かけをしてくれたので、子どもの安全確保、車の被害を防ぐことができた。声かけが大事なんですね」

(川辺さん)

「大雨降った時に教訓として、こういうことすればいいんじゃないかとか、みなさんがアンケートに書いてくれた意見が一番大事なのではないかと思っています」

「呼びかけ」は届いていたのか?

これまで経験したことがない状況が迫る中、どんな「呼びかけ」があれば、速やかな避難や被害の軽減につなげられたのか。川辺さんら広面地区の皆さんに集まっていただき、直接話を聞きました。

(大谷)

「これまで経験がなかったから避難しようとは思わなかった?」

(広面地区に住む人)

「まさかここまで水が上がるとは思わなかったもん。だからそれが一番。前に何回か被害に遭っていればね。すぐ避難できたんだけども」

「昔からいる人は、何かあれば2階に上がればいいんじゃないかって感じ。実際に避難所行くまでは考えてないみたい」

「テレビで見た災害の場合は2階まで水が来たりしてたけど、この辺はそこまではないと思う」

「『太平川が氾濫しそう』と言われても、自分のそばではないと思った。もっと川のどのあたりなのか、具体的な場所を示してほしい」

また、私たちの放送を通じた「呼びかけ」は、行動を後押しできたのか聞いてみました。

(広面地区に住む人)

「避難指示とかいろいろ出るんですが、なんかあまり身近に感じないっていうか。具体的にどう行動すればいいか、戸惑ったというか、わからなかった」

「土砂災害警戒情報とか記録的短時間大雨情報とか、新しい言葉がポンポンポンポン出てくるもんな。これどういう意味かなって調べなきゃわからない」

「データ放送の利用を呼びかけた方がいいんじゃないかと思うよ。大雨降れば、すぐ河川の情報も出てくるし、避難所開設、避難指示とか全部出てくるから、自分はテロップより参考にしている」

川辺さんは町内会として具体的な被害の情報を集め、住民に共有する必要性を改めて感じていました。

(川辺さん)

「やっぱり早めの情報を流す、もらう、そういうことをやっていかなければ、また同じ状態になってしまっては、なにもならないと思いますので。またいろんな意見が出てくると思いますので、その言葉を吸い上げて、プラスしていきたいなと思います」

専門家と考える 減災につながる教訓は

こうした住民の声を減災にどう生かしていくか。河川の氾濫のメカニズムなどに詳しく、被害地域の調査にもあたってきた秋田大学の松冨英夫(まつとみ・ひでお)名誉教授に助言を求めました。

避難せず、自宅にとどまった人が多かったことについては。

(松冨さん)

「確かに経験がないっていうことに対して、新しく一歩を踏み出そうというのは、難しいことだろうと思っています。場所によっては違ってくると思いますけれど、一般論として2階に避難すればいいという言い方は、なかなかできないのではないかなと思います。想定外のことが起こり得ますので」

今後の備えについては。

(松冨さん)

「こういう大規模な内水氾濫がこの地域でも起こるんだということを、まず覚悟していただく。事前の準備といいますか、何を持ちだすかということが皆さん気がかりだと思います。避難場所の再確認といったことも必要だろうと思います」

最後に、被害を減らすための「呼びかけ」について、今後どんなことが求められるか聞きました。

(松冨さん)

「避難の呼びかけに関しましては、情報量が多くてもいけないし、少なくてもいけないかもしれません。避難の準備、避難場所の確認、あるいは避難、そういった場合の呼びかけ、その時に声かけをするとか。アナウンサーの人たちには、表現の効果的な伝達ということを、言葉に出す前に落ち着いて考えていただくことが必要だと思います」

被災者の証言から見えてきたポイント

今回、広面町内会のみなさんや専門家から話を伺う中で、今後の減災や「呼びかけ」に関するポイントがいくつか見えてきました。

■「2階への避難は最終手段」

過去の水害では、2階にいたとしても助からなかったケースもありました。松冨名誉教授も話していたように、想定外・今回以上の水害となるおそれもあります。周囲の状況を確認して不安を感じたら、早めに安全な場所へ避難することが大切です。そのためにも、持ち物や避難場所の確認など、早めの準備を呼びかけることも必要だと感じました。

■「経験にとらわれず行動を」

「経験がなかったので避難しなかった」という声もありましたが、命を落としてしまってからでは取り返しがつきません。「あのときは大丈夫だった」「この地域は心配ない」など、これまでの経験にとらわれないことが重要です。

■「情報の意味を伝える」

ことばの意味やどう行動したらいいかがわからないという意見もありました。その情報が出たらどうすべきなのか、どんなことが起こりうるのか、具体的にわかりやすく伝えることが求められると感じました。

また、情報収集に関しては、テレビのリモコンのdボタンを押して見られるデータ放送が役に立ったという証言もありました。最近の放送では、ネットへの案内をすることが多いのですが、秋田のように高齢者が多い地域では、アクセスが難しい人も多くいます。スマートフォンやパソコンの扱いに不慣れな人でも簡単に操作できるデータ放送の案内の必要性も痛感しました。

実際にお話を伺って、情報や呼びかけが届ききっていない面が見えてきました。今回の教訓をもとに、秋田放送局としても検証・検討を重ね、状況の経過にあわせた、行動を後押しできるような「呼びかけ」を考えていきたいと思います。