恩師と臨む初めての全日本柔道選手権

NHK
2023年4月26日 午後3:37 公開

日本一の柔道家を決める「全日本選手権」。

特徴は、体重無差別で争われること。

その年の最強の柔道家を決める、日本最高峰の舞台です。

秋田市の佐藤光(さとう・ひかる)選手(24)。

ことし、初の全日本選手権出場をつかみました。

得意技は、相手を背負って肩越しに投げる「背負投」。

1メートル71センチと決して大きな体ではありませんが、

組み手の力強さと体力を武器にしています。

佐藤さん

「スタミナと力強さが自分の長所だと思う。」

一度は離れた柔道

全日本選手権に出場する選手の多くは、

強豪の企業チームや警察に所属し、連日稽古を積んでいます。

一方、佐藤さんの職場は「秋田県スポーツ協会」。

道場などにも通わず、同じレベルの稽古相手はいません。

デスクワークの合間を縫ってのトレーニングなど、

決して恵まれた稽古環境とは言えません。

それでも柔道を続けるのには、理由があります。

写真:本荘高校時代の佐藤さん(最前列の左から3人目)提供:佐藤光さん

本荘高校柔道部出身の佐藤さん。

高校時代は何度も全国大会に出場する有力選手でした。

写真提供:佐藤光さん(最後列、右から3人目が佐藤さん)

写真:國學院大学時代の佐藤さん(最後列の右から3人目)提供:佐藤光さん

卒業後は、柔道の強豪・國學院大学に進学。

しかし、同じ階級に強いライバルがいたこともあり、

思うような活躍ができませんでした。

さらに、大学4年生の時に新型コロナが流行。

ほとんどの大会が中止になってしまい、そのまま大学卒業を迎えることとなりました。

卒業後は岩手県の会社に就職し、一度は柔道から離れた佐藤さん。

胸の中には、完全燃焼できていなかったことを悔やむ思いがありました。

佐藤さん

「悔しい思いと後悔があって、柔道を再開することを決めた。」

支え続けている恩師の存在

その佐藤さんを、ずっと支え続けている人がいます。

我妻沢美(あがつま・たくみ)さん。

本荘高校柔道部で佐藤さんを指導した恩師です。

我妻さん

「高校時代は、相手が強い時にこそ真価を発揮する頼もしい選手だった。」

写真:大学時代、我妻さんと2人で食事する佐藤さん 提供:我妻沢美さん

我妻さんは、佐藤さんの大学進学後も気にかけ、

電話をしたり、食事に行ったりしていました。

我妻さんには、印象に残っている電話があります。

我妻さん

「道路で泣きながら電話してきたことがあった。きっとライバルに負けて、

悔しくて、『先生もうだめかもしれない』と話してくれた。」

一方の佐藤さんも、我妻さんから教わって大切にしていることばが。

佐藤さん

「人間、毎日、本気でやることはできない。たまには抜くことも必要だと。

そのことばで心に余裕を持つことができた。」

我妻さんは、佐藤さんが柔道を再開すると聞き、

中高生に指導する「テクニカルアドバイザー」という仕事を勧めました。

我妻さん

「全日本のような試合を目指してほしいと思っていた。

仕事として柔道に関われると思い、推薦した。」

佐藤さんは県内の柔道部に赴き、技術的な指導しています。

指導によって自分の技術を見つめ直すことができ、

競技力向上につながったと言います。

佐藤さん

「技に入る位置やタイミングなどを考える余裕ができ、

全日本出場という結果につながった。」

我妻さん自身も、本荘高校柔道部出身。

自分の教え子から、全日本選手権に出場する選手が出るのが夢でした。

そして我妻さんは、佐藤さんの「監督」として、一緒に全日本に臨みます。

「生徒が全日本のような大会にでることを目標に、夢のように思って指導してきた。

それが叶い、またその姿を近くで見ることが出来て本当にうれしい。」

一度は離れた柔道。恩師とともに臨む佐藤さんの目標は。

「まずは一回戦突破が目標。順調に勝ち進めたら、優勝も視野に頑張りたい。」

佐藤さんが出場する全日本柔道選手権は、

4月29日(土)に東京の日本武道館で開催されます。

NHKでは、その模様を生中継でお伝えします。

午後1時からはBS1で。午後4時からは総合テレビです。