謎の"爆発音”その正体とは・・・

NHK
2023年2月2日 午後4:39 公開

1月19日の午後、滋賀県の守山市や草津市で「上空から爆発音がした」などの通報が警察や市役所に相次いで寄せられました。幸いなことに、けが人や建物への被害はありませんでした。「音」の正体に大津放送局の記者が迫りました。
(大津放送局 丸茂寛太 記者)

(守山市上空)

突然響いた爆発音

1月19日午後3時すぎ、「すごい爆発音がした」「爆発音すごかった」などとSNSに書き込みが相次ぎました。

このとき、守山市に隣接する野洲市では、住宅内に設置されたカメラに「音」に気づいたとみられる犬が吠え出す様子が写っていました。

(視聴者提供)

被害情報は無し 音の原因は不明

何か大きな被害が出ているかもしれない。守山市と草津市の市役所や警察に取材すると、「大きな音が聞こえた」という通報が相次いだものの、被害はないということでした。しかし、「音」の原因につながる情報はありませんでした。

「音」の原因は何だったのか。大津放送局の屋上に設置されているカメラの映像も確認しましたが、手がかりになるようなものは何も映っていませんでした。

守山市から40キロほど離れた、びわ湖の対岸の高島市には陸上自衛隊の演習場があるのでそちらにも取材しましたが、当日は午前中に迫撃砲の演習を行ったものの、午後は演習を行っていないということでした。

また、滋賀県彦根市にある彦根地方気象台からは、大きな音の原因となり得る雷などの気象現象はなかったと回答がありました。

窓が揺れた

現地では、いったい何が起きていたのか。どんな音が聞こえて、どれほどの大きさだったのか。その日のうちに守山市に取材にむかいました。

現地に到着したのは午後5時前。道路は車が走っていて、道沿いの店も営業しています。ふだんの様子と変わりないように見えました。もちろん、上空には何も気になるところはありません。しかし、地元の人たちに話を聞いてみると、大きな「音」を聞いたという声が相次ぎました。

(50代女性)
「何かがぶつかったようなドンという音が1回聞こえて、窓にも振動があったような感じがしました」

(10代男性)
「家で横になっていたらいきなり爆発音が1回して、何だろうと思ったら、友達からも“音が聞こえなかったか”と連絡が来ました。何かあったのではないかとびっくりしました」

(40代女性)
「聞いたことのないようなドンという音がして、何か上から落ちてきたのではないかと思いました。犬が音にびっくりして、しばらくほえていました。何か落ちてきていないか、家の2階を確認しましたが、何もありませんでした」

当時、私たちが現地で話を聞くことができたのは、およそ10人。全員が「爆発音を聞いた」と答えました。そのうちの多くの人が「窓や建物が揺れた」と話し“衝撃”も感じていたことがわかりました。

“衝撃”を感じるほどの大きな音が鳴っていたのに、現場にはその痕跡がまったくない。違和感だけが残る当日の取材でした。

専門家が指摘 3つの可能性

後日、手がかりを求めて取材したのが、京都大学防災研究所の山田真澄准教授です。地震学が専門の山田准教授は、地震計のデータから噴火による衝撃波などについても研究してきました。

山田准教授は、多くの人が“衝撃”を感じたほどの「音」であれば、付近の地震計にもその記録が残っている可能性があるが、私たちが取材した時点では、滋賀県内の地震計にはそれらしいデータが見つかっていなかったことを前提にした上で、大きな「音」や「衝撃」の原因として、次の3つをあげました。

①地上での大きな爆発
守山市などの周辺で、火災などによる大きな爆発があった可能性。

②火球
流れ星の中でも特に明るく輝く「火球」と呼ばれる現象があった場合、大きな音が聞こえる可能性がある。

③ジェット戦闘機
ジェット戦闘機などが音速を超えて飛行すると、地上で大きな音や衝撃波が発生することがある。

山田准教授によると、このうち①については、地上で爆発があれば消防や警察に被害の情報が寄せられるはずで、今回は目立った被害の情報がないことから除外してもよいのではないかということでした。
また、②の火球は、これまでのところ地元での目撃情報ありません。

ジェット戦闘機?

そこで、③のジェット戦闘機の可能性はあるのか、防衛省にメールで問い合わせました。

すると、「1月19日午後、航空自衛隊のF15戦闘機1機が滋賀県上空を飛行していたことを確認しています」という回答が返ってきました。

(資料:F15戦闘機)

防衛省への取材で、次のようなことがわかりました。

▽1月19日午後3時ごろ、航空自衛隊のF15戦闘機、1機が草津市や守山市を含む滋賀県南部の上空を飛行した。

▽このF15戦闘機は、航空自衛隊那覇基地に所属し、定期整備を行うために福岡県の築城基地を経由して県営名古屋空港に向かっていた。

▽この戦闘機は、高度約4000メートル以上を飛行していた。

戦闘機が飛行していた時間や場所は、守山市や草津市で住民が大きな音を聞いた時間帯と一致します。

地震計が捉えていた「音」

この取材結果をもとに、再度、京都大学の山田真澄准教授に取材しました。山田准教授は、改めて滋賀県や三重県などに設置された地震計の記録を詳しく分析したところ、次のようなことが明らかになってきたと説明しました。

▽滋賀県多賀町の地震計などに今回の大きな「音」の原因となったとみられる衝撃波が捉えられていた。

▽「音」は午後3時3分ごろに発生したとみられる。

▽「音」は、地震計のデータから、上空の超音速で動く物体から発せられたとみられる。

そして、「衝撃波が地震計で観測された時間帯に戦闘機が飛行していたとすれば、音の原因になった可能性がある」と話しました。

「音速は超えていない」

一方、防衛省はNHKの取材に対し、当該機を操縦していたパイロットに飛行時の状況について聞き取りを行った結果、音速を超えて飛行していた事実は確認されなかった、としています。また、「音」と当該機との関係を明らかにすることは困難ですが、当該機の飛行の状況については、引き続き確認する予定です。いずれにせよ、関係機関から協力を求められた場合は必要な対応を実施してまいります、としています。

残った“謎”

「戦闘機」の可能性が浮上したものの、確証を得ることはできませんでした。また、山田准教授も、「地震計のデータが少なく、『音』の原因となった物体の速度や経路を推定することはできず、火球の可能性も否定はできない」としています。

今回は残念ながら、「音」の原因の特定には至りませんでしたが、これからも、身近な疑問を大切にしながら取材を続けて行きたいと思います。