小さな赤ちゃんのための「母乳バンク」

NHK
2023年12月5日 午後0:00 公開

11月17日は、早産などで小さく生まれた赤ちゃんやその家族への理解を深めてもらおうという、「世界早産児デー」でした。

早産などで、1500グラム未満で生まれる赤ちゃんは、2022年の調査で年間およそ6000人います。

そうした小さく生まれた赤ちゃんのための仕組み、「母乳バンク」を知っていますか?

(大津放送局 記者 岡本綾)

小さな赤ちゃん 出産のその時

こちらは、多賀町に住む小島かおりさん。「滋賀のCOAYU(こあゆ)」という、小さく生まれた赤ちゃんとその家族が交流したり、情報交換したりするサークルの代表を務めています。

小島さんは4年前(2019年)、長女のひなのちゃんを予定日よりも2か月早く出産しました。生まれたときの体重は1412グラム。日本で生まれる赤ちゃんの平均体重の半分ほどです。

出産直後、小島さん自身も肺の具合が悪く、集中治療室に入院し、母乳を与えることができたのは出産してから1週間がたってからでした。

「最初におっぱいを吸わせたいなというのは思ったんですけど、それがかなわなくても、2人の命が助かったら、それでよかったと思っていました」(小島さん)

小さな赤ちゃんの抱えるリスク

小さく生まれた赤ちゃんには、どういったリスクがあるのでしょうか。

写真は、滋賀医科大学付属病院のNICU=新生児集中治療室に入院中の、体重377グラムで生まれた赤ちゃんです。取材した時は、生まれて10日ほどがたったところでした。

早産などで、体重1500グラム未満で生まれた赤ちゃんは、「極低出生体重児」と呼ばれています。

こうした赤ちゃんは感染症や病気にかかりやすく、母乳は、粉ミルクよりもそのリスクを減らす効果があるとされています。

しかし、生まれてすぐに母乳をあげられないケースもあるといいます。

(滋賀医科大学付属病院 小児科 柳貴英医師)。

「早産で赤ちゃんが生まれたとか、帝王切開で生まれたといった状態のお母さんにとっては、おっぱいを出すというのは大変なことで、なかなか体調もよくないですし、精神的にもショックを受けておられたりするし、おっぱいがなかなか出ないということがあります」

「母乳バンク」とは

こうした小さく生まれた赤ちゃんを守るための仕組みが「母乳バンク」です。

①母乳が出る母親が、特定の施設で検査を受けた上でドナー登録します。

②寄付された母乳は検査や殺菌され、国内3か所にある「母乳バンク」で冷凍で保管されます。

③そして、病院の要請に応じて、小さく生まれた赤ちゃんに無償で提供されます。

「子どもにいいことだったらなんでもしたい」

1412グラムで生まれたひなのちゃんは、今は4歳になり、元気に育っています。

母親の小島さんは、出産当時は「母乳バンク」の存在を知らず、活用することはできませんでしたが、情報を知っていれば選択肢が広がったのにと感じています。

「母乳バンクという有用性を知っていたら、ぜひ使って下さいって私は言っていたかなと思います。子どもにいいことだったらなんでもしたかったです」(小島さん)

小島さんは、長女のひなのちゃんを出産したあと、小さく生まれた赤ちゃんやその家族で作るサークル「滋賀のCOAYU」を立ち上げました。

全国の仲間と情報交換するうち、「母乳バンク」について知ったそうです。

そして、東京・日本橋にある「日本財団母乳バンク」にみずから足を運び、施設を見学して、その仕組みや意義に共感したといいます。

ドナーになる!

ことし9月、小島さんは、第2子となる男の子を出産しました。再び母乳が出るようになり、誰かの助けになりたいと、みずから母乳バンクに登録することを決めました。

「上のお姉さんが小さく生まれて、ここまで元気になってくれた感謝の気持ちと、娘を助けてくださった多くの方への感謝の気持ちを、母乳バンクに登録することで“恩おくり”させてもらいたい」(小島さん)

県内で最も早く母乳バンクの取り組みを始めた、滋賀医科大学付属病院です。

11月、小島さんはドナー登録をするために訪れました。

「搾乳されるときには、清潔にしてくださいね」(医師)

健康状態の確認や血液検査をし、母乳の搾乳方法などについて説明を受けました。

そして、搾乳機や母乳を入れるパックなどの必要な道具を受け取りました。

(滋賀医科大学付属病院 小児科 柳貴英医師)。

「早産のお子さんのお母さんにとっては、自分のおっぱいをあげたいという気持ち、その間、ほかの方のおっぱいを頂くっていうところは、いろいろ葛藤とかもあるとは思うんですけど、でもその間の橋渡しで、いずれはお母さんのおっぱいでいければいいねっていう形で、もっと自然な形で使えるようになるといいなと思っています」

「周りのお母さんたちから、母乳バンクを知っていたらやったのにっていう声をたくさん頂きました。そんな一生に1回しかできない すてきな協力、小さく生まれた子の命につながるんだったらぜひ協力したいけど、知らなかったからできなくて残念、という声とかたくさんもらったので、まずは知ってもらうことかなと思ってます」

県内での取り組みは

小さく生まれた赤ちゃんに母乳を提供する、「母乳バンク」の取り組み。滋賀県内では、母乳バンクの取り組みは始まったばかりです。県内では、はじめに滋賀医科大学付属病院がおととし(2021年)からドナーミルクの提供を始めました。

続いて、大津赤十字病院と長浜赤十字病院が去年(2022年)から、近江八幡市立総合医療センターが、ことし(2023年)から始め、現在では、NICU=新生児集中治療室がある県内4か所すべての病院で必要に応じて提供されています。

各病院に取材したところ、これまでに、▼滋賀医科大学付属病院が7人、▼大津赤十字病院が4人、▼長浜赤十字病院が12人、▼近江八幡市立総合医療センターが4人の、合わせて27人に提供したということです。

滋賀医科大学付属病院のNICU=新生児集中治療室では、取材に訪れたとき、ちょうど、908グラムで生まれた赤ちゃんに、ドナーミルクを与えているところでした。

まだ、哺乳瓶をくわえることができない赤ちゃんに、注射器のようなものにミルクを入れて、口や鼻からチューブを通して胃に入れてあげるそうです。1回に飲める量はわずか9ccで、これを1時間かけてゆっくりと与えているということです。

両方の手のひらにおさまりそうなくらい、小さな小さな赤ちゃんにとって、このミルクが命をつなぐ大切なものなんだなと実感しました。

ドナーになりたい場合は

もし、小島さんのように「私もドナーになりたい」という場合は、どうしたらいいのでしょうか。

国内の「母乳バンク」は、東京の「日本財団母乳バンク」と「日本母乳バンク協会」、それに愛知県の「藤田医科大学病院 日本財団母乳バンク」の3か所にあります。

ドナーになりたい場合は、▼「日本財団母乳バンク」か、▼「日本母乳バンク協会」のホームページで申請した後、病院で登録のための検査を受けます。

県内でドナー登録ができる病院はいまのところ、▽滋賀医科大学付属病院と、▽長浜赤十字病院の2か所のみです。

登録が済むと、搾乳に必要な道具や母乳を入れる袋などが支給され、自宅で搾乳して冷凍します。そしてある程度たまったら、冷凍の宅配便で母乳バンクまで送る、という流れになっています。

母乳バンクを取材して

私(岡本)も、2人の子どもを出産しましたが、母乳が十分出なかったり詰まったりと、辛い時期もありました。自分の子どもに母乳を与えて子育てをしながら、自分の子どもにあげる以外にも母乳を搾乳して、冷凍して、宅配便で送って・・・という作業をするのは、大変なことだと思います。

そんな中でも、「誰かのためになりたい」と、ドナーに登録する決意をした小島さんの強い思いを感じました。

母乳バンクの場合、献血と違って、ドナーになれるのは母乳が出ている期間だけのため、常に新しい人にドナーになってもらう必要があるということです。

また、今よりも多くの病院で提供されるようになれば、どこで出産しても、ドナーミルクを使う選択肢ができます。

まずは多くの人に知ってもらい、関心をもってもらうことが必要だと感じました。

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