大量発生ビワコムシ、なぜ多い?対策は?

大津局 西河篤俊
2022年11月28日 午後4:00 公開

窓や壁にべったりとはりつく生き物、

その名も「ビワコムシ」。

この時期大量に発生し、目につく。

なぜ多いのか、

なんとかする手立てはないのか、専門家に聞いた。

びわ湖畔の“嫌われ者”

「気持ち悪いからなんとかならない?」

最近、家族からよく聞く言葉だ。

外壁や窓に張り付くビワコムシ。

体長およそ1センチ。

大きな蚊のように見える。

でも、私たちを刺してくることはない。

一見、アメンボのようにも見える。

でも、すばしっこく動くことはない。

ただ、じっと止まっている、そんな印象だ。

この時期、大津市などのびわ湖近くに住む人たちにとって

急速に生活に身近な存在となる。

私(筆者)は2年あまり前に大津に引っ越してきて、

初めてその存在を知った。

地元の人たちの間やSNS上でもビワコムシへの風当たりはきつい。

「最近、多くて目障り」

「洗濯物を外に干すと大変」

「家の壁に張り付いていて気持ち悪い」

いわゆる、「嫌われ者」だ。

大津市内のホームセンターには

ビワコムシ対策グッズを販売する一角もあった。

頭を悩ませている人は少なくないようだ。

ビワコムシとは?

ビワコムシの特徴や対策について教えてもらおうと

滋賀県の琵琶湖環境科学研究センターを訪ねた。

取材に応じてくれたのは

専門研究員の井上栄壮さん。

びわ湖の底に暮らす底生生物の研究をしている

その道のエキスパートだ。

ビワコムシというのは通称。

昆虫としての名前は「ユスリカ」という。

1年で春と秋の2回、出現の時期を迎える。

この時期に多く見られるのは「アカムシユスリカ」という種類。

アカムシユスリカの雄(琵琶湖環境科学研究センター提供)↑

蚊のように見えるが、蚊ではない。

名前の由来は諸説あるが、幼虫の時体が赤く、体を揺らすことからそう名付けられたというのが有力だそう。

アカムシユスリカの幼虫(琵琶湖環境科学研究センター提供)↑

なぜこの時期に多い?

なぜ、この時期に大量発生するのか。 

アカムシユスリカの幼虫は、びわ湖の湖底の泥の中で暮らしている。

秋から冬に卵からかえり、冬から春にかけて成長する。

暑さには弱いため、夏の間は、湖の底にもぐってじっとしている。

(これを「夏眠」というらしい)

そして、秋になると幼虫からさなぎをへて成虫になる。

1年ほどの湖底での暮らしを終え、成虫になって地上に出てくるのがこの時期なのだ。

比較的浅い湖底を好むため、びわ湖の中でも南部が主な生息域。

このため、ビワコムシが多く見られるのは、大津市、草津市、守山市などのびわ湖に近い地域となる。

今年は特に多い?

「なぜ今年、こんなに大量発生しているんですか?」

こう尋ねると井上さんから意外な答えが返ってきた。

「例年並みですね。特に今年が多いわけではないんです。

30年ほど前に比べたらずいぶん減っていますよ」

その理由として井上さんが挙げたのがびわ湖の環境の変化だ。

ビワコムシの幼虫はびわ湖の湖底に暮らす。

エサは、植物プランクトンが湖底に沈殿した有機物。

びわ湖の環境と関わりが・・・

井上さん曰く、本当の意味で大量発生したのは1980年代から1990年代ごろ。

センターに残っている記録によれば、

1992年には1平方メートルに16800匹

集まっていたというものまであるそうだ。

たしかに今はそれほどではない。

この大量発生の時期はびわ湖の「富栄養化」が問題となった時代と一致する。

つまり、生活排水などによってびわ湖の水質が悪化したとき。

このため、エサとなる植物プランクトンも多かったのだ。

それが2000年代には、ビワコムシは急激に減少した。

下水道の整備などで水質が改善し、植物プランクトンが減ったためだ。

ここ数年、また増えてきている?

2000年代に大量発生がおさまり、本格的な調査は行われなくなった。

このため、その後発生の推移がどうなっているか、実態の把握は難しくなっている。

ただ、井上さんの感覚でもここ数年、少し増えてきていると感じているという。

増えているとすれば、考えられる要因はびわ湖の水草との関わり。

県琵琶湖保全再生課によると、びわ湖の水草は

2014年ごろ、大量繁茂が問題となったが、その後は、減少傾向にある。

原因は詳しくは分かっていないが、

除去や刈り取りを進めたことや気象条件など複合的な要因とみられる。

水草が減ったことによって、太陽の光が水中に届きやすくなり、

びわ湖の植物プランクトンが増える。

それをエサとするビワコムシにとって

より住みやすい環境になっている可能性があるという。

変わったのはビワコムシだけではない

もう一つ、井上さんが指摘したのが、ビワコムシ側ではなく、

それを見る私たちヒト側の要因。

大津市や草津市などのJR沿線に最近マンションが多く建ったりして、県外から滋賀に来る人が多いですよね。ビワコムシを知らない人たちが増えて、驚かれるのかもしれませんね」(井上さん)

ビワコムシ対策 どうすれば

昔に比べたらずいぶん少ないと言われても、気になるものは気になる。

良い対策はないのか、尋ねてみた。

「うーん、難しいですね。

殺虫剤や防虫剤を使えば、その瞬間は一定の効果はあると思います」

ただ、と言葉を続けた。

すぐにまた別のビワコムシたちが飛んできます。

ビワコムシの成虫の寿命は1日か2日くらいです。

だから、いくら取り除いてもいなくなるということはありません」

残念ながら、家庭でできる対策としてできることはかなり限られているという。

挙げたのは3点

  •  ビワコムシは光に集まる習性があるため外灯はつけない

  •  カーテンなどで部屋の中の明かりが漏れないようにする

  • 屋外ではなく室内に洗濯物を干す

“季節の・・・・”

びわ湖畔の飲食店では、入り口に大きな扇風機を置いて、ビワコムシを吹き飛ばしているところもあるというが、一般の家庭で設置するのは現実的ではない。

もちろん、びわ湖に殺虫剤などをまくわけにはいかず、抜本的な対策はない、という。

井上さんは冷静に続ける。

「どれだけ多くても12月中旬、遅くとも年内には、ビワコムシはいなくなります。

季節の風物詩だと思って、我慢してあきらめるしかないと思います」

井上さんはなぜビワコムシを?

井上さんがユスリカの研究を始めたのは21歳の学生の時。

もともと大学で魚の研究をしようと思っていたが、研究室の先生がユスリカの専門家だった。

先生にあちこちの川に連れて行かれて調査するうちに、色や形が異なる多くの種が次々に出てきて、ユスリカの世界にひきこまれていったという。

今は、立場上、びわ湖の底生生物を幅広く調べる必要があり、ユスリカばかりを掘り下げるわけにはいかない。

それでもユスリカへの探究心は49歳になった今も変わることはない。

ユスリカの一種であるビワコムシについても、多くの人にもっと知ってもらいたいと考えている。

アカムシユスリカの雌(琵琶湖環境科学研究センター提供)↑

“すごくいい虫”

その井上さん、取材の最後に

「ビワコムシは迷惑虫だけではない、いい面もあるんですよ」と話し出した。

ビワコムシはびわ湖の汚れの元になる植物プランクトンの有機物を食べてくれている。

成虫になって地上に出て、その有機物をびわ湖の外に出す。

つまり、“びわ湖をきれいにしてくれている”、というのだ。

また、幼虫の時も成虫の時も、びわ湖や周辺で暮らす魚や鳥のエサになっている。

虫を苦手な人って結構いますし、気持ちはよくわかります。

ただ、ビワコムシもびわ湖に住む生き物の1つです。

びわ湖の生態系を支え、水質の浄化にも一役買っている、

見方によっては、すごくいい虫でもあるんです。

見た目は悪いかもしれないですが、

死ぬ直前の1日や2日、地上で暮らすのは、

温かい目で見てあげてもいいのではないでしょうか」(井上さん)

家に帰ると・・・

取材を終えて家に帰ると、

建物の壁や窓には、相変わらずおおぜいのビワコムシたちが集まっていた。

ただ、これまでよりは少し違って見えた。

明日の朝には、また大量のなきがらを見ることになるだろう。

少しやさしく掃こうかな、と思った。

おうみ取材ノート創刊にあたり

今月、新たにこの「おうみ取材ノート」というコーナーを立ち上げました。

ここではテレビでは番組の時間の制限などもあって

十分紹介しきれなかった情報や、

取材に応じてくれた皆さまの思いを、

より詳しく紹介できたらと考えています。

また、取材者たちが

現場で感じたことや取材過程なども可能な限り盛り込み、

「顔の見える」記事を目指します!

筆者プロフィール

大津局ニュースデスク 西河篤俊 2001年入局

神戸局、大阪局などを経て2012年から3年間カイロに駐在。中東・アフリカ地域で紛争、テロ、難民問題を取材。国際部デスク、報道局遊軍を経て2017年から3年間、ワシントンに駐在、トランプ大統領、ホワイトハウス、アメリカの社会問題を取材。2020年から現職。休日はびわ湖畔散歩や比良山系登山のあと、滋賀産の食べ物を肴にお酒を飲むのが楽しみ