どうする公共交通 後編 解決のカギは「交通税」?

NHK
2022年12月2日 午後7:56 公開

厳しい経営環境が続く地方の公共交通。人口減少が加速するなか、どう将来にわたって維持していくかは待ったなしの課題となっています。そうしたなか、全国で初めて「交通税」の導入を検討しているのが滋賀県です。

また新しい「税金」か…。ニュースで少し聞いたことはあるけど詳しくは知らない。

そう思われる方も多いと思います。「交通税」とは?なぜ議論が必要なのか?

地域の公共交通について考える「どうする公共交通」。後編は、交通税について、素朴な疑問を滋賀県の三日月知事にぶつけました。

(大津局 光成壮)

「交通税」とは?

滋賀県が全国で初めて導入を検討している「交通税」。

これまでのような利用者負担だけではなく、税によって新たな財源を確保して公共交通を支えていこうという考え方です。

三日月知事が4年前(2018年)、公共交通を維持するための選択肢の一つとして提唱しました。

その課税方式などについて、昨年度から今年度にかけて行われた県の税制審議会では、▼個人や法人に対して固定資産税などの資産課税として徴収する方式や、▼県民税などで広く徴収する方式などで、"追加で徴収”することが考えられるとしています。

ただ、いつ、誰に、どのような形で課税するかはまだ決まっていません。

海外では導入事例も

実は、海外では導入している事例もあります。

こちらはフランス、ナンシー市を走るトラムです。

フランスでは、一定数以上の従業員が働く地域の企業などに対して、公共交通機関を利用しているからという名目で課税される仕組みです。

徴収された税は、トラムや地下鉄、バスなどのインフラ整備や運営費にあてられます。

住民にとっては、低運賃で公共交通に乗れるメリットもあるということです。

三日月知事に聞く 交通税なぜ必要?

ただ、滋賀県での議論はまだ始まったばかり。交通税の必要性や使いみちはとても気になるところです。

ここからは、三日月知事へのインタビューで交通税についてより詳しくお伝えします。

Q なぜ交通税の導入検討が必要だと考えているのか教えてください。

三日月知事

「公共交通は私たちの生活の質を左右します。しかし交通を取り巻く事情というのは、人口が減少したり、生産年齢人口が減ってきたりして、利用者が減っています。新型コロナでそのことがさらに加速し顕在化してきました。

交通事業者の経営が厳しい。またそういうことも相まって、県民の皆様方の交通に対する不満が県政世論調査でも12年連続で最上位にあるという結果も出ています。交通をよりよくするという課題は待ったなしの課題ではないかと考えています。

ただ、それを果たすための財源措置というものが十分でない。地方自治体として住民がひとしく負担分担する議論というものをする必要があるのではないかと考えました」

新たな財源で課題克服に

Q 交通税を導入することで、どのようなことができると考えているのか教えてください。

知事

「滋賀県の公共交通こうなったらいいねというビジョンづくりに取り組んでいます。バリアフリーやダイヤの問題、運賃、サービスがこうなったらいいなというビジョンを作ります。

これは鶏が先か、卵が先かの議論ですが、乗る人が少ないから便数が少ない。いや、便数が少ないから乗らなくなったという、この隘路(あいろ)を克服していきたい。新たな財源をあてることで、少し改善するきっかけを作れればいいなと思っています」

より身近な公共交通の整備にも

「また、駅までの交通、駅からの交通も課題です。最近では最寄りのバス停までなかなか遠くて行けないんだという方々に対するサービスをどのような形で作っていくのか。市町も多くの住民の声を聞いて悩まれているので、その後押しができるような施策や財源を作れればいいなと思っています」

丁寧に議論積み重ねる

Q 税の負担が増えることについては抵抗感を示す人もいると思いますが、どう説明していくか教えてください。

知事

「10月に行ったアンケート調査では、半分を超える方々が公共交通を支えるための新たな負担を肯定的に捉えてくれているという結果も出ました。

一方で、公共交通は広く影響効果が及ぶとはいえ、日常多く利用する方と自分で運転する、もしくは近くに交通手段がないことなどで、利用の程度に差があると思います。したがって、一律に負担するということに対する抵抗感も変わってくることがあると思います。その合意形成というのは重要な課題だと思います。

当然税などの負担は重いより軽い方がいい、これはもう皆さん感情だと思います。

ただ、新たな財源を税にすることで皆さんに交通について議論してもらう。そうすれば、今よりも便利な公共交通を作れるかもしれない。いやそれを作ろうと呼びかけていきたいと思います。

その議論が広がり理解が醸成されれば、おのずとここまでなら負担してもいいという点が見いだせるのではないかなと思います。そのためにも丁寧に議論することが必要だと考えています」

取材を終えて

今回の取材では、街でも話を聞きました。「自分は使わないので関係ない、増税なんてとんでもない」という声もあれば「負担が増えるのは嫌だけど、理解はできる」といった声もありました。

ただ共通していたのは、皆さんが交通税の導入検討が行われていること自体をよく知らなかったということです。

公共交通は地域の足として欠かせませんし、より便利になり、観光客も使うようになれば活性化にもつながります。

それを維持するために新たな税金を導入するのであれば、何に使い、県民にとってどのようなメリットがあるのか。

それをしっかりと説明したうえで、議論を進めていく必要があると感じました。

大津局記者 光成 壮

2017年入局。初任地の盛岡局を経て去年11月から大津局。休日はどうしても車を使ってしまいますが、京都や大阪に行く時には電車を使いたい。取材では、近江八幡市や東近江市も担当しているため、近江鉄道に乗ることもあります。