演出からのことば

NHK
2022年3月19日 午後10:15 公開

演出の原英輔と申します。

土曜ドラマ『エンディングカット』ご覧頂きありがとうございました。

放送後記として、このドラマへの思いを少しばかり綴らせて頂きます。

――ドラマ化までの経緯

今ドラマは、2019年2月に放送したラジオドラマ、FMシアター『エンディング・カット』を原作としTVドラマ化したものです。

私は、2014年にNHKに入局し、三重県の津放送局に初任地として赴任しました。ドキュメンタリー番組のディレクターとして県内を取材するなかで2016年頃、この“エンディングカット”という活動に出会いました。取材を開始した当初、私自身もエンディングカットのスタッフとして現場に入り、ご遺族の前で故人様の納棺及びエンディングカットを経験させて頂きました。ドラマの登場人物で例えると渡辺美咲さん(菊池佳南さん演じる)の立場ですね。スタッフとしてエンディングカットに関わるようになって、一つの思いへと行きつきました。「エンディングカットはご遺族のためにあるもの」だと。エンディングカットというドキュメンタリー番組を制作しても、主体になるべきはご遺族たちではないか。そうであれば、亡くなって1日2日で終えてしまう日本の葬儀の仕組み中で、悲しみの渦中にあるご遺族にカメラを向ける必要性など、深く考え込みました。誰かを傷つける危険性に加えて、描くべきものが描けなければ、関係者全てを不幸にする番組になってしまいます。しかし、ドラマであればドキュメンタリーでは厳しいと思われた本質の場所へと“エンディングカット”を連れて行ってくれるかもしれないと感じました。実際にエンディングカットを体験されたご遺族への取材をもとに物語を構成しできたのが2019年に放送したラジオドラマでした。

当時、出演してくださった出演者の皆さんと収録後に「“いつか”映像化したいですね」と話したことを今でもはっきり覚えています(ちなみに言い出しっぺは広末さんでした)。私は必ず同じメンバーでと映像化の約束をした後に、その“いつか”には一つのタイムリミットがあることに気づきました。当時中学2年生の芦田愛菜ちゃんが大人になる前です(笑)。急ぎ実現に向け取り掛かり、コロナ禍に見舞われ何度も見通しを立て直すことになりましたが、こうして3年経ったいま映像化することが叶いました。

――主人公・結(18)に込めた思い

ご覧頂いたほとんどの方が感じられたのではないでしょうか。“女優・芦田愛菜のお芝居の凄み”を。ラジオの時から素晴らしいお芝居でしたが、3年の月日が経ってさらに素晴らしい女優さんへと躍進されていますね。

“結”の名前には、私がエンディングカットで感じた印象を投影しています。前回ブログでエンディングカットについてご紹介しましたが、エンディングカットは行為よりも“時間”に意味があると思っています。取材現場では、始め家族が個別に持つ感情が最後には一つに結ばれていく感覚をいつも受けていました。そして、そのエンディングカットの時間がこの先何年経っても、「あの時こういうお別れしたね」というような家族の思い出として、より強く、より鮮明に記憶に残ることを知りました。私は愛菜ちゃんに「エンディングカットは“記憶の固結び”で結という名前にはその意味がある」という風に伝えると、持ち前の読解力と表現力で全てのシーンを演じ切りました。一つ間違えば暗く悲しい話になるこの物語を、温かく前向きなものへと導いてくれたことにありがとう、そしてお疲れ様の気持ちでいっぱいです。

――音楽に託したこと

台本作成の段階から音楽が何よりも前に出てドラマを展開するシーンを作りたいと思っていました。それが結が那須先生から言葉を受けて、海にある壁画まで辿り着く一連のシーンです。個人的な感覚なのですが、歌は記憶と結びついて思い出に残ることがあると思っています。あの歌を聞いたら、あの時あの場所の記憶へと連れて行ってくれる、そんな感じがしています。その感覚がエンディングカットの“記憶の固結び”の感じと親和性があるなと思い、「結をあの場所に連れて行ってほしい」と思っていました。

その感覚を、音楽担当の小田朋美さん、石若駿さん、挿入歌「circle」を歌った中村佳穂さんが見事に表現してくださったと思います。3人はレコーディング中も言葉少なで繊細な感覚を共有されており、その驚くほどに息の合った呼吸で、このドラマに音楽で美しい彩りを与えて下さいました。今回、一緒に作品作りができたことを幸せに感じています。

――最後に

ラジオから再集結して頂いた皆さん、これまでの様々なご縁で出演下さって良いお芝居で助けて頂いた皆さん、撮影・指導協力頂いた皆さん、終始穏やかな空気で優しい物語を作り上げたスタッフ、このドラマに関わって下さった皆さん、ご覧頂いた皆さんに感謝を申し上げます。

最後に、取材を始めて今日まで5年もの間、私は20件以上のエンディングカットの現場に立ち会わせて頂きました。大切な人を失った喪失感と慌ただしい葬儀の時間の中、我々の取材に丁寧ご対応頂いたご遺族、故人の方々に哀悼の意を表すとともに、心より感謝と御礼を申し上げます。

土曜ドラマ『エンディングカット』演出 原英輔