家族の最後の別れの時間“エンディングカット”とは何か?

NHK
2022年3月18日 午前11:00 公開

土曜ドラマ『エンディングカット』演出の原英輔です。

今ドラマは、2019年2月に放送したラジオドラマ、FMシアター『エンディング・カット』をTVドラマ化したものです。放送前にドラマのタイトルにもなっている“エンディングカット”について少しご紹介致します。

――“エンディングカット”は実在するお仕事

まずエンディングカットとは、葬儀の一環として納棺の技術を持つ美容師や理容師が、故人を棺に入れる前に遺族の依頼によって生前の姿のように髪の毛をカット・カラー・パーマ・シャンプーなどヘアーメイクするというものです。

有名な映画『おくりびと』で納棺師の存在はご存知の方も多いと思います。通常、納棺は故人を棺に入れる前に体を綺麗にし、お顔にも化粧を施します。ですが髪の毛までは手入れが行き届かず、白髪は目立ち、伸びきった髪はオールバックに梳かされた状態であることが多いです。

実際のお通夜やお葬式では故人には布団が掛けられ、お顔だけしか見られない場合が多いです。ましてや、棺の窓からの対面となれば、よりお顔だけに限定されたお別れとなってしまうことがあります。最期に駆けつける親族、知人には久しぶりに故人とお会いする方も少なくなく、故人そしてご遺族にも、その時その場でしかない最期の瞬間に、生前のような姿でお別れさせてあげたいという思いから、エンディングカットは生まれました。

2016年頃、三重県北部の東員町、住宅街の一角にある小さな理容室からエンディングカットは始まりました。町の葬儀社と連携し、2022年現在ご依頼の数は1日に10件前後あります。その認知度は少しずつ増し、活動地域は静岡や岐阜へと広まっています。

(地域によっては火葬を終えた後にお通夜やお葬式をされたりしますので、葬儀に地域差はございます)

――家族に大切な最期の時間が生まれる

エンディングカットは葬儀の儀式のひとつですが、それ以上に故人やご遺族にとって大切な時間でもあります。ひとたび葬儀が始まるとご遺族は非常に慌ただしい時間を過ごすことになります。親族や知人への連絡、葬儀の段取り、細かいことで言えば「遺影はどの写真?」「どの棺にする?」「祭壇は?」など、近しい親族であればあるほど事務作業的な時間に追われ、誰よりも悲しみの渦中にいるはずのご遺族が故人とのお別れの時間を十分に過ごせなかったりします。

そんな中、エンディングカットは1時間から2時間ほど、ご遺族と故人が過ごす時間を生み出します。エンディングカット技師は、ご遺族にどんな髪型にしていきましょうかと語り掛けます。髪には生前の故人のアイデンティティが存在します。「あの時はこんな髪型だった」「この時はこうだった」など、髪をきっかけに故人の生前を振り返ることができます。そうしていくうちに、これまで過ごした家族の思い出へとたどり着くことができます。ご遺族は家族を失った喪失感から、家族のいた日常へと戻ることができ、故人との別れと向き合えるようになります。それこそが、かけがえのない時間と空間であり、エンディングカットが持つ一番の役割だと思います。

このドラマに触れるまで、“エンディングカット”の存在をご存じない方もいらっしゃると思います。数年前より少しずつ広がり始めているこの活動は、数ある大切な人とのお別れのうちの一つであると思います。演出を務めた立場として、このドラマをきっかけにエンディングカットというお別れの方法があるということを伝えられることができればと思っています。ぜひご覧ください。