戦後~50年代コラム

構成 高橋才也
2022年4月20日 午後2:19 公開

🎬1948年「赤い河」公開

戦後アメリカの人々が夢中になった西部劇。70年以上前の名作「赤い河」を観なおすと、あまりにマッチョな価値観に驚かされます。
主役のジョン・ウェインは拳で人を黙らせる、愛すべき頑固おやじ。当時の人々は、こういう男性を求めたんですね。喧嘩上等、弱者への差別は当前。今や完全にアウトな男性像…隔世の感があります。
しかし、そもそも私がこんな感慨を持つのも、当時は蔑視され隅に追いやられていた少数派の価値観が、70年の歳月をかけ徐々に世界的にリベンジしてきたお陰です。いま善しとされている価値観だって、70年後にはどうなることやら…「赤い河」はそんな風に考えさせられる傑作なのです。
例えば、監督が思い入れたっぷりに描く女性像…男に一歩も引けを取らず、言葉も、銃も巧みな、良い女ですが…後世の批評家にかかればツッコミどころ満載です。大衆映画の魅力とは、そんな批評を越えてなお、時代の精神を活き活きと伝えてくれる所にあるのかも知れません。

🎬1950年「ローマの休日」公開

「共産主義への恐怖」がアメリカを狂わせた「赤狩り」の時代。ハリウッドの関係者にとっても、不信、裏切り、密告の時代にこの映画は作られました。
リベラル派の監督・ワイラーは、赤狩りで仕事を干された仲間を集め、監視の目が届かないイタリアで「ローマの休日」を撮り上げます。一見「ロマンチックなおとぎ話」…でもそこに「不信と裏切りを越えて行こう」というメッセージを込めました。
娯楽映画は、政治から逃げ出した場所で作られる物ではなく、政治色をあえて脱色してみせているだけ。大衆文化も侮れない…そんな風に思わせてくれる名作です。
「赤狩り」は、民主主義が容易に排他的になることを示したアメリカの黒歴史ですが、サブカルチャーにだって、似たような危うさが潜んでいます。小さな声に耳を傾けなければ、少数者が迫害される時代がきっとまた繰り返されるに違いありません。

🎬1959年「お熱いのがお好き」公開

イギリスBBCが世界の映画評論家253人に聞いた「史上最高のコメディ映画ベスト100」で、「お熱いのがお好き」は1位に選ばれました。わずか数年前の話です。
不朽のコメディの条件とは…根幹に笑えないほど重いテーマがあり、にもかかわらず、笑いに変える卓越した技がある…そんな映画が選ばれているようです。
「お熱いのがお好き」のプロットは…男性が「女装」を通してセクハラやジェンダーについて考えさせられる…というもの。当初、主役候補だったフランク・シナトラは、これを嫌ったようです。一説では、彼が女装を拒否し、辞退したと伝えられます。保守的なスターにとって「女装」は笑えない倒錯にしか思えなかったのかもしれません。代わって登板したジャック・レモンは、「男社会」を女として生きる男の役を演じ切り、笑いの渦を巻き起こしました。彼が「私は男だ!」と明かすラストシーン…それでも、相手男性から結婚を迫られ続け、当惑する彼の表情が忘れられません。
   

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