シーズン3 第3回 “引き裂かれる”80年代という時代の“映り込み”

プロデューサー 丸山俊一
2023年3月17日 午後3:31 公開

日本編第2回70年代編、ご覧いただきありがとうございました。60年代からの空気の変化、その中であぶり出されたものなど、映像を通して、見る方によって様々な感慨があったのではないかと思います。若い世代の方がまだ生まれていない頃の日本を別の国を見るような思いで新鮮に感じてくだされば、それももちろんうれしいのですが、その時代を生きた方にも懐かしくも新たな発見をあることを願っています。その時代をいくつの頃に、どこで、どのように経験したのか?それによっても、映像から喚起される想いはまた大きく異なることでしょう。

映像制作に携わる人間として、特に複雑な感慨を抱くのは「映り込み」という現象です。もともと、映像は、映画でもテレビでも、監督、ディレクターなど、映像化を進める中心人物のイメージ、想いだけでできあがるものではありません。出演者、カメラマン、照明、音声、美術…、様々な関わってくれるスタッフたちとの連携プレーの中、彼ら彼女らの意識、無意識のアイデアで、いつの間にか、画面の構成は微妙に変化していきます。仮に「主役」にフォーカスしていても、「脇役」の方に存在感が、背景からにじみ出るものが…、様々な時に意図、時に偶然の「映り込み」が、その一回の撮影、収録の中で生まれます。さらに、ドラマ、ドキュメンタリーを問わず、たまたま生まれたその場の状況が「映り込んで」しまうわけです。
その図らずも画面の中に入り込んだ一つのモノから、色からイメージが広がり、言葉にならない想念が広がります。見る人によって感じ方も千差万別、そこにいつも映像ゆえの難しさと面白さが共存します。誤解を恐れず言えば、番組の単一の「ねらい」はいつも裏切られ、同時に無数の解釈の豊かさもそこに生まれるとも言えます。
そうした意味で、各回、各時代で本当に様々な時代の空気の「映り込み」があるのを味わうことが、見る方によって発見をしていただくことが、この企画のベースにある醍醐味なのはもちろんなのですが、この80年代は、さらに不思議な奇妙な、引き裂かれる想いの「映り込み」が特に多い時代と言い得るかもしれません。

「歯を食いしばった道化」たちの戦い

「経済大国」日本に世界の注目が集まった80年代前半、全開した消費社会の中で、時の人、糸井重里さんを象徴としてコピーライターの時代、広告の時代が訪れます。時代を切りとる「言葉の狩人」がスターとなり、人々から羨望の眼差しを向けられる時代。糸井さんの事務所でのアルバイトからスタートした林真理子さんもコピーライターとしでデビュー、その後エッセイ集「ルンルンを買っておうちに帰ろう」もベストセラーとなり時代の寵児になっていきます。
時代の華やかスポットライトは広告業界ばかりでなく、アカデミックな分野にも当たります。京大人文研助手の浅田彰さん、東京外語大アジアアフリカ研究所助手の中沢新一さんが、新しいアカデミズムのスター、「ニューアカデミズム」の旗手として脚光を浴びるのです。そしてこの時代ならでは空気は、学術と芸能との境界線も軽々と越えていきます。浅田さんと当時人気絶頂のお笑いグループ・とんねるずの対談企画が、雑誌「広告批評」で実現してしまうなど、いかにもこの時代ならではのエピソードだと思います。

華やかな時代、しかし、その光のまばゆさばかりに目を奪われていると、大切なことを見逃してしまいそうです。スターとなった彼ら彼女らの多くは、時代の大波の中で「引き裂かれる」想いを持って、戯れつつも戦っていました。その相手は、大衆消費社会だったのか?高度化する資本主義だったのか?それでもまだ捉えきれないような、戦後日本の構造だったのか?日本社会の空気という魔物だったのか…?
いずれにせよ、この時代の大きな波の中では、「スター」も「庶民」も、ある種の「明るさ」の中で踊ることを楽しみつつも、楽しまざるを得ないというような、両義的な感情がそこにあったように感じます。明るさの中にあった、不思議な戯れと戦いの共存。そう言えば、浅田彰さんが、当時新聞のインタビューで、糸井重里さんについて「歯を食いしばった道化」と答えていたことを思い出しますが、これは言い得て妙と思います。糸井さんに限らず、この時代のカルチャーシーンの最前線にいた人々には、どこか皆共通するところがあったの感覚ではないかとも思うのです。戯れと戦いに引き裂かれた80年代という時代、人。

虚実の被膜 戯れと緊張感の狭間で

さて資本主義、大衆消費社会の大波の中で表現し続けた、多士済々。今回もYMOに始まり、様々なアーティスト、クリエーター、表現者たちの作品が時代を駆け抜けていく様をご紹介します。80年代はお笑いブーム、女子大生ブームなど、フジテレビの「軽チャー路線」が一世を風靡したわけですが、そうした時代のギャグ、ユーモアのセンス、空気を取り入れつつも、またそこに緊張感を持ち込んだ作品も多数存在しているのです。
「家族ゲーム」(83年)「逆噴射家族」(84年)などでは、ユーモラスにシニカルに家族の形が問われ、またワイドショーブームをナナメに斬った「コミック雑誌なんかいらない!」(86年)、さらに異色ドキュメンタリーの「ゆきゆきて、神軍」(87年)なども登場します。そしてその観客たちの反応まで含めて、虚実の被膜の中にあった、現実と虚構の境目があいまいになった、不思議な80年代という時代のリアル、あらためて垣間見えるかもしれません。
続きは、どうぞ本編で。
今を知る為にこそ、過去へ飛べ。

 


 

シーズン3 日本 逆説の60-90s 第3回
3/19(土)午前0:00~1:30 ※18(土)深夜 BSプレミアム

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