90年代コラム

ディレクター 中村市子
2022年5月27日 午後1:00 公開

🎬1990年「ゴースト/ニューヨークの幻」公開

1990年は、ニューヨークの殺人事件の被害者が2,245人とピークに達した年。治安悪化が大問題となりました。同年ヒットした「ゴースト/ニューヨークの幻」は、恋愛と陰謀の話。治安をテーマにした作品ではありませんが、ブルックリンのマートル・アベニュー駅などのエリアを劇中に登場させて、ヤバめの街の雰囲気を高めています。
殺されてゴーストとなる主人公の候補には、なんとブルース・ウィリスの名も挙がっていたそうです。でもディレクターNとしては「ダイ・ハード(なかなか死なない)」を演じた俳優には、一番向かない役では…と感じました。個人的には、日本のホラー「リング」(98年)にハマった世代です。その後、ブルース・ウィリスが満を持して(?)「シックス・センス」(99年)に登場したときに、「この世に想いを残して亡くなった人々」の悲しみにようやく共感できました。

🎬1993年「ジュラシック・パーク」公開

1993年は、自由貿易を拡大する新ルールに世界が揺れた年。GATTウルグアイ・ラウンド交渉の大詰めで、フランスとアメリカの激しい攻防がありました。ハリウッドの勢いに押されるフランスは、文化的なアイデンティティを守るため、映画の自由化に反発。同年公開中のヒット作品「ジュラシック・パーク」こそ、フランスにとって脅威と感じられた典型的な映画でした。もちろん多くの人々は、スピルバーグ監督の映像の魔法の虜になり、国境を越えた熱狂の渦に巻き込まれて行きます。
一方、恐竜が人を食い殺すシーンについて気遣ったスピルバーグは、8歳以下に見せぬよう警告。不満を抱いた少年が、抗議の手紙を送り話題となりました。公開当初、8歳以下の観客は僅か2%。ディレクターNも当時小学生でしたが、周囲でジュラシック・パークは全く流行っていませんでした。むしろ「劇場版ドラえもん」を観たか否かが、クラス内でのステイタスに関わる重要案件だったことを憶えています。

🎬1998年「トゥルーマン・ショー」公開

1998年当時、世界的な広がりを見せていたリアリティ・ショー番組をアイロニカルに描いた作品として大ヒットした「トゥルーマン・ショー」。いまやSNSで私生活が切り売りされ、ネットで個人履歴が監視される時代を生きる私たちにとって、先見性を痛感する作品です。
映画のロケ地は、フロリダに実在する計画都市シーサイド。古き良き時代のアメリカの街並みを再現し、住民が町への帰属意識を強く持つようにデザインされたそうで、「人工的」な雰囲気がとても印象的。ディレクターNも映画を観てから数日間は「自分の両親がじつは雇われた俳優」という脳内設定で暮らすことにハマってしまいました…。
アメリカの精神科医たちは「トゥルーマン・ショー妄想」という用語を生み出したほど、「周囲の現実が全部嘘」という感覚と、「でもそれを現実として生きよう」とする性質が、多くの人に備わっているのかも知れません。「マトリックス」(99年)など、こうした感覚を刺激する傑作が次々と誕生したのが90年代の終盤でした。

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