シーズン2 第1回「少し長い予告編」

プロデューサー 丸山俊一
2023年2月3日 午後2:00 公開

シーズン2「逆説の60-90s」 第1回は60年代ヨーロッパ各国の空気とリアル

戦後世界はいかにして現在の姿に?
反響が大きかった「アメリカ編」に続き、シーズン2はヨーロッパ編を全4回で、60年代から90年まで辿ります。
第1回は、60年代。東西冷戦の真っ只中にあった60年代。超大国の論理に翻弄された欧州各国の社会の空気の変化、大衆の欲望の形は?
イギリス、フランス、イタリア、ドイツ…。人々の欲望は、世界で爆発した。各国に、星条旗の国からなだれこむ魅惑の商品の数々。そして、きらびやかな音楽。憧れのアメリカ。その強烈な光と影の中で、ヨーロッパも自国の夢を、自分の夢を、探し始めていた。

イギリスの作家D・J・テイラーは言う。
「ビートルズを聴きながら原爆やベトナム戦争を心配している…不確実な時代であると同時に展望とチャンスがあるように見えた時代でした」
イタリアの映画監督であるディディ・ニョッキも口を揃える。
「60年代には 未来への希望がありました」
しかし、希望はほどなく不満、失望へと変わっていく。各国で一斉に始まる、若者たちの反乱。一気に燃え上がったのも、示し合わせたように同時だった。世界の意識をつなげたもの。その正体は何だったのか?

物質的な豊かさを享受する一方で、近代化への反抗を試みた、若き世代の引き裂かれる心の内を追う。超大国アメリカとの緊張関係にあったソ連の大衆の心の底にあった想いも、いかなるものだったのか?

「甘い世界」が描き出す 苦い現実の意味するもの

アメリカから押し寄せる大量消費文化に 欧州各国の人々も気分を高揚させていく。戦後の豊かさの中、イタリアの大都会、ローマも華やかな空気とともに繁栄を謳歌していた。だが、そこに忍び寄る微かな不安、急速な都市化の歪み…。
1960年に公開された映画「甘い生活」は、繁栄の陰に隠された、イタリア社会の変化をあぶりだそうとしていた。第1回60年代編の冒頭を飾るのは、巨匠フェデリコ・フェリーニと名優マルチェロ・マストロヤンニによる「甘い生活」だ。

マストロヤンニ演じる主人公は、作家を志し、地方からローマに出てきたが生活のため、芸能記者の道へ。追いかけるのは、芸能人のスキャンダルや残虐な殺人事件。超能力などの怪奇現象。ゴシップに群がる、いわゆる「パパラッチ」となっていく。ちなみにパパラッチとは、うるさい「やぶ蚊」を意味するイタリア語で、この映画をきっかけに世界に広まったと言われる。
いつの間にか、文学、報道という志を捨てて、享楽的な日々の過ぎ方にどっぷりとはまり、もはや抜け出せなくなってしまった主人公、マルチェロ。今夜も、資産家の別荘で、一晩中、乱痴気騒ぎする…、空しく自己嫌悪を感じながらも。時代の変化が人を変える。
「甘い生活」という名で描かれた、精神の荒廃という「苦(にが)い現実」。そこに、大衆娯楽映画の装いの中に、変わりゆく、リアルなローマの現実を描きだそうとしたフェリーニの企みが見える。
だが、人々の欲望は止まらない。自らの現実から目を背けたい心理は、今も昔も変わらない、というところだろうか。戦後、経済と科学の力で実現した高度成長、豊かさの中で、劇的に変わり始めた人々の意識、ヨーロッパ各国…。

フェリーニが、これからの時代を暗示して描き出していたシーンを味わった後に、物語の舞台はフランスへ飛ぶ。さて「ヌーヴェル・ヴァーグ」の中に映し出されていた時代は?

 


 

シーズン2 逆説の60-90s 第1回
2/4(土)午後11:00~翌0:30 BSプレミアム

第1回 60年代の作品情報はこちら