2010年代コラム

構成 高橋才也
2022年6月24日 午後1:00 公開

🎬2013年「ウルフ・オブ・ウォールストリート」

みんな慣れてしまったのでしょうか。「ウォール街」(87年)よりさらに恥ずかしげもなく「強欲」にまかせて、金融業界を泳ぐ人々のお話。その「過激さ」がインフレを起こしているのは、なにも実在のモデル、ジョーダン・ベルフォートを主人公にしているからではなく、強欲が当たり前となってしまった今を象徴しているような気がします。ジョーダンの回想録『ウォール街狂乱日記』の映画化権を獲得したレオナルド・ディカプリオは「一歩間違えば、僕だってジョーダンのような生活を送っていたかもしれない」と述べています。主演と製作を兼務した彼のファンサービスの言葉ですが、彼はこう続けるのです。「興味深いと思ったのは、加速度的に破滅へ向かっている億万長者… 危険で、明るい未来が待っているようには思えないのに、ライフスタイルを変えようとしない」。こうした人々が確かに存在し、現代の問題を象徴している…とまで、ディカプリオは語ります。自分もジョーダンのようになっていたかも…という彼の言葉は 案外、同時代人としてのホンネなのかも知れません。

🎬2015年「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

石油をめぐる争奪戦を描いた「マッドマックス2」(81年)から30年を経て、ジョージ・ミラー監督が映画化したのは、「人」の奪い合い。主人公マックスは「輸血袋」として扱われ、女性は「子産み女」として扱われる…そんな「人=材・争奪戦」を描こうと考えたのです。ところが、この映画のボイコットを呼びかける団体が現れました。男性権利擁護活動団体Men’s Rights Activistsです。本作はフェミニストのプロパガンダで、映画界のリベラル派がまたしても男性の権利を侵した…と訴えました。シャーリーズ・セロン演じる女戦士・フュリオサについて、「フェミニズムにへつらい、現実にはありえない女性キャラに、主役を奪われた」と主張。他方で、ミラー監督の驚くほど緻密な戦略も報じられました。出演者に女性たちの役柄を深く理解してもらうため、高名なフェミニスト劇作家のイヴ・エンスラーをロケ現場に招いて、世界の紛争地域の「女性への暴力」について講義を行ったというのです。時代にキャッチアップする映画は、今やそこまでしないと撮れないのかも知れません。

🎬2019年「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット演じる50年代ハリウッド・ヒーロー2人組が、60年代のヒッピーに振るう暴力が、とにかく酷い。彼らは嫌いなのです。髪や髭を伸ばし、緩やかなファッションに身を包み、コミュニティを作り、マリファナを吸う若者が。舞台は69年。この年公開された「イージー・ライダー」の主演デニス・ホッパーのことも、主人公はさぞ憎いのだな…と伺わせるシーンも。若者に媚びた「アメリカン・ニューシネマ」の台頭で、古き良き職場が荒らされたからでしょう。大雑把に言えば、保守vs.革新ですが、監督のタランティーノ自身は、「現代に通じる変化の時代」を描きたかっただけで、保守に味方している訳でも無いし、デニス・ホッパーが大好きだと語っています。一筋縄ではいきません。「どっちもどっち」のアメリカの保守vs革新…皮肉を込めて描き切ろうとする監督の熱意は凄まじいものがあります。この暴力どう観たら良いの? と眉をひそめる人もいるでしょう。題名をみると…「昔のお伽噺さ」というタランティーノの笑顔が浮かんでいます。

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